表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
side story  作者: 夜音沙月
24/43

ノワール

 暗い世界は冷たいから、君のぬくもりが温かな光となる。


《ノワール》


 気が付けば、ただでさえ薄暗かった室内が、真っ暗になっていた。

 いや、違う。

 明かりをつけていたのだ。何も見えなくなるのはおかしい。

 そう思った時、一つの可能性が頭の中に浮かんだ。

 薬品作りに失敗して、視力を失った。

 それしか考えつかない。

 趣味の一つで薬品作りをしていると、何度か失敗することもある。失敗すること自体は構わない。ただ、失敗すると厄介なことがあるだけで。

 その厄介なこと。それは失敗した代償として、自分の身体に異変が起きることだ。しかも、失敗の代償であるため、薬品や魔術でどうにかすることもできない。

 今までも、幼児化や魔力が弱くなる、身体に動物の耳や尻尾がつくなど、いろいろな体験をしてきた。けれど、今回の代償は今までで一番酷いものだと思える。

 まさか、眼が見えなくなるなんて。

 薬品作りの失敗の代償は、時間が経てば戻る、一時的なものしかない。ただ、元に戻るまでの時間は定まっていないが。今までの経験を振り返るに、早くて数時間から半日、遅くて一月くらいかかった。今回は、どれくらいなのだろうか。

 いつまでも薬品やその材料だらけの部屋にいても仕方ない。下手に動いて何か落としてしまうと、自分の身も危ない。

 立ち上がろうと、横にあるテーブルに手をかける。


 ――ガッシャーン


 ちょうど手をかけたところに物が置いてあったようだ。静かな室内に大きな音が響いた。多分、薬品が入っていた瓶を落としてしまったのだろう。


「あー……」


 テーブルの手前に置いた薬は、比較的安全な物しか残していなかったから、さほど問題はない。しかし、いつ危険な薬品の入った瓶に触れてしまうかも判らない。

 テーブルを支えに立ち上がったが、どこに何があるのか判らず、身動きがとれない。しかも、運の悪いことに、部屋の出入り口は、テーブルを挟んだ向こう側にある。端を伝って歩いていこうにも、その間にいくつの物を落とすことになるのか考えると、動けなくなった。


(どうしよう……)


 今まで感じていた不安が、さらに強くなって心に広がる。

眼が不自由になったことはある。でも、視界がぼやけたり、白いもやがかかったような状態になったりする程度のもので、盲目になることはなかった。けれど、今の状態はこれまで体験したこととは全く違う。

 視界が曖昧なのではなく、全く見えない。

 夢の中で真っ暗な空間に一人さ迷うこともあるが、今は現実である。

 暗闇に残される夢を何度も見るし、幼いころの辛い出来事のこともあって、真っ暗な闇は苦手だった。暗くて、冷たくて、余計に独りだということを感じてしまう。そう思ってすぐ、不安に押し潰された。

 足に力が入らなくなり、立っていることもできなくなった。倒れる前に、と思ってゆっくりとその場にしゃがみこむと、動けなくなった。

 眼を開けていても広がる暗闇。自分が眼を開けているのか閉じているのか判らなくなってくる。そして、失敗の代償のせいか、少しずつ意識も遠のいていく。きっと、タクトがいつまで経っても戻ってこない私に気付いてくれるだろう。それまで、少しだけ。少しだけ現実から離れたくて、意識をとばした。心の中で、タクトの名前を呼びながら。


**********


 遠くから声が聞こえた気がした。


「――ヤ。アヤ!」


 何度も呼ばれる名前に、意識が浮上する。

 頭上から聞こえてくる声は、意識をとばす前に呼んだタクトのものだった。

 うっすらと眼を開ける。しかし、暗闇が広がっただけだった。

 再び視力を失った現実を突きつけられ、怖くなる。頭上から届く声が、どこか別の世界で響いているように感じた。


「アヤ! 大丈夫?」

「……うん、一応」


 本当は大丈夫なんかじゃない。隣にタクトがいるから、自分を保てているようなもので、一人だったら取り乱していてもおかしくない。


「とりあえず、部屋に行こうか」


 タクトの提案はもっともで、いつまでも薬品だらけの実験室にいるわけにはいかない。


「立てる?」


 不安と恐怖で力が抜けた身体は、まだ言うことをきこうとしない。それに、今は歩きたくなかった。歩く度に、暗闇の方へと向かっていくような気がして。だから、小さく首を横に振った。


