表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
side story  作者: 夜音沙月
22/43

キライな人

 放課後、親友のアヤを教室で一人で待っている時だった。

 教室に近づく足音が聞こえてきて、ようやくアヤが戻ってきたのだと思い、読んでいた本を閉じた。しかし、教室に入ってきたのは、違う人だった。


「あれ? まだ残ってたんだ」


 教室に入るなり、その人が私に声をかけてくる。友達のような態度だが、これでも私とアヤがいる月組の担任である。


「アヤちゃんを待ってるの?」

「そうです。ハルル先生はどうしたんですか?」

「んー? ちょっと見回りかなー」


 ハルル先生は、いつもの穏やかな笑みを浮かべて答えた。待ち人のアヤなら、それが本当かどうか判るのだろうけど、私には区別することができない。

 この先生は、いつもにこにこと笑っている。みんなは優しくて良い先生だと言うけれど、私はそう思えない。その笑顔の裏に、何かあることを知っているからだ。しかし、その隠されたものまで判らないし、先生も相手に悟らせるようなことをしないから、厄介だと思う。今この場にいないアヤなら、先生の真意に気付くことができるのだけれど。

 言葉通り、ハルル先生は教室をふらりと見て回った。そのまま出て行くのかと思っていたら、何故か私の斜め前の席の椅子をこちらに向けて座った。

 特に会話もなく、私は読みかけの本を開いて再び本の世界に入る。

 しばらくして、ハルル先生が口を開いた。


「苦手、うーん……嫌い、なのかな?」


 突然そんなことを言われても理解できない。何を言い出すんだと思いながら、本に栞を挟んで閉じてから問いかける。


「何がですか?」

「ん? ユキちゃんはタクトくんのこと嫌いみたいだなーって」


 話しかけてこないと思ったら、そんなことを考えていたのだろうか。しかも、本人を前にして。それに、仮にも生徒である私に言うことだろうか。そう思いはしたけれど、ハルル先生だからと片付けられてしまう。いろいろな意味で、この先生は他の教師と違っているのだ。


「どうして、そう思うんですか?」

「なんとなく? でも、間違ってはいないと思うよ?」

「まぁ、そうですね」


 隠す理由も嘘を吐く理由もないため頷く。


「何で嫌いなのか聞いてもいい?」


 私の答えに特に気にした風もなく、尋ねてくる。目の前の生徒が同じクラスの生徒を嫌っているというのに、この先生は複雑に思ったりしないのだろうか。聞いたところで、答えなんてはぐらかされてしまうことが目に見えている。だから、尋ねはしない。


「タクトっていつも笑顔を浮かべているじゃないですか」

「そうだねー」


 アヤが助けたいと言って救った、アクマだったタクトは、この学校のしかもアヤと同じクラスに編入してきた。アクマだったことを除けば、頭は良いし格好いい方の部類に入る人だった。人あたりも良くて、優しいとみんなは言う。けれど、私はそれが信じられないのだ。


「その笑顔が胡散臭く思えるんです」


 そう、裏に何か隠していそうで嫌なのだ。


「タクトくんも大変だなぁ」


 私の言葉を聞いても、ハルル先生は動じることなくのんびりとそんなことを言った。ただ、少しだけ困ったような笑みを浮かべていた。それでも笑顔なのは変わらなくて、本当に何を考えているのか判らない


