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東方月兎騙  作者: 雪代
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第五話 ウサギ仕掛ける






 この前、月は平和だと言ったな。


 アレは嘘だ。


「「「うわあああああああああああ」」」

 現在の状況を一言で説明すると。


 絶 賛 ク ー デ タ ー 中 で す !


 飛び交う銃弾、弾ける血飛沫、響き渡る悲鳴。

 どこの紛争地帯だ、と言わんばかりの戦争状態。

 と言うか月でこんな穢れの生まれそうなことしても良いのか、と疑問に思うのだが、豊姫様たちが是としているのなら良いのだろう。そもそも私の預かり知るところではない。

「って、うわ!!!」

 今銃弾が眼の前を掠めて行った?!

 よく見れば敵がこちらを見つけて銃を構えている。

「っく………………撃てっ!!」

 兵士を指差し、叫ぶ。

 同時に周囲の空間に無数の銃弾が出現し、指差した方向へ…………兵士の下へと殺到する。

 兵士を無数の銃弾が貫…………かない。

「危なかった…………ちょっと油断したわね」

 この弾は私の能力で光を操っているから銃弾に見えているだけで、実際は衝撃波で形成された空気の塊りだ。

 だから人の体を突き破るような力は無い…………とは言ってもあれだけの数だ、実際に銃弾が着弾したような痛みに襲われているだろうが。

 空気を衝撃波で加圧して圧縮、衝撃波で空気の塊を多い銃弾を形成し自身の周囲に展開しておく。

 そうしてタイミングが来たら、空気弾の表面の光の屈折を操り、銃弾であるかのように見せかける。

 発射する時は撃鉄の代わりに後ろから衝撃波を送ってやれば秒速百二十メートルの魔弾の完成。

 突然出現する無数の弾丸の絡繰はつまりこうだ。さらに、光を操らなければ、見えない弾丸に早代わりする。


 だがこんなこと、普通できない。

 と言うか私の能力が無ければ思いつきもしないのではないだろうか?

 そもそも本物の銃があるのに、どうしてこういう回りくどいことをするのか…………。

 答えは簡単。


 怖がらせるためだ。


 …………別にふざけているわけではない。

 私が豊姫様から与えられた命令はソレなのだから。




「と、言うわけで…………レイセン、あなたにお願いするわ」

「…………はい?」

 数時間前の底冷えするような笑みが嘘のような、いつも通りの楽天的な笑み。

 けれどまだどこか背後に黒いオーラのようなものが見えるのはきっと私の気のせいだと信じたい。

「やーねえ。聞いてなかったのかしら? 私たち側から戦争に参加する兵をあなたにお願いすると言っているのよ、レイセン」

「………………………………戦争、ですか?」

 と言うか、結局客人が帰ってから今こうして豊姫様に呼ばれるまで一度も豊姫様と会ってなかったのだが、この人は私たちが隣の部屋にいたことを知っているのだろうか?

 いや、私をあの時間に呼んだ、と言うことは聞かせるために呼んだのでは…………?

 けれどあれは依姫様が勝手にやったことかもしれないし…………。

 とまあそれは置いておいて、今は先の発言に関して考えよう。

「戦争とは?」

 私の疑問に豊姫様が答える。

「…………バカがバカしたせいでバカな事態になっているのよ」

 聞いた瞬間後悔した…………今のは地雷だった。

 一瞬で部屋の温度が下がった気がする。

「そ、そうですか…………と、とりあえず、軍で訓練も受けていますし、行けと言われれば行かないわけにもいきませんが…………私の他には誰が?」

 正直同僚の玉兎たちが使い物になるとも思えないし、もしかすると依姫様もいらっしゃるのだろうか?

 そんな私の疑問に、豊姫様が不思議そうな顔をして。

「あなた一人よ」

 あっさりと、そう答えた……………………って、え?

「…………聞き間違えたんでしょうか? もう一度言ってもらえますか?」

「だから、私たちが出す戦力はあなた一人よ」

「そんなバナナ?!」

 いけない、動揺し過ぎて思わず前世紀のギャグが…………。

 そんな私の動揺を見て笑いながら、豊姫様が続ける。

「アレらのために一々こちらの力を貸していたのではこの先切りがありません…………だからこそレイセン」


 相手の駒全て恐怖に染めてきなさい。


「三度目は無いわ…………それを彼らに教えてきてあげなさい、レイセン」



 以上、回想終了。


 うん、最後の辺りの豊姫様は怖かった。

 と言うか、この話が本格的に地雷だったらしい。

「…………でもだからって一人は無いと思うんですけどねえ、豊姫様」

 愚痴を零しながら狙撃銃の引き金を引く。鎮圧用ゴム弾だが、狙撃銃の火力で頭部に直撃すれば人が吹き飛ぶ。

 死にこそはしていないが、一撃で意識を刈り取る程度のことはできる。

 だが今ので狙撃の方向が割れたので、移動。道中に出合った敵を空気弾で撃ち抜き別の場所で狙撃。



「依姫様は出ないのですか?」

「あら、軍務のトップに出ろだなんて、中々大胆な発言ね、レイセン」

「え、いや、そういう意味では」

「ふふ…………冗談よ。ただ依姫は別の仕事があるのよ。大事な、ね」

 だからお願いレイセン。

「頼めるのはあなたしかいないの」

「………………了解です」



 あれはずるいと思う。

 あんな風に頼られては断れないではないか。

 別に月の民がどうなろうと知ったことではないが、豊姫様はどういう形であれ私を保護し、これまで育ててきてくれた恩人だ。その恩人にあんな風に頼まれれば、やるしかないではないか。

「さて…………行きますか」

 狙撃銃に次弾を装填し終えると、私は駆け出した。



 ところで、だが。


 恐怖とは一体どういうものに感じるのだろう。


 自身の命を脅かす危機? それもあるだろう。

 最早どうしようも無い状況? それもあるだろう。

 

 だが一番の恐怖は未知だ。


 生物の最も本能的な恐怖。


 それが、理・解・で・き・な・い・こ・と・。


 それを擬似的に再現するために。


 今回は突然現われる銃弾に、見えない弾丸。そして狙撃と言う、徹底的に視覚を騙すことにした。


 さらに人数が多ければ集団で幻覚をかけたりして混乱を助長してやる。


 後はもうこの辺り一体に方向感覚を狂わすように波長を飛ばしてやれば完璧だ。


「さあ…………狂いなさい」


 方向が分からず道に迷い、次第に視界におかしなものが見え始め、見えない場所から次々と仲間が倒されていく。


 その混乱が、その狂気が。


 恐怖を育てるのだから。


 敵・味・方・の・区・別・も無く…………ね。


「それにしても…………けっこうえげつないなあ、豊姫様」





「ああ、それとね、レイセン」

「はい。何でしょうか?」

「敵味方の区別はつけなくてもいいわ、その代わり殺しちゃダメよ?」

「…………は?」

「ついでだから彼らにも教えて上げなさい。恐怖と言うものを…………」


 私たちの恐ろしさと言うものを、ね。






クーデターの詳しい状況は次ですかね。

ていうかそろそろ月編は終わって地上編に移行するかも。


因みに味方と言うのは前回出てきた山幸彦の兵たちです。

敵と言うのは火照の兵。

まあ分かりますよね。


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