「判った。じゃあ、ちょっと抱っこするよ?」

「うん」


 頷きを返すと、背中と膝の下に腕がまわされた。見えない恐怖感から、タクトの肩あたりの服を掴む。そしてすぐに、浮遊感を感じた。タクトの温かい手と、歩く度に伝わる振動が、少しだけ心地好くて、安心する。


「アヤの部屋でいい?」

「……うん」


 部屋に着くと、そっとベッドの上に降ろされた。

 足を床につけても、見えないのが怖くて、掴んだ服を放せない。


(迷惑、かけたくないのに……)


 何も言えないでいると、ふっと目の前にタクトの気配を感じた。


「アヤ」


 名前を呼ばれて、顔を上げる。ふわりと頬に手が添えらる感触がして、思わず身体がはねた。


「……もしかして、眼、見えてない?」

「…………。どう、して……?」


 肯定も同然の疑問を投げると、ふっとタクトが笑った気配がした。


「どうしてって、僕が持ち上げる時に服を掴んだじゃん。それで、なんとなく、ね。それに、ベッドに降ろす時も、手に力が入ったからね」


 話の終わりに、頬にあったタクトの手が離れ、服を掴む私の手をぽんぽんと優しくたたいた。


「あ、ごめん……」

「謝らなくていいよ。見えないと怖いでしょう?」

「…………」


 本当にその通りで、何も答えられない。今、頷いてしまうと、余計なことまで喋りそうで、少しだけ唇にきゅっと力を入れた。


「薬品作りの失敗?」

「うん。気が付いたら、何も見えなくなってた。それで、怖くて……」

「そっか。大丈夫だよ。アヤの眼が戻るまで、ずっと傍にいるから」

「あり、がと……」


 タクトの優しい言葉に、泣きそうになる。それを知ってか知らでか、さらに言葉をかさねてくる。


「アヤ、迷惑だなんて思わないから、ちゃんとやってほしいこととか言うんだよ? 言ってくれなきゃ判らないことだってあるんだから」

「うん……」


 いつもは素直に甘えることができないけれど、眼が見えない今くらいは――。それに、もう少しだけくっついていたいから。

 けれど、甘え方は判らないままで。正直な想いを言葉にするのも恥ずかしくて。だから、あの暗闇の中で思っていたことを話すことにした。


「あのね、見付けてくれてありがとう」

「どういたしまして」

「タクトなら見付けてくれるって信じてたし、名前を呼んでくれた時、すごく嬉しかった」


 あの実験室でタクトの声が聞こえた時、暗い世界に一筋の光が射したようだった。


「ねぇ、もう少しだけここにいてくれる?」


 いつもは躊躇ってしまう言葉。さっきも言えなかった本音が、するりと外に出る。


「さっき傍にいるって言ったじゃん。隣、座るよ?」

「うん」


 隣にタクトが座る。少しだけ身体が触れ、安心感に包まれる。タクトの肩に頭をのせて寄りかかると、心なしかほっと息が零れた気がした。

 自分がとった行動に恥ずかしさがくる。何も言わないでほしいなと思っていると、タクトは何も言わずに肩をぽんぽんと叩いてきた。無言の優しさが、すごく嬉しい。そう思っていると、今度は頭を撫で始めた。その心地好さに、少しずつ瞼が重くなってくる。それに逆らわず眼を閉じて、眠りと現実の間をふわふわと漂う。


「おやすみ」


 タクトの優しい声が聞こえて、そのまま眠りの世界へと旅立った。

 次に目を覚ましても、きっと世界は暗いままだろう。けれど、タクトのぬくもりがずっと傍にあると思うだけで、不思議と怖くはなかった。


Fin.



…ひとやすみ…

 Twitterのフォロワーさんの呟きで一時期とあるジャンルにハマりました。支部で二次創作小説を読んでいたとき、ある話がツボに入り、オリキャラで書いてみたいなと思っていたら、話が降ってきました(笑)で、あとはノリと勢いで下書きを書きました。そのあとは日常生活が忙しいのもあり、執筆できず、数ヵ月経った今、ようやく完成しました。趣味と自己満足の賜物(笑)

 内容はどうあれ、書いていて楽しい話を書き続けていこうと思っています。ので、いつだって自己満足の作品ですww

 そんな私に付き合ってここまで読んでくださった方、ありがとうございましたv


サイト掲載:H27 12/28



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