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side story  作者: 夜音沙月
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おやすみのひ

 本当にたまにだけれど、気持ちの整理がつかなくなる日がある。それは、一人になっている時に突然やってくる。前触れもないから、予防することもできない。今回も、突然に襲われた。

 心の中がどんよりと沈む。まるで、雨が降りだす前の重たい曇り空のような気分になる。そのもやもやとした気持ちを吐き出してしまいたくなるし、何かに当たってしまいたくなる。それと同時に、何とも言えない淋しさを感じて、心を許している人に甘えてしまいたくなる。

 それを一遍にやってしまいたくなるけれど、そうすることができない。ぶつけてしまいたい、甘えてしまいたいと思う相手はいるけれど、それをその人に伝える術を知らない。幼い頃の環境と、親が行方不明になってからの約十年が、甘え方を判らなくさせたから。

 そのため、大抵はやり場のないもやもやした気持ちを抱えたまま過ごす。数日もすれば、そのどんよりとした重い気持ちも晴れて消えてしまうから。そうやっていつも過ごしてきた。だから、今回もまたいつものように過ごすだけ。

 そう思って、緩く抱えていたクッションをぎゅうっと抱きしめた。


「アヤ」


 いつの間に部屋に入ってきたのか、タクトに名前を呼ばれて顔を上げる。

 タクトは、いつもの優しい笑みを浮かべながら「隣、いい?」と尋ねてきた。

 いつもなら、向かい側に座るのに。ここで拒否をすると変に思われてしまうと判っていたから、首を縦に振ることで答える。

 すると「ありがと」と言いながら、空いていた隣の席に腰をかけてきた。

 少し動けば触れることのできる距離。甘えさせてほしいと口にして行動に移せば、タクトは甘やかしてくれる。頭では判っているけれど、甘えることに慣れていない。だから、同言葉にすればいいのか判らない。ただ一言、思ったことを声にすればいいだけなのだろう。

 一人でぐるぐる考えていると、再びタクトに名前を呼ばれる。

 顔を上げてタクトの方を見ると、目があったかと思うや否や


「おいで」


 優しい声で誘われた。

 躊躇いながらも、両手を広げて待ってくれているタクトにゆっくりと身体を預ける。

 優しく抱きしめてくれた。

 あったかい。

 もやもやとした気持ちを抱えた瞬間からずっと、そうしてほしいと思っていた。


「どうして?」


 少しして、言葉もないのに理解してくれたことについての疑問が声になる。


「判るよ。だって、目がそう語ってたから。もやもやしてたんでしょう?」


 なんだ、全部判ってたんだ。

 何とも言えない気持ちを抱えてもやもやしていたことも、甘えたかったことも。


「……ごめんね」


 そう思った時、ぽつりと謝罪が零れた。


「何で?」

「可愛くないでしょう?」


 甘えたいのに、言葉にすることも出来なくて、一人で抱えてしまおうとする。素直に甘えられない恋人なんて、ただ面倒なだけだと思うから。


「そんなことないよ。まぁ、本音を言えば? 言葉にしてほしいとは思うけど。でも、今日みたいに何かサインを出してくれれば良いよ」


 穏やかな声でそう言いながら、胸に預けた頭を優しい手つきで撫でてくれる。言葉は、ほんの少し意地悪だったけれど、行動は砂糖菓子のように甘くて。

 お礼を口にする代わりに、本音を混ぜてぎゅうっと抱きつく。

 一瞬、驚いたのか頭を撫でてくれていた手が止まったけれど、「ふふっ」という嬉しそうな笑い声とともに再開された。

 少しずつ、もやもやした気持ちが消えていく。

 穏やかな気持ちになる。

 今日は、心の休息日。



――fin.


たまに本文のアヤと同じような気持ちに襲われることがあって書いちゃいました(笑)久しぶりに数時間で書き上げた、短いお話です。

執筆は好きなことの一つです。今回のように浮かんだ話が短くても、完成まで書いて、更新するようにしていきたいです。

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