夜空のおとしもの
「タクト、今日星をみよう」
午後のティータイムで、アヤは突然そんなことを言ってきた。
アヤが星を見ようと誘ってくることはたまにある。そして、そういう時はたいてい理由があることを知っていた。
二人で星を見たいと思った時か、流星群が見られる夜か。
今夜はどうやら、後者のようだ。心なしか、アヤが嬉しそうにしている。
「いいよ。何時ごろ?」
時間を尋ねると、アヤは申し訳なさそうな表情を浮かべた。
後者で確定。
ただ星を見るだけなら、時間を聞かれただけで今浮かべている表情になることはないし、そんな必要もない。
「夜中、日付が変わったころ……」
そう答えるアヤの声は、少し小さかった。
「わかった。いつもの場所でいい?」
「うん。ありがとう」
頷いて場所の確認をすると、アヤは嬉しそうに笑った。
夜、警備兵の目を盗みながら屋上へ向かう。
そっと扉を開けて外へ出ると、ランプの光が見えた。
「来てくれたんだ」
ほっとした息とともに呟かれた言葉。
「もちろん。遅くなってごめんね」
そう言ってアヤの隣に並ぶ。
「そんなことないよ。ちょうどいいくらい。ほら」
話ながら伸ばされた指の先で、すっと光の線が走る。
「ね?」
「本当だ」
星が線を描いては消えていく。それは少しずつ数を増やしていって、光の雨を降らせているようだった。
しばらく二人で流れ星を眺めていると、隣にいるアヤが小さく身体を震わせたのが分かった。
夏とはいえ、夜は冷える。
部屋から持ってきていたブランケットをそっと肩にかけると、驚いた顔でこっちを見てきた。
「夜は冷えるから使って」
「ありがとう。でも、タクトは?」
「僕は大丈夫」
もともとアヤのために持ってきた物だ。アヤは再び小さな声でお礼を口にすると、星の降る空へ目を向けた。
静かに星を眺めている間、声をかけ合うことはなかった。会話がなくても、穏やかに過ぎる時間は心地好いと思った。
「夜空のおとしものみたいだよね」
流れ星を見ていたアヤが突然そう呟き、片手を夜空へと伸ばした。
「こうすると――」
夜空を流れる星に合わせて手を動かし、星の光が消えるとほぼ同時にぎゅっと手を握る。そして、アヤと僕の間で手を開いた。
「ほら、ね?」
開かれた手の上には、小さくて丸い光がのっていた。
それは、アヤが星をなぞらえてつくりだした、魔法の光だった。
普段は魔術を使おうとしないアヤだが、たまにこうして魔術を使うことがある。アヤの気まぐれで見せてくれる魔術は、どれも言葉にするのが難しいくらい綺麗なことを知っていた。
「綺麗だね」
そう言うと、アヤは月の光のように穏やかな笑みを浮かべた。それは、たまに見せてくれる、僕の好きな綺麗な微笑みだった。
――fin.
コンビニでお菓子コーナーを見ていたら素敵なパッケージの飴が売っていて、一目惚れして購入した商品がきっかけでできた話です(笑)
本編ではアヤに綺麗な魔術を使わせてあげられないので、番外編になるとよく綺麗な魔術を使わせてしまいます。もともとアヤも、今回の話のような魔術の方が好きな子なのでね。
短い話でも一つの作品であるということをサイト運営していた時に、相互サイトの管理人さんから学びました。今回の話はかなり短いですけど、一つの作品であることには違いないので。
またほのぼのとした優しい話を書きたいです。




