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side story  作者: 夜音沙月
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【理解者たちのティータイム】 傍にいる理由

 ずっと不思議に思っていたことがある。

 私の親友、アヤちゃんの恋人のことで、ずっと気になっていることがあった。

 アヤちゃんが不在のティータイム。今なら聞けそう気がして、口を開いた。


「タクトくんってさ、アヤちゃんに助けてもらったあともずっとアヤちゃんの傍にいるよね。今は恋人同士だから当たり前なのはなのかもしれないけど、恋人になる前に、自分の道を進んでみようとは思わなかったの?」


 今、タクトくんとアヤちゃんは恋人関係にあるから、一緒にいることに違和感はない。ただ、二人が恋人同士になる前も、タクトくんはずっとアヤちゃんの傍にいた。

 アヤちゃんがタクトくんのことをアクマ側から救い出したことに感謝しているのは判っていたけれど、お礼を言って離れてもいいと思ったことがある。アヤちゃんも、タクトくんを独占するつもりは全くなかったと判っていたから、尚更だ。

 だから、タクトくんに何か理由があるのだろうと思っていた。


「僕は、アヤからいろいろなものをもらいました。返しても、返しきれないくらいのものをもらったんです。そのことにすごく感謝しているんです」


 思っていた通りの答えが返ってきた。


「それはそうかもしれないけど、アヤちゃんが自分で選んで行動したことだもの、見返りを求めていないことくらい、すぐに判ったんじゃないの? むしろ、タクトくんには自由に生きてほしいと思っていることも」


 タクトくんを助けるにあたって相談に乗っていた時、アヤちゃんはタクトくんのための他に、自分のためにも行動しようとしていた。だから、タクトくんに何か返してもらおうなど思っていないことも判っていた。

 タクトくんを救ったあと、アヤちゃんは、タクトくんに自由になってほしいと思っていたことを知っている。察しの良いタクトくんがそのことに気付かないでいたわけがない。それでも、ずっと傍にい続けたのは、何か理由があったと思うのだ。


「ハルル先生がさっきの答えで納得していないことくらい判ってますよ。でも、嘘でもないんです」

「そうだろうね」


 やっぱりタクトくんは鋭い。


「でも、本当の理由は別にあるんでしょう?」

「どうしてそう思うんですか?」


 そして、少しだけ意地悪だと思う。


「なんとなく、かな。タクトくんはアヤちゃんの望みを知ればそれを叶えようとするでしょう? でも、半ばそれを無視してまでアヤちゃんの傍にいた。だから、どうしてかなって。タクトくんの中に、何か譲れないことがあったんじゃかなって思ったの。それが理由」

「なるほど」

「まぁ、私も無理に聞くつもりはないから、話したくなければそれでいいよ。ちょっと気になっただけだから」

「ハルル先生ならそう言ってくれると思ってました」


 タクトくんはそう言って優しく笑うと、紅茶を口に含んだ。


「話したくないわけではないんで、答えますよ」


 一息吐いたところで、穏やかな声で返事があった。


「ありがとう」


 お礼を言うと、タクトくんがゆっくりと質問への答えを話し出す。


「ハルル先生は覚えてますか? アヤが僕を助けたあと、魔力の使い過ぎで数日間眠っていたこと」


 それはもう、数年前のこと。でも、しっかりと覚えていた。


「もちろん、覚えてるわよ。あの時は、すごく心配したもの」

「そうですよね」


 アヤちゃんに関わるほとんどの人が、眠り続けてなかなか目を覚まさないことを心配していた。私も、思わず毎日城に行って、アヤちゃんの様子を確認していたほどだ。


「アヤが眠っている時、少しだけアヤと同調したことがあるんです」


 魔力の波長が合うと、お互いに同調することがある。そう話には聞いたことがあったけれど、身近に同調を体験したことのある人がいるとは思っていなかった。

 余程、魔力の波長が合わない限り起こらない現象とされているのだ。

 アヤちゃんとタクトくんは、魔力でも相性が良いことを知った。


「その時、アヤは何もない真っ暗な闇の中に一人で立っていました。伸ばした手さえ、自分の目で見ることのできないくらい深い闇の中に。音もないそこは、下手をすれば自分も見失うんじゃないかと思うほどでした」


 そう話すタクトくんの声は固く、その時のことを思い出しているようだった。


「正直、怖かったです。僕は、同調しただけだったのですぐ現実に戻ってこられましたが、アヤはそうじゃないんだと思ったら、自分はなんて無力なんだろうと思いました」


 何かしてあげたくても何もできないもどかしさ。それは私も良く感じるもので、何も言うことができなかった。


「人は眠っている間の浅い眠りの時に、何度も夢を見るそうですから、ずっとその暗闇にいることはないと思うんです。それでも、僕はあの短時間でさえも恐怖を感じずにはいられませんでした」


 タクトくんにしては珍しく、本当に辛そうに話している。きっと、私の想像を超えるほどのものだったのだろう。そして、それを感じているのが自分ではなく、守りたい相手であるから尚更。


「直接アヤに聞いたことはないですけど、毎回とはいかなくても、何度かそれを体験していると思うんです」


 きっとタクトくんの予想は間違っていない。

 それを誰にも話さず、いつも笑っているアヤちゃんを思い浮かべて、やるせなさを感じる。


「アヤは、他人の迷惑になることを嫌うし、甘え方を知らないから、話してくれないだけで、本当は怖い思いを何度もしているんじゃないかって思うんです。そう思ったら、ずっと傍にいて、いつでも支えられるようにしていようって思ったんです」


 確かに、タクトくんの言う通り、アヤちゃんは甘え下手で、人の迷惑になるようなことを嫌う。だから、いつも一人で抱えこんでしまう。


「そんな小さなことしかできないのはもどかしいけれど、アヤが救いを求めた時に、いつでも手をとれる存在でありたいんです。あとは、惚れた弱みです。好きな人なら、守ってあげたいでしょう?」


 そう言うと、タクトくんは困ったような笑みを浮かべていた。

 最後の、男の子らしい答えに安心して、タクトくんならこれからもアヤちゃんを支えてくれるだろうと思った。アヤちゃんも、言葉には出さないけれど、タクトくんに甘えられるのを嬉しく思っているのが態度で判るから尚更だ。


「なるほどね」

「満足しましたか?」

「嫌な言い方しないでよ」

「すみません。結構深いところまで話したんで、つい」


 悪いと思っていない調子で謝られる。そこがタクトくんらしいところだと思っているけれど。


「判っているとは思いますが、このこと、アヤには話さないで下さいね」

「もちろん」


 不定期に開かれる、アヤちゃん不在のお茶会でのことは、アヤちゃん本人に話したことを明かさないのが暗黙のルールとなっている。今回のことも、私からアヤちゃんに話をすることはない。

 私は、二人の味方でいたいだけで、二人の支えになりたいだけだから。

 それは、タクトくんも判っていることだろう。

 こうして今日も、アヤちゃんが来るまで、二人だけのティータイムが過ぎていった。

なんとなく降ってきた話です。アヤと付き合う前、タクトは一人で自分の道を進むこともできた。アヤの元から離れることもできたのに、傍に居続けることを不思議に思ったハルルが、タクトに直接尋ねるという、ティータイムシリーズでないと書けない話になりました。二人は、いつまでもアヤの味方で、理解者です。

久しぶりにハルルの一人称で書きました。一人称はやっぱり難しかったです。でも、このシリーズ、好きだからまた機会があれば書いていきたいです。

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