「でも、私もアヤちゃんも似たようなものだよ?」


 そうなのだ。目の前のハルル先生も、待ち人のアヤも、笑顔を浮かべて本音を隠してしまう。


「アヤは、なんとなくですけれど、何を考えているのか判るんです」


 アヤは、長く付き合ってきたため、なんとなくなら判るようになった。それでも、判らない時の方が多いのだけれど、聞けば答えてくれるようになった。


「ハルル先生は、その場に応じて表情や態度を変えてくれるじゃないですか」


 今のハルル先生は何を思っているのか判らないけれど、普段は表情などを変えてくれるのだ。だから、なんとなく判る。


「まぁ、たまにね」

「でも、タクトだけは少しも判らないんです」

「そう?」

「そうですよ」


 私は、ハルル先生やアヤのように人の気持ちに聡い方ではないのだ。二人が、周りの人よりも聡すぎるのだと思う。


「真剣な顔をしていたかと思えば、すぐに笑うから」


 何度かそれを見る度に、いつも何か隠したと思えてしまう。実際はどうか知らないが、間違ってはいないと思う。


「心配、なんだ」

「はい?」


 突然、何を言い出すのだろう。


「ユキちゃんは、アヤちゃんのことが心配なんでしょう? 何考えてるか判らないタクトくんの傍に、アヤちゃんがいることが」

「…………」


 本当、嫌になる。

 いつも笑っていて、周囲の人間にふんわりとした印象を抱かせるハルル先生。鈍いように見えて、実はかなり鋭いのだ。

 心の内を見透かされている気分になる。


「大丈夫だよ」


 明るい声と笑顔でそう告げられる。一体、何が大丈夫だというのだろうか。


「どうして、そんなことが……」

「言えるのかって?」


 続く言葉を先に言われ、思わず黙ってしまった。


「簡単だよ。タクトくんは、アヤちゃんのことが大切なんだもの」

「…………」

「まぁ、タクトくんは隠すのが上手いから、ユキちゃんが信じられないのも判るけどね」


 再び、ハルル先生が困ったような笑みを浮かべる。

 そんなことまで知られていたなんて。


「でも、できれば仲良くしてほしいな」


 やはり、生徒がクラスメートを嫌っている状態は複雑なのだろうか。


「タクトくん、困ってるみたいだったから」

「は?」


 思わず、心の声が外にでてしまった。しかし、無理もないと思う。予想に反した言葉だったのだから。

 けれど、やはりと言うべきか、タクトも鋭い人だったようだ。あまり態度に出さないようにしていたつもりなのに、こちらの気持ちに気付いていたらしい。


「同じ人を大切に思っているんだから、仲良くした方が良いと思うんだけど」

「い……」

「いくら何でも、それは難しいでしょ」


 言おうとしたことを、誰かに先に言われた。驚いて声のした方を見ると、待っていた人物がそこに立っていた。


「アヤ」

「おかえり、アヤちゃん」


 ハルル先生は、突然現れたアヤに驚くこともなく、のんびりと笑う。


「まったく。はるるんだって判ってるんでしょう?」


 アヤは、困ったような、呆れたような笑みを浮かべていた。

 ハルル先生を『はるるん』と呼ぶのは、アヤしかいない。敬語で話さないのも、今のように遠慮なく言葉を投げるのも、アヤがハルル先生を親友のように接しているからだ。本人は、昔、ハルル先生本人に友達として接してほしいと頼まれたからそうしている、と言っていた。それは本当のことだろう。けれど、ハルル先生の頼みを断ることもできたはずだ。アヤがそうしなかったのは、アヤの中で何かあったからなのだろう。


「まあねー」


 ハルル先生は、軽い態度で答える。

 アヤが来たことで、飄々とした感じになる。こうなってしまっては、もうハルル先生の考えを読むことなどできない。


「それにしても、時間かかったね」

「知ってるなら、職員室から逃げないで助けてよ」


 アヤは学校の中ではかなり成績の良い方だが、意外と教師からの呼び出しが多い。授業態度に少しの問題があるせいだろうけど、この学校は成績重視で授業態度は自己責任となっている。それなのに、何故かアヤは呼び出される。


「ヤダよ。あの先生苦手だし」


 そう、魔術の実技授業の教師の一人が、やけにアヤに執着しているのだ。


「本当、早く諦めてくれないかな。二年前にされたこと、まだ許してないし。てか、許す気なんてないけどさー」


 そうぼやきながら、アヤは帰りの準備を進めていった。

 二年前に何かあったのは知っていたけれど、詳しい内容は話してもらえていない。ただ、何かあった後から、アヤはよく魔法実技の授業を抜け出すようになったのは確かだった。それは、二年経った今でも変わっていない。


「なんか、定期的な恒例行事になってるねー」

「他人事だと思ってるでしょう」


 まぁ、実際他人事なのだけれど。

 ハルル先生とアヤの会話を聞いて思わず心の中でつっこみを入れてしまう。


「でもさ、タクトくんが来てから、授業の出席率あがったよね」

「まあね。さてと、帰ろっか」


 まとめた荷物を手にとり、アヤが私の方を見て言う。


「えー、帰っちゃうのー?」

「ただつまらないからって生徒を引き留めてどうするの」

「だってー」

「『だって』じゃないでしょう?」


 このやりとりを聞いていると、どっちが生徒なのか判らない。


「それに、若干ユキで遊んでたくせに」

「いつから聞いてたの?」

「『できれば仲良くしてほしいな』あたり? そこ聞けば、その前の会話知らなくても判るよ」


 あっさりとそんなことを言われ、複雑な気持ちになる。


「途中は真剣だったよ?」

「でも、最後の方は遊んでた」

「もう」


 確かに、途中は真剣だったと思う。でも、最後の頃は私では判断できない。アヤがそう断言するのだから、きっとそうなのだろう。ハルル先生も否定することなく苦い笑みを浮かべているし。


「じゃ、私達は帰るから。また明日」

「はいはい。またね」


 アヤがハルル先生に挨拶して、さっさと歩き出す。私も「さようなら」と言って、アヤの後を追った。

 ハルル先生のことは嫌いではないけれど、やっぱり厄介な性格をしているなと思った放課後だった。


Fin.


…ひとやすみ…

 結構前にTwitterにて呟いた会話文を見たら話が降ってきたので、いろいろ付け足して書いてみました。

 一番書きたかったのは、Twitterで呟いていた、ユキとハルルの会話です。二人がタクトについて話すところです。

 今回は珍しくユキの一人称で書いてみました。最近、三人称ばかりで一人称の書き方を忘れかけていたので、少しだけ大変でした。私が持っている本はほとんど一人称なのですが、本編が三人称のため、友達が持っている三人称の本を参考にさせていただいていた期間があり、その間に一人称の書き方が曖昧になってしまったようです(笑)いつもはタクトの一人称が多く、その次にハルル、その次にアヤとなるのでユキの一人称はこれが初めてだった気がします。『さくら咲く季節』では、タクトの一人称が一番書きやすいんですよね(笑)

 ここまで読んでくださり、ありがとうございました。精神的に不安定になったり、学校のことで不安になったりしてかつてないほどに大変な日を三日ほど過ごしましたが、少しずつ回復してきました。不安な日々は続きますが、精神的には落ちついてきたので、やれることをやって頑張りたいです。


本館連載:H26 12/7~12/27

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