色づく誕生日 (if話)
(※もしもタクトがアヤの誕生日を知らなかったら……というif話で書いてます。)
誕生日なんて、ただの日常。いつも繰り返す日々とそんなに変わらない一日。
そう思うようになったのは、きっと祝ってほしい人がいなかったから。周りにいる人たちも祝福してくれる。それでも、一番祝ってほしいと思っている人が傍にいない。その事実が辛くて、自分の誕生日は何気ない日常にある一日だと思うように、思い込むようにした。自分だけが、その日は少し特別な日だと知っていればそれで充分だった。
夏が過ぎて、空気が少しずつ冷えていく季節。緑色の葉も色づき、秋色に染まったころにアヤの誕生日がやってくる。
何の変哲もない一日にある誕生日は、休日でもない限り学校がある。それは今年も変わらなかった。
中等部に学年が上がってから、アヤは自分の誕生日を隠すようになった。
そのためか、アヤの誕生日を知るのは付き合いの長いユキと高等部になって親しくなった友達だけだった。アヤ自身もそれで構わないと思っていた。親しい人達から祝福の言葉をもらえればそれだけで充分だと。
だから、今年の誕生日は失念していた。
放課後になると、アヤはいつものようにハルルが改装した古代文字資料室を訪れた。
「いらっしゃい」
先に来ていたハルルが快くアヤを迎え入れる。
「座ってて。今お茶もっていくから」
「ありがとう」
アヤがソファーに腰をかけぼうっとしていると、ハルルが紅茶とケーキをもって現れる。
「アヤちゃん、誕生日おめでとう」
そう言ってハルルは、テーブルの上にカットケーキを置く。
「ありがとう、はるるん」
二人が仲良くなってから、毎年この古代文字資料室で細やかな誕生日会をしていた。それも今年で三回目になる。
「ここでお祝いできるのも、今年が最後だね」
ハルルが少しだけ淋しそうに呟く。
最終学年のアヤは、卒業したら学校に来ることはなくなる。こうして放課後に細やかなお茶会をすることができるのも、あと半年程度で終わりを迎える。そうなったら、恒例になりつつあったこの誕生会も出来なくなってしまう。
「そうだね。でも、はるるんのことだから、来年からは家に来そうな気がするよ」
「その手があったね」
アヤの一言に、ハルルは名案と言わんばかりに嬉しそうな声をあげる。
そんな様子のハルルを見て、言うんじゃなかったと後悔しながらも嬉しさを隠せずに口元が緩んでしまう。
いつものように二人で穏やかな時間を過ごしていると、古代文字資料室のドアが叩かれる。
ハルルが返事したあと、扉を開けて入ってきたのはアヤの恋人であるタクトだった。
「タクトくんもケーキ食べる?」
「いいんですか?」
「今日は特別な日だから」
嬉しそうに言うハルルに、タクトは不思議そうに首を傾げる。
「特別な日?」
「そう。アヤちゃんの誕生日」
「えっ?」
思いがけない事実に驚いて、タクトは思わずソファーに座るアヤを見る。
タクトの視線を受けたアヤは、気まずそうに身を縮めた。
そんな二人を見たハルルは、タクトのケーキと紅茶を取りにそっと席を外す。
「今日、誕生日なの?」
「……うん」
「そっか……」
アヤに確認をとり、ハルルの言葉が本当であったと知り何とも言えない気持ちになる。
「そういう大切なことは教えてほしかった……けど、違うね」
タクトは言いかけた言葉を途中で止める。アヤの傷ついたような表情が目に入り、それが失言だったと気付いたからだった。
「今まで聞かなかったもんね。だから、そんな顔しないで」
優しい声で声をかけ、アヤの隣に腰をかけて頭をそっと撫でる。
「自分に嫌気が差しただけで、アヤは何も悪くないんだから」
「でも、私も言わなかった……」
俯いたアヤが、弱い声で答える。
何で教えなかったんだろう、話す機会なんていくらでもあったはずなのに。言っておけばよかったと後悔してももう遅い。
「多分、無意識に言わなかったんでしょ」
アヤの心を読むかのようにタクトが声をかける。
「アヤのことだから、きっと何かあったんだよね」
どこまでも見透かすような言葉に驚いて顔を上げると、そこには優しく笑うタクトがいた。
「今は詳しく聞かないよ。アヤが話してもいいって思えるようになった時にちゃんと聞くから。だから、まずは誕生日おめでとう。今知ったばかりだから、何もないけどね……」
そう言ってタクトは困ったような表情で笑う。
「うん、ありがとう」
何も聞かないでいてくれることに、欲しいと思っている言葉をくれたことに、いつだってアヤのことを考えてくれるタクトに感謝の気持ちをこめて、ぎこちないけれど今浮かべられる笑顔をのせて伝える。
「お祝いはまた別の機会でね」
「うん」
「おまたせ。はい、タクトくん」
二人の会話が落ちついた頃、ハルルがタクトの分のケーキと紅茶を持って戻ってくる。
空気を読んでタイミングを計っていただろうに、さり気なく登場するハルルに二人は心の中で感謝の言葉を送る。
その後はいつものように穏やかな放課後を過ごして別れた。
今年は、いつもより素敵な一日になった。
朝、今まで一番祝ってほしいと思っていた人たちから祝福の言葉をもらって、夕方は今までのことを思って教えないでいたことを受け止めてくれる人がいて。もう、何気ない日々のうちの一日だと思わなくていいのだと、来年からは特別な日として過ごせそうだと思えた。
――fin.
お久しぶりです。
前の話を載せてからだいぶ時間が経ってしまいました。
今回はアヤの誕生日の話です。一番上に※でif話であると書きましたが、今回は『もし、タクトがアヤの誕生日を知らないでいたら』というもしもの設定で書いてみました。というのも、自己満足ですが、書きたいことがあったからif話にしてみたんです(笑)。
記憶がうろ覚えですが、小学生高学年のころ、自分の誕生日を嫌になりかけたことがありました。国民の祝日である私の誕生日は、毎年学校が休みで友達から誕生日当日に祝福の言葉をもらうなんてことはなかったからです。祝日生まれであることは変えられない。どうせ当日に祝ってもらえないのなら、最初から諦めてしまえば、望まなければ傷つくことなんてない。そう思った時期もありました。そんなこんなで浮かんできた話です。
書きたいことが書けたので満足してます(笑)。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
2020.10.20 (執筆10/18-10/20)




