マフラー
秋が来たと思えば、冬はもうすぐそこまで来ていて。
《マフラー》
久しぶりに二人そろって時間が取れた。
普段はテラスでお茶をしたり、居間として使っている部屋でゆっくりしたりする。しかし、この日は違った。アヤとタクトの二人は、軽く変装をして城下町に下りたのだった。
今は夕暮れ。
秋が訪れた首都は、陽が沈むのが早い。夕日に照らされて茜色に染まる街を、綺麗だと思っている間に、あっという間に太陽は姿を消してしまう。
中央の広場へ続く大通りには、ぽつりぽつりと灯が灯され始めていた。
不意に、風が吹き抜ける。秋とはいえ、冬が近いことに変わりはなく。その風は冷たかった。
風が吹いた時、アヤは小さく身体を震わせた。隣を歩くタクトはそれに気付き、アヤの首にマフラーを巻く。
「えっ?」
「あったかいでしょ」
驚くアヤをよそに、タクトは柔らかな笑みを浮かべて言う。
「うん、でも……」
アヤは心配そうにタクトを見た。
先程アヤの首に巻かれたマフラーは、タクトが使っていたものだった。アヤより少し薄着のタクトは、夕方になるとマフラーをつけていた。だが、アヤが寒さに身をすくませたのを見たとたん、自分のをアヤに巻いてしまったのだ。
「僕は大丈夫」
そう言って微笑んでみせるが、アヤはまだ納得がいかないらしい。
「ほら、冷えてきたし、早く喫茶店に行こうよ」
タクトはアヤの手を引いて、歩き出す。
まだ納得いかないが、こういう時のタクトは何を言っても無駄だと判っている。無理矢理自分を納得させ、アヤはタクトの隣に並んで歩く。
「……ありがと、ね」
小さな声でお礼を言われ、タクトは横を見た。
そこには、頬をほんのり赤く染めたアヤの顔があり、自然と口元が緩んだ。
Fin.
執筆H24 11/15~11/17 夜音沙月