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side story  作者: 夜音沙月
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ケンカをしていても……

《ケンカをしていても…》


 数日前、僕とアヤは些細なことで口論になった。つまり、ケンカをした。その日の夜から、城にアヤがいる気配はなく、きっとまたハルル先生の家にでも行っているのだろうと思った。

 ケンカをして気まずくなると、アヤはよくハルル先生の家に泊まりに行く。だから、ハルル先生の家に行って謝ることもあった。



 この日も、ケンカしたときに言ってしまった言葉を後悔しつつ、書類仕事をしていた。

 言い合っている時は頭に血がのぼってしまいその後のことなど考えもしないが、静かになってようやく後悔する。あぁ、どうしてあんな酷いことを言ってしまったんだろうと。そして、心配もするんだ。傍にいないアヤの。

 頭の中でいろいろ考えつつも、手だけは動かして一枚一枚書類を減らしていると、扉がノックされた。


「どうぞ……」


 誰だろうと思いつつ、返事をする。扉を開けて入ってきたのは、ハルル先生だった。


「ハルル先生……」

「邪魔しちゃったかな?」


 いつ見ても変わらない笑顔を浮かべたハルル先生が、僕の前に来た。


「いえ、大丈夫です」

「そう。アヤちゃんの書類仕事をもらいに来たんだけど……」


 ハルル先生が入ってきた時、なんとなくそう思っていた。

 ケンカをしていても、アヤが仕事をサボることは今まで一度もなかった。絶対に手を抜かずにしっかりとやる。仕事は仕事だと、ちゃんと割り切っている。それはすごく助かることだけれど、それと同時にもどかしく感じることがあるのも本当だ。


「これです」


 いつでもアヤに渡せるようにまとめておいた紙の束を、ハルル先生の前に置いた。


「……少ない気がするのは、気のせい?」


 書類の束をじっと見た後、ハルル先生は言った。


「気のせいです」


 今回のケンカは長引きそうだと思った僕は、いつもはアヤ署名をするものにも代理人として署名をしていた。この国の王はアヤだが、僕はアヤと同じくらいの地位にいる。だから、何の問題もない。


「そう?」

「はい。それに、アヤの方にはいろいろと考えなければならないものが多いので……」

「そっか」


 納得したハルル先生は、ふわりと笑った。

 ちょうど給仕がお茶を持ってきてくれたので、僕は執務用の机から離れ、長テーブルの方へ移動してハルル先生にもお茶を勧めた。


「ありがとう」

「……ケンカのこと、アヤから聞いてますよね」

「まあね。どっちもどっちだけれど、早く謝った方がいいよ?」


 お茶を一口飲んでから、ハルル先生は言った。


「ハルル先生は、アヤの肩を持つんですね」

「不満?」


 苦笑いを浮かべながら言われた。


「いいえ」


 不満なんて、これっぽちもない。


「フフッ、そうよね。私がタクトくんの味方をしたら、不安でしょう?」


 ハルル先生は、僕の思いに気付いているようだ。

 いつもニコニコと笑ってのんびりとしたイメージが強いが、結構鋭いところがある。そのことを知っている人は少ないだろうけど。


「ええ。だから、助かってるんです」


 アヤとケンカをしている時でも落ちついていられるのは、ハルル先生がいるからだと思う。


「ああ見えて、アヤは淋しがり屋ですから……。アヤの理解者が傍にいてくれないと、落ちついてなんていられませんよ」

「そうね。でも、本当に早く仲直りした方がいいわよ?」

「はい」


 長引いてしまうと、謝ることが難しくなる。それに、アヤのことが心配だ。


「……あの日は、ちょっと機嫌が悪かったんです。それで、アヤにもあたってしまって……」

「そうだったの。アヤちゃんも後悔していたわ。ただ、今日ここに来なかったのは、まだ心の整理ができないみたいでね」

「あー、仕方ないですね」

「そうねー」

「まぁ、早いうちに謝ります。悪かったのは僕の方ですから」


 アヤは、表では明るく振る舞って裏でこっそり泣くような人だ。悩みを抱えても、なかなか人に打ち明けようとしない。

 今日、ここに来なかったのも、僕が言ってしまった言葉に傷ついたからであることは、容易に判った。心が不安定になっている今、傍にハルル先生がいるということは、非常に心強い。

 僕も早く謝らないと。


「そうね。それじゃ、私はこれで失礼するわね」


 ハルル先生は、アヤへの書類を持って出ていった。



――ケンカをしていても、考えるのは君のこと。早く君の笑った顔が見たい――


fin.



こんにちは。

お風呂に入ってサンホラ歌って……ふとssのことを考えたら、ケンカネタが降ってきました。それも、アヤとタクトがケンカしてピリピリしている話ではなくて、タクトがアヤのことを心配し、そこにハルルがいるという話。忘れないうちにタクトとハルルに言わせたい科白をメモし、興奮が冷めてから一気に書きました。


ケンカをしても、タクトはアヤのことを想っている気がします。アヤは一度落ち込むと、表では笑い裏では泣く人ですから、余計心配なんでしょうね。落ちこんでいる時のアヤは、作り笑いしますから。それに気付くのはタクトとハルルくらい。だから余計に不安。

タクトもハルルも、アヤのことが大切なんですよ!←


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