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side story  作者: 夜音沙月
15/43

万年桜

 君が哀しげな表情を浮かべるから。

 『永遠』はそんなに良いものではないんだと思った。

 むしろ、残酷なものなのだと。


《万年桜》


 宙を舞う水。月の光により、水の球が宝石のように輝く。

 水が踊る湖の上には、白い服を着た一人の少女の姿があった。水辺には、少年の姿もある。

 先程から宙を飛び交う水の球は、湖の上に浮かぶ少女によって作り出されているようだ。少年は、静かに少女が水と戯れる様を見ている。

 夜中とはいえ夏のため蒸し暑さが残る街に比べて、この湖のある場所は肌寒く感じる。

 そんな湖で繰り広げられる少女と水の戯れ。それは、見る者が思わず溜め息を吐いてしまうほどに、幻想的な光景だった。

 少しすると、いくつもあった水の球が次第に数を減らしていった。そろそろ、少女が作る夢も終わりを迎える。

 最後の一つとなった水の球が、水面へ落ちていく。

 雫の落ちる音が、少女の作り出す夢の終わりを告げた。

 湖の上に浮いていた少女は、最後の一滴ひとしずくを見届けるため下に向けた視線をふっと上げた。

水辺でずっと少女の作り出す幻想的な世界を見ていた少年と目が合う。すると、ふわりと優しく、何処か儚げな笑みを浮かべた。

そして、すーっと宙を移動し、少年の前に降り立つ。


「おかえり」


 少年が口を開き、優しく笑いかける。


「久しぶりに見せてもらったけれど、すごく綺麗だった」

「ありがとう」


 湖に静寂が戻り、二人は緑で囲まれた湖面を見た。すると、どこからか白い花びらが数枚流されてきた。

 花びらはひらりひらりと宙を舞い、静かに水面の上に落ちる。流れてきた花びらが落ちたのは、二人から近いところだった。


「これ、桜……?」


 水面みなもで揺れる花びらを見て、少女が呟く。


「そうみたいだね。でも、いったいどこから……」

「こっち、かな……?」


 少年の言葉を遮るようにして、少女はふらりと歩き出す。


「アヤ?」


 少年は、慌てて「アヤ」と呼んだ少女の後を追った。

 少年が少女姿を見失ったころ、今まで歩いてきた森の中にある開けた場所に出た。

 先程までいた湖よりも小さいが、他にもまだぽかりとあいた空間があることを知る。そして、開けた視界に入ってきたのは、見事な桜の木だった。

 太い幹が、その桜の木が生きてきた年月を物語っている。

 時折吹く風が木々をざわめかせる度に、その木からは桜の花びらが舞い散る。

 その場所だけ、別の空間になっているような感じがした。

 桜の木を見ていると、幹からのびる太い枝の上に、人影があることに気が付いた。

 白い服に月の光を受けて輝く金色の髪をもつ少女だった。その少女が、幹に寄り添うようにして枝の上に座っている。今は閉じられている瞳が、本当は綺麗な翡翠色をしていることを、少年は知っている。

