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side story  作者: 夜音沙月
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万年桜 2

 数日前、アヤとタクトの二人は森の中で万年桜を見付けた。

 季節外れの桜を見付けてから数日の間、アヤは何か森の中へ足を運んでいた。いつものように、こっそりと城を抜け出して。

 この日、陽が傾き出すころに城に戻ってきたアヤは、金色の髪に夏には見られない花の花弁をつけていた。


「おかえり。また例の桜のところに行ってきたの?」

「……うん」


 万年桜に術がかけられていることを知ったアヤは、あの日からよく森へ行くようになった。

 散ることを知らず、同じ季節を繰り返し続ける桜。誰かの術によって『永遠』を生きることになった桜の木のことが気になったのだろう。

 最近、アヤの元気がないのも、森の中の万年桜のせいなのかもしれない。

 夕食を終え、いつものように居間のような部屋でくつろいでいる時、アヤのことが心配になったタクトは声をかけた。


「アヤ」

「んー?」


 返ってきた反応は薄く、心ここにあらずといった感じだった。


「大丈夫?」

「どうして?」

「最近、元気がないみたいだからさ」

「うん、大丈夫だよ」


 本人は「大丈夫」と答えたが、タクトには大丈夫そうには見えなかった。


「……本当に?」


 静かにそう問えば、アヤはタクトの方を見て困ったような笑みを浮かべて言った。


「……タクトには敵わないね」


 そして、アヤは静かに話し出した。


「……ちょっとだけ、戸惑ってるんだと思う……」


 語りだした声は小さく、とても弱い。


「あの森の湖には、よく行ってたんだ……」


 アヤは魔術を使うことがあまり好きではない。特に、人前で使うことを嫌う。それは、アヤが大きすぎる魔力を持っているせいでもあるし、他にも理由はある。そのいくつもの理由から、アヤは魔術を使おうとしない。けれど、たまに使いたくなる時があるそうだ。昔、初めてアヤが水と戯れる様子を見せてもらった時に、タクトはその話をしてもらった。人前で魔術を使いたがらないアヤは、たまに人気のない場所で水と戯れることで魔術を使う。森の中の湖は、アヤが水の魔術を使う場所のうちの一つだったようだ。


「でも……あの日まで、万年桜のことは知らなかった」


 そう言って、アヤは俯いてしまう。


「アヤ……」

「あの日は、ちゃんと万年桜の魔力を感じられたのに、どうして今まで何も感じなかったんだろうって……」


 タクトは何も言えなかった。


「……ごめん。本当に、ちょっと戸惑ってるだけだから」


 そう言ってアヤがうつむくと同時に、沈黙がおりた。

 その後もいくつか話はしたが、万年桜が話題に上ることはなかった。

 数日後、アヤはいつもの調子を取り戻した。そして、以前同様頻繁に季節外れの桜が咲く森へ足を運んだ。

 タクトは何も言わなかったが、いつもアヤのことを気にかけていた。

 あの万年桜には術がかけられている。悪意のない術だとアヤは言っていたが、何が起こるか判らない。魔術というものは、そういうものだ。

 万年桜に寄りかかり目を閉じるアヤの姿を見た時、タクトは何かを感じた。それは焦りと不安になって、アヤの名前を叫ぶことになった。

 あの時の恐怖を、まだ忘れられずにいる。だから、よく万年桜の元へ行くアヤを心配せずにはいられない。今日も。

 城の外へ出て行こうとするアヤの姿を見付けて、タクトは思わず呼び止めた。


「アヤ」

「なあに?」


 声のした方へ振り向き、アヤは不思議そうに首をかしげる。


「何処にも、行かないよね」


 口をついて出た言葉は、思いのほか小さく、弱々しかった。

 珍しく弱っているタクトの様子を見て、先ほど言われた科白は言葉以上に深い意味を持っていることに、アヤは気が付いた。だから、すぐに答えを返すことができなかった。


「タクト……」

「何も言わないでいなくなったり、しないよね?」


 いつの間に、弱くなってしまったのだろう。前は、こんなに弱くなかったはずなのに。

 アヤと出会って、アヤのことが大切になって、恋人になった今、大切な人を失うことがものすごく怖い。そう考えるだけでも、怖くて仕方がないのだ。

 置いていかれたくない。

 抱いた不安を隠すこともできず、そのまま声にのせて言っていた。


「行かないよ、どこにも。勝手にいなくなったりもしない」


 タクトの不安を感じとったアヤは、真剣な声で返した。

 大切な人を、タクトを失うのが怖いのは、アヤも同じだから。


「いなくなる時はちゃんと伝えるし、その時は、タクトも一緒に連れて行くよ」


 ようやく心を許せる相手と出会ったのに、その人の元を自分から離れていくことなどできない。


「うん」

「不安にさせてごめんね。でも、ありがとう。心配してくれて、嬉しかった」


 不安にさせたかったわけではないけれど、本気で心配してくれていたその気持ちは嬉しいから。アヤは、陽だまりのようなあたたかい笑みを浮かべて言った。


「……気を付けて、行ってきてね」


 安心できたわけではない。まだ不安は残っている。けれど、一緒に連れて行ってくれると約束してくれたから。だから、君を送り出そうと決めた。

 タクトが弱っているところを見て、今日はもう行くのをやめようと思っていたアヤは、タクトが送り出してくれたことに驚いた。せっかくタクトが背中を押してくれたのだ。アヤは、お礼を告げ、森の中の万年桜へ向かって歩き出すことにした。


「ありがとう」


 その時のアヤの笑顔は、稀にしか見られない、とても綺麗なものだった。



Fin.


…ひとやすみ…

友達からのリクエスト小説を考えていたら、何故か壮大になってしまったので、一応続きを書いてみました(笑)

サイトには、アンケート結果によって掲載しないことになっていましたが、4000hitのお礼文を用意していなかったので代わりにこの話をあげさせていただきました。


 いつもはアヤが弱ってタクトが慰めるということの方が多いので、今回は反対にしてみました。タクトが不安になって弱ってしまうなんて珍しいことです。まぁ、普段からタクトが弱っていないのかと問われれば「否」と答えますが。ただ、タクトはアヤ以上に隠すのがうまいというか、表に出せないだけなんです。それに、アヤのように助けがなくても勝手に一人で解決してしまうことの方が多い(という設定の)ため、めったに弱ったタクトが見られないわけです(笑)

 ここで少しだけ制作秘話ですが、実は前回の話をサイトに掲載する際にタイトルに悩みました。本当は「終わらない春」にしようかと思っていたんです。一本で終わるはずだったので。ですが、続きをサイトに掲載できなくても自分のところには残しておきたいと思ったので、シリーズとしてサイトにあげられるように「万年桜」というタイトルにしました。今では「万年桜」の方がしっくりくるなと思っています。

 残り一話。この話を考えた時からずっと終わり方だけは決まっていました。ですので、自分の中では納得のいく終わり方をしています。しかし、それが読んでくださっている皆さんにとって納得のいく終わりなのかが不安です。だから、アンケートを取ることにしたのですが。どんな終わり方をしても平気という方、気になる方は、あと一話、お付き合いくださると嬉しいです(*^^*)



初出:H26 5/28

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