魔術師に必要なもの
《魔術師に必要なもの》
桜の花は早くに散り、他の花も少しずつ変化を見せ始める春の終わり。そろそろ新緑の季節になろうかという休日の午後、昔の担任教師で、親友のような存在のハルルが城に遊びに来た。
「こんにちはー」
ハルルがアヤのところに顔を出した時、アヤはタクトとお茶の時間にしようとしていた。
「あ、はるるん。いらっしゃい」
「ちょうどいいタイミングでしたね」
「なんで?」
「今からお茶にしようとしてたんですよ」
「そうなんだ」
「ね、ね、外でお茶しようよ」
アヤがタクトの袖を引いて訴える。
「わかった」
「やった!」
こういう時ばかり甘えてくるアヤに苦笑しながら頷く。すると、ぱあっと笑顔を浮かべて部屋を出ていった。きっと、準備をしに行ったのだろう。
「ハルル先生、外に行きましょうか」
「そうだね」
部屋に残されたタクトは、ハルルに声をかけてテラスへと向かった。
外に出ると、アヤがお茶会の準備をしていた。使用人の姿が見えないため、後は自分達でやるからとでも言ったのだろう。
三人が丸テーブルを囲むようにして座ると、暖かい日差しがそそぐテラスでお茶会が始まった。
たわいない会話が一段落したころ、ハルルが何気ない感じで言葉をこぼした。
「アヤちゃんとタクトくんが強いのって、魔力の関係もあるんだろうけど、知識も関係してるよね」
突然の話題に、タクトが不思議そうに尋ねる。
「急にどうしたんですか?」
「ん? なんとなくね、ふと思ったんだよ」
ハルルがのんびりと紅茶を飲みながら答える。
「魔力が弱い人でも、魔術の知識が豊富なら、普通の人かそれよりちょっと強いくらいにはなれるじゃない? アヤちゃんとタクトくんの場合もそうなのかなって。まぁ、二人の場合は魔力も強いだろうけど」
「まぁ、否定はしない、かな……」
二人の話を聞いていたアヤが、ハルルの言葉に反応する。それを聞いたタクトは、苦笑を浮かべて紅茶を啜る。否定をしなかったのは、本当のところ、アヤと同じ意見だったからだ。ハルルも、二人が強い魔力を持っていることは知っていたため、返ってきた反応を気にとめることなく話を続けた。
「でも、魔力が強いだけで知識がなかったら、そこまで強くはならないと思うのよ。だって、その人が知ってる魔術しか使えないんだもの。魔力が強くても知識がなかったら、誰もが使える術を呪文無しで使えるだけだったり、普通の人達より強い力になったりするだけでしょう?」
「確かに、そうですね」
ハルルの尤もな言い分に、タクトも頷く。
基本的に、魔術は術者が知っているものしか使えない。だから、いくらその魔術師の魔力が強くても、知識がなければ使える術は少ないのだ。
そのことを本当に理解している人は、それほど多くないと思われる。それは、成人して魔法学校を卒業してしまうと、自分で知識を増やそうとする人があまりいないからだった。みんな、学校で学ぶ魔術だけで満足してしまうのだ。学校で学べる魔術がたくさんあるがために。
「ね? だから二人が強いのは、魔力に頼ってないで知識もしっかり身につけてるからなんじゃないか、って思ったの」
「まぁ、知識の有る無しだったら、ある方だとは思うよ? 多分、タクトも」
「否定はしない、かな」
話を振られたタクトは、紅茶を飲もうとしていた手を止める。そして、苦笑しながら答えた。
「でしょう?」
やっぱり、とでも言うように、ハルルが笑う。
「でも、私の場合は自分で望んで知識を得たって言うより、必要に迫られたからってのが多いかもしれないなぁ」
ぽつりとアヤが言葉をこぼすと、タクトも同じように理由を口にした。
「僕も多少は必要に迫られたからだけど、他のアクマより知識があるのは、多分周りから変わり者扱いされて暇で、魔術書読み漁ってたせいかもね」
それは、二人が歩いてきた過去を知っている者にとっては、どう反応したらよいか判らなくなるものだった。
ハルルも一瞬だけ返答に困ったが、何事もなかったかのように、いつもと同じ笑顔を浮かべてみせた。
辛い過去があったのは確かだが、今二人は幸せそうにしている。下手に過去の話にふれない方がいいのだ。
そう判断して、ハルルは調子を崩さずに続きを紡いだ。
「まぁ、二人には訳ありみたいな過去があったから知識が豊富なんだろうけど、その必要がなくなった今も、よく魔術書を読んでるでしょう?」
「んー、そう?」
