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side story  作者: 夜音沙月
9/43

white flower

 今日は特別な日だから。


―― white flower ――


 一段と冷えこんだ冬のある日。

 十二の月の下旬にもなれば、本格的に寒くなる。

 数日前に降り積もった雪はまだ溶けきらず、窓の外には見事な雪景色が広がっている。白い世界は、見ているだけでも溜め息がこぼれそうなくらい綺麗だ。

 この日は、前から決めていた休日。朝から暖炉の前でゆっくりできるのも久々で、嬉しい。

 暖炉の右側、窓を背にして置かれているソファーに腰かけ、のんびりと本を読んでいた。そうして、午前中の半分を過ごし、あと数刻で正午になるころ。

 この国の王であるアヤが居間に入ってきた。

 深い赤色のポンチョに白いマフラーを着ている。今すぐにでも外に出られそうな格好だ。


「タクト、一緒に出かけない?」


 予想通りの問いかけ。きっと、断られたら一人で街に行くつもりでいるのだろう。


「ちょっと待ってて、準備してくるから」


 読んでいた本に栞を挟み、本を閉じる。そして、街へ行く準備をするために自室へ向かった。

 アヤからのお誘いは、余程のことがない限り断らない。誘ってくれることが嬉しいし、相手が好きな人でもあるから、断る気にならない。

 一旦自室に行き、外に出ても寒くないようにコートとマフラーを身につける。

 再び居間に戻ると、アヤが嬉しそうに笑って


「行こっか」


 と言った。




 予想通り、外は寒かった。けれど、街の賑やかさや温かい雰囲気が心を和ませてくれた。

 雑貨屋やアクセサリーの店など、いつものように見て回る。

 特に何かを買うわけでもないが、見ているだけでも楽しかった。

 そうして、正午を回ったころ、よく二人で入る店で昼食をとった。

 そのあとも、何軒か見て回り、おやつの時間にカフェに入った。

 ゆっくりと休憩していると、窓の外にちらちらと舞う白い花が見えた。


「雪、だね……」


 隣で紅茶を飲んでいるアヤが、ぽつりと漏らす。


「そうだね。今日は早めに帰ろうか」


 これからもっと冷えるであろうことを考え、アヤが風邪をひかないように早めに帰ることを提案した。


「……うん」


 アヤからの返答には、ほんの少し淋しさが含まれていた、気がした。

 紅茶を飲み終え、カフェを後にする。

 店内で見た時よりも少し多く舞う雪。なるべく廂のあるところを歩き、城へ向かう。


「傘、持ってくればよかったね」

「うーん、でも、降らないと思ったんだよね。それに、これくらいならまだ平気だよ」

「そう? 気をつけてよ? アヤって、意外に風邪ひきやすいから」

「そんなことないよ。ただ、ちょっとしたことがあって風邪ひいただけだもん」


 昨年のことを言っているのだろう。確かに、いじめられて困っていた女の子を助けるという、ちょっとした事が原因で風邪をひいていた。


「アヤは、優しいからね」

「……でも、もっと効率的な方法もあった」


 アヤが助けた女の子は、マフラーを木の上にかけられていて、それが取れずに困っていた。それを見たアヤは、木に登ってマフラーを取ってあげた。そこまではよかったのだが、足を滑らせて木から落ちたらしい。雪が積もったあとで、大きな怪我はしなかった。が、雪まみれになったアヤは、次の日に熱を出した。

