【理解者たちのティータイム】精霊と妖精の愛し子
春、花が咲き誇る季節。
暖かな日差しが降り注ぐ執務室で、タクトは書類にサインをしていた。
「こんにちはー」
ノックが響いたかと思うと、明るい声とともにハルルが執務室の中へ足を踏み入れる。
「あれ? アヤちゃんは?」
きょろきょろと室内を見渡し、ハルルは目的の人物がいないことに首をかしげる。
「アヤなら出かけてますよ」
タクトは筆を走らせながら答えた。
「サボり?」
アヤが日中にいないのは、サボりであることが多い。それを知っているハルルは、慣れた様子でタクトに尋ねる。
「サボりと言ったらサボりになるんでしょうけど、今回はいつもと違う理由ですよ」
タクトの言葉をうまくのみこめなかったハルルは、不思議そうに首をかしげた。
「アヤにとっては、大切なことなんです」
そこまで言うと、タクトは手を止めてハルルを見る。
「ちょうど終わりましたし、一緒にお茶でもどうですか?」
ハルルを午前のティータイムに誘うと、ふわりと優しい笑みを浮かべて頷きが返ってきた。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
執務室からテラスへ移動し、お茶を飲み一息吐くと、ハルルはタクトに質問した。
「それで、アヤちゃんはどこに行ってるの?」
「お気に入りの丘の方ですよ。ところで、ハルル先生はアヤがあまり魔術を使いたがらないことを知っていますよね」
「えぇ」
「じゃあ、アヤは魔術を嫌っていると思いますか?」
「嫌ってはいないんじゃないのかな。どちらかといえば、大切にしてるように思えるけど……」
ハルルは、アヤがたまに精霊や妖精とふれあう様子を思い浮かべながら答える。
すると、タクトがふわりと優しい笑みを浮かべた。それを見て、ハルルの答えは間違っていなかったのだと知れる。
「多分、他の人はアヤが魔術を嫌っているからあまり魔術を使おうとしないんだと思ってるはずですよ」
それほど、アヤが日常で魔術を使うのは珍しい。
「おそらく、ユキも勘違いしてると思います」
アヤの親友であるはずのユキでも、本当のことを知らないとタクトは言う。それを知っているのは、アヤの傍にいる良き理解者だけだろう。
「それで、話を戻しますけど、小さい子供が初めて魔術を教わる時、魔術は精神に左右されやすいことがあると教わりますよね」
然程大きな差が出るわけではないが、魔術は術者の精神状態に左右されることがある。簡単な魔術であればほとんど差は出ない。ただ、大きな魔術や術者が使いなれない術であると、発動しなかったり、発動しても威力が弱かったりするなどといった形で失敗することがある。一概に魔力だけで術の強さが左右されるとは言いきれないのだ。
「術者の精神状態が魔術に影響を与えるのは事実です。でも、術者と使おうとする魔術系統の精霊との繋がりも、魔術に影響すると思いませんか? 魔術師に得手不得手があるのは、その精霊や妖精との相性もあると僕は思うんです」
タクトの言っていることは一理あるだろう。
「言われてみれば、そうかもしれないね」
「ハルル先生は、アヤが意味もなく魔術を使うところを見たことがありますか?」
ハルルはゆっくりと首を横に振る。
「傍目で何かと話しているような姿なら見たことあるけどね。タクトくんは?」
「僕もたまにしか見たことないですよ。偶然と、アヤが自分の意思で見せてくれた時だけです」
「そうなんだ」
ハルルの反応から、言葉にされなかった気持ちを読みとったタクトはすぐに言葉を付け足した。
「僕はそれでいいと思いますよ。だって、あまり見られたいものでもないでしょう?」
目には見えない精霊や妖精とのふれあい。それを誰かに見られたいか、と問われたら答えは『否』だろう。
「確かにね」
少し残念に思いながらも、ハルルは納得する。
「それで、アヤはちょっと話をしに行ってるんです」
「なるほどね」
サボりではあるけれど、そうではない理由。それはアヤにとって大切なことだからだ。
「まぁ、そろそろ戻ってくると思いますよ。朝のうちに行ったので」
「そんなに早かったの?」
「朝食を済ませたと思ったらすぐに出てました。寝てる時に呼ばれたって言ってましたよ」
苦笑を浮かべながらタクトは話す。しかし、その笑みには優しさが含まれていた。
「向こうもアヤちゃんのことを愛してるんだろうね」
「そうですね」
普段は精霊や妖精のコエなど聴こえてこない。姿を見せてくれることなんて、さらに稀なことだ。例外は、向こう側の力が濃い場所だけだが、それでも姿を見るのは難しいとされている。普段からアヤのようにはいかないのが普通なのだ。
アヤが普段から精霊や妖精達を大切に想うから、向こうもアヤに応えるのだろう。
二人の話が一段落した時、ちょうどアヤがテラスに姿を現した。
「ただいまー」
「おかえり」
「おかえりなさい。ついでに、お邪魔してるよ」
「はるるん、来てたんだ。いらっしゃい」
「今までどこに行ってたの?」
「んー、ちょっと、ね」
アヤはハルルから目を逸らし、答えを濁す。
しかし、テラスを吹き抜けた春の暖かい風が、アヤを動かした。
「はるるん、知ってて聞いた?」
突然の質問にハルルは驚く。通り抜けた風が、アヤに何か囁いたと気付いたタクトは苦笑いを浮かべる。そして、ハルルが答えるより先に、謝罪を口にした。
「ごめんね。ハルル先生ならいいかなと思って」
「それは別に構わないけど……。はるるん、他の人には言わないでね?」
それは、いつもと違って懇願にも似たお願いだった。
伊達に親友をやっているわけではない。アヤの些細な違いを感じとったハルルは、瞳に真剣な色を宿し、からかうことなく静かに頷いた。
「判った。大丈夫、誰にも言わないよ」
「ありがとう」
ハルルの答えに安心したアヤは、ふっと表情を緩めた。
「アヤちゃんもお茶にしよう」
それを見て、ハルルはいつもの調子でアヤを午前のティータイムに誘う。
「そうだね」
そうして、またいつもの穏やかな時間が流れはじめた。
――fin.
……ひとやすみ……
H29 7月の中旬ごろ、とある作品にハマり、某キャラクターをものすごく好きになり久しぶりに二次創作サイト(pixivじゃないw)巡りをしました。あるサイトでそのキャラクターが自然の聲を聴くシーンがある話をいくつか読み、もろ影響を受けた結果降ってきた話がこれです(笑)
オリジナル創作をするようになってから、その時にハマっている作品の影響を受けるのはよくあります(笑) アヤの容姿もアヤの仕事サボり(城下に出る)も当時の私がハマった作品の影響でそうなっています。今回も見事に影響を受けましたwwとりあえず創作ノートにざっと殴り書きをして放置していましたが、ようやく執筆したのでここにも持ってきました。
いつも自己満足で書いているので、今回もすごく楽しかったですv
今度はアヤが精霊や妖精達と話をしているところがある話を書いてみたいです。
H29 12/21
追記:タイトルを変更しました。(H30 8/19)