それを聞いたアヤが、不思議そうに首を傾げる。心当たりなどない、とでも言いたそうだ。
「アヤはたまに本読んでるよ」
クッキーを手に取ったタクトが、突っ込みを入れる。それは、タクト自身のことは否定しているような言い方だった。
「そう言うタクトだって、この前魔術書読んでたじゃん」
心外だとでも言うように、アヤが抗議の声をあげる。
「あー、まぁ、ちょっとね」
タクトは、見られていたのか、と困ったような笑みを浮かべて肯定した。
「お互い様じゃない」
ちょっとした戯れを始めた二人に、ハルルが口を挟む。
「結局さ、魔術師には知識欲も大切なんだなって思ったんだよ」
「でも、それは誰もが持っているようなものだと思いますけど……」
魔術師として魔力を持って生まれた者には、多少なりとも知識欲がある。知的探求心が大きすぎて、研究者になる者もいるが、一般人にもそれなりの知識欲はあるのだ。そうでなければ、魔術師として生きていくのは難しい。それは、誰もが知っていることだ。
「まぁ、確かにそうなんだけどさ。二人は、周りの人以上に知識欲がありそうな気がしたのよ」
「そう? 私からすれば、はるるんの方が知的探求心みたいなのがあると思うけど……」
研究者と同じくらいの知的探求心が、二人にはあるとハルルは思っていた。そのことを告げると、アヤから否定するような言葉が返される。
確かに、アヤの言うこともあながち間違っていない。ハルルも、難しそうな本を読んでいることがよくあるのだ。
「うーん、私の場合はさ、一つのことを深くまで知ろうとするタイプなんだよ」
アヤとタクトと違って、ハルルはある分野だけに詳しいというタイプだ。古代文字の教師をしていながら、薬品学の知識に飛びぬけている。薬品学の方が好きで、特技な薬を作ることがあるため、昔の文献を読む機会が多かった。そのため、いつの間にか古代文字も詳しくなっていたという感じだった。
ハルルが教師になったのは、研究者になる気がなかったこと、いろいろな人と出会いたかったことが理由だった。その際に薬品学の教師を選ばなかったのは、学生に教えなければいけない薬には興味が無かったためだと周囲の人達は思っている。しかし、本当のところは、教えられる薬品の知識より趣味で得た知識の方が多かったせいで、それならまだ教えられそうな古代文字を選択した、というのが真相だった。それを知っているのは、ハルルと親しい人だけで、アヤとタクトも知っていた。
「でも、二人は沢山のことを広く浅く知ろうとするタイプの方だと思うのよね」
「あー、そうかもしれませんね」
「確かにねー」
ハルルが指摘したように、二人はどちらかと言えば広く浅く知ろうとするタイプの人間だった。そのため、どの分野においても詳しいことが多い。得意分野に至っては、ものすごい知識量をもっていることもあるほどだ。
「まぁ、どっちのタイプだったとしても、知識欲は人並み以上にあることになるとは思うけど……」
「うん、そうなんだけどさ。そこに魔力とか実技の面を加えると、広く浅くタイプの方が実用的だと思わない?」
「そうだねー」
「でしょう? 二人が強いのって、魔力も知識もあるからだよ」
断言するように言われたアヤは、きょとんとした。しかしすぐに笑顔を浮かべてお礼を口にした。
「ありがと」
Fin.
…ひとやすみ…
性格診断であそび、他の診断をやっていろいろな結果を見ていたときに降ってきた話です。RPGでの職業診断みたいなものの、魔術師系の職業の結果を読んでいたら、どの結果にも魔術師には知識欲がなければいけないとありました。それを見て、アヤとタクトもかなりの知識があるんじゃないかと思ったのがこの話ができるきっかけになりました。
アヤもタクトも辛い過去を歩んできていて、その中にはやはり知識を蓄えなければいけない時もあったと思います。その必要がなくなっても、二人なら魔術書を読んでいるのかなと(笑)ただの興味の時もあれば、誰かを守るために。
今回は少しだけ変わった書き方してみました。プロットを会話だけにしてみました。このプロットの書き方は久しぶりにやりました(笑)そのあと、そこに地の文をつけたして、会話も少しだけ加筆修正して完成させました。
日常生活では課題がいっぱいになってきて、この先のことを思うと不安ですが、なんとか頑張っていきたいです。
本館掲載:H26 11/9