 アヤが女の子を助けた話は、本人から聞いた話ではあるけれど、詳しいことは知らない。

 ただ、何故アヤは魔術を使わなかったのか。

 今の状況においても、同じことが言える。傘を持たない人は、魔術で何とかしている人が多い。それでも、アヤは魔術を使おうとしない。


「それは、今も、でしょ?」

「……まぁね」

「知ってるよ。アヤが力を使いたがらない理由」


 ちゃんと判っている。

 アヤは、自分の大きすぎる力が、誰か他の人を傷つけてしまうことを恐れている。だから、すぐには魔術を使わない。使うのは、誰かを守るためや、必要な時くらいだ。


「うん。でもね、その理由の他にも、魔術を使わない生活が気に入っている、っていうのもあるんだよ」

「それは僕も同じだよ。いいじゃん。他の人が力を使ってても、僕達はこっちが気に入ってるんだから」

「そうだね。あっ、ちょっとだけ待っててくれる?」


 そう言ってアヤが向かったのは、道を挟んだ向こう側に並ぶ店だった。花屋、みたいだ。

 店側が売り出している、小さな花束を指差していた。その他に、何か頼んでいるようだったけれど、道を挟んだこちら側からでは、よく判らなかった。


「お待たせ」


 少しして、アヤが戻ってくる。

 購入した花束は、袋の中に入れられていて、どんなものかは判らなかった。




 夜、夕食を終えると、今で午前中に読んでいた本の続きを読んでいた。すると、アヤがケーキと紅茶を持って入ってきた。

 目の前のテーブルに準備されていくのを見て、本に栞を挟んだ。

 準備を終えたアヤが隣に腰を下ろす。


「タクト」

「ん?」

「誕生日、おめでとう」


 あぁ、だからケーキがあったのか。


「ありがとう」


 切り分けられたケーキは、きっと、いや、絶対にアヤの手作りだろう。


「おいしいよ」


 食べた感想を口にすると、アヤは花が咲くように笑った。ほら、やっぱり。

 先にケーキを食べ終え、紅茶だけになったころ。アヤが居間を去った。かと思うと、すぐに戻ってきた。小包と、小さな花束を手にして。


「これ、誕生日プレゼント」


 小包と花束が手渡される。


「ありがとう」


 渡された花束を見たら、思わず口元が緩んだ。

 色とりどりの花の中に、アヤが意図的に入れたと思われる花があった。

 小さな薄い紫色の花と、少し大きめの白い花。

 その花言葉を、アヤも知っているのだろう。でなければ、わざわざ花束の中に混ぜるはずがない。

 アヤが店で花を買っていた時に、店側の花束の他に注文していたのは、その二つの花だったのか。あの時気になったことが判り、すっきりした。それと同時に、嬉しいような、気恥ずかしいような、何とも言えない気持ちになる。


『大切なあなた』と『あなたに愛されて幸せ』


 それが、追加された花の花言葉。

 一緒にいることに幸せを感じてくれているようで、嬉しく思う。と同時に、照れくさいような。

 いろいろな感情が混ざったまま花束を見ていたら、なかに何か入っているのに気が付いた。

 そっと取り出してみると、薄いピンク色のメッセージカードだった。

 そこに書かれた、たった一言だけのメッセージが目に入る。

 頬が熱くなり、一瞬で顔が赤くなったのが判った。

 顔を上げて、ちらりと横にいるアヤを見る。すると、アヤも同じように耳まで赤くして、努めて冷静を装っている姿があった。一瞬だけ目が合ったかと思うと、ますます顔を赤くしたアヤが、下を向いてしまう。

 照れ屋でもある恋人は、俯いたまま紅茶を飲んでいる。

 そんな姿が可愛らしい。

 淋しがり屋で、照れ屋な恋人からの、滅多にもらえない言葉。

 もう一度メッセージカードに目を落とす。

 そこには、綺麗な筆跡で一言だけ。


『Mi amas vin.』


(私はあなたを愛しています。)


Fin.



…ひとやすみ…

 12月はタクトの誕生日。(私もだけど)

 眠気覚ましに描いた絵から浮かんできた話です。ssなのに珍しくプロットをつくって執筆しました。プロットを加筆修正しまくりました。傘の話のところはプロットにはなく付け足し、文章もいろいろ修正しました(笑)

 アヤとタクトの恋人設定は、以前からありました。今までは「大切な人」と書いてごまかしてきましたが、今回からちゃんと「恋人」表記です。ちなみに、ごまかしてきた理由は、甘々な話を書いたあとに感じるのと同じ、恥ずかしいから、です>///<

 最後の一言は、エスペラント語を借りてきました。某二次創作サイト様で読んだ、ある話で使われているのを見て、いつかその言葉を使って話を作りたいなぁと思ったのがきっかけです。

 他にも色々と語りたいことはありますが、あまり長くても仕方ないし、ただの自己満足になってしまうので、最後にタイトルのことをちょろっと書いて行きます。

 タイトルの「white flower」は、白い花である雪と、アヤがタクトに渡す白い花のことをイメージしました。


初出:H24 12/12   夜音沙月


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