 再び目にした、幻想的な光景。

 わずかに、少女の身体が淡く光を放っているように見えた。


「アヤ!」


 急に言葉にできない焦りが生まれた少年は、思わず叫んだ。

 枝の上で木の幹に寄りかかるようにしていた少女が、少年の声に反応して、ゆっくりと目を開けた。

 宝石のような綺麗な翡翠色の瞳に、少年の姿が映る。


「タクト……?」


 そっと瞳を開けた少女―アヤが、少年―タクトの名前を呼ぶ。

 タクトの周りの空気が不安定になっていることに気付いたアヤは、枝の上からふわりと地面に飛び降りた。

 その様子は、桜の木の精霊が人前に姿を現したと錯覚してしまうようなものだった。


「大丈夫?」


 タクトの前まで来たアヤは、ことりと首をかしげながら尋ねた。


「大丈夫だよ」


 手を伸ばせば触れられる距離に、安心感が生まれる。

 知らないうちに臆病になっていたようだ。

 黙っているタクトが心配になったのか、尚もアヤはタクトの様子を窺っている。タクトは、もう大丈夫だと伝えるために再び口を開いた。


「大丈夫。少し、怖くなっただけだから。それより、こんなところに桜の木があったんだね」


 目の前に立つ、大きな桜の木を見上げて言うと、つられてアヤも桜の木を見た。


「私も、見付けた時はびっくりしたよ」


 タクトが故意に話の内容を変えたことに気付いてはいたが、本人が言った通り大丈夫そうだと判断したアヤは、話題を移した。


「でも……」


 アヤは哀しげな表情を浮かべて、再び桜の木の元へ近寄る。

 木の根元に来ると、太い幹に手をあてた。

 聞かなくても判った。

 何故、アヤがそんなに哀しそうな顔をするのか。

 目の前で咲き誇る桜は見事なものだ。しかし、今は夏なのだ。桜が咲く、春ではない。春はもう、とっくに過ぎ去ってしまっている。それでも、この桜の木は、花を咲かせている。


「ねぇ……『永遠』ってどう思う?」


 身体をタクトの方に向けて、アヤは尋ねる。

 アヤの、泣くのをこらえているような辛そうな表情を見て、タクトは答えようと開いた口を閉じた。

 安易に答えてはいけない。

 そう思った。

 沈黙が訪れると、アヤは再び桜の木に向き直り手を幹にあてた。そして、ゆっくりと言葉を紡いでいった。


「この桜の木は、春以外の季節を知らない。この木の時間は、ずっと止まったまま」


 春の次にくる夏も、秋も冬も、この桜の木は知らない。目の前の桜の木にとって、他の季節もずっと同じ春のままなのだろう。

 散ることを知らない万年桜は、同じ季節ときを繰り返す。永遠に。

 人は幸せな時間や命に『永遠』を求めるけれど。

 本当の『永遠』は、哀しくて、残酷なものなのかもしれない。


「……術」


 不意に、アヤが声を発した。


「えっ?」


 聞き取れなくて声をあげる。


「この桜の木には、術がかけられてるみたい」


 すると、アヤは身体ごと振り返って答えてくれた。


「だから、今も花が咲いているんだね」


 ようやく解けた謎。

 アヤは、目の前の万年桜からかすかな魔力を感じたのだろう。タクトには感じることのできないそれは、アヤが誰よりも強い魔力を持っていることを示していた。


「でも、どうしてそんな術を?」

「判らない。……でも、願ったんじゃないかな。枯れることのないようにって、永遠を」


 答えながら、アヤは桜の木へ振り返る。


「この万年桜にかけられた術から、悪意は感じられなかったから……」


 この桜の木に『永遠』を願った人は、どんな人だったのだろう。どんな気持ちで『永遠』を願ったのだろう。

 それは今、この時代に生きるタクトやアヤには判らないことだった。


「綺麗、なのにね。……なんだか、哀しいね」


 風に揺れる万年桜を見ながら、タクトがぽつりと呟いた。


「そうだね」


 森の中に風が吹く。木の葉がざわめくと同時に、桜も揺れる。そして、淡い桃色の花弁を散らす。

 季節外れに降る花の雪は、幻想的で。

 でも、何処か哀しさを含んでいた。



Fin.




…ひとやすみ…

 さくら咲く季節ときのssのプロットを書いている時、友達から「『狂い咲きの桜』でなんか書いて」と言われてできた話です(笑) ちなみに、あとから「夜」と「月明かり」という条件も付け足され、文学少女シリーズの三題噺のようになりましたww注文の多い人でした(笑)

 なんとなく、何故か素直に話を考え始めたところ、数時間後には壮大な話になっていました。シリーズになりそうなほどにww自分でも謎です。どうしてこうなった(笑)

 きっと、「狂い咲きの桜=万年桜」ということにしたのが原因になったのかと思っています(笑)

 とりあえずプロット(というよりもはや下書き)を書き始めたところ、意外とさくさく進み……。予想以上に早く話が出来上がりました。

 ちなみに、昔どこかで読んだ漫画に万年桜が出ていて、その話の内容がすごく印象的だったので、それを少しだけ参考にさせていただきました。参考にしたといっても、『万年桜』を出そう、と決めたことくらいです(笑)でもタイトルは忘れている←

 少しだけ、いつもと違う書き方をしたので、ちょっと大変でした。そして、疲れました。

 実は、少しだけこの話に関して考えている(悩んでいる)ことがあるのですが、それはまた後日にでもTOPにてお知らせしたいと思っています。その際、皆様が協力してくださると嬉しいです!

 それでは、長くなってしまいましたが、ここまで読んでくださりありがとうございました!!



執筆:H26 3/1~3/4

サイト掲載:H26 3/5

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