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side story  作者: 夜音沙月
14/43

幸せな時間を君に

 失うことの怖さ。

 彼女はそれをよく知っている。

 だから、僕は気を付けるべきだった。

 彼女の目から透明な雫が零れ落ちるのを見た時、それを実感した。


《幸せな時間を君に》


 ここ最近は、アヤもタクトも忙しかった。だから、ようやく仕事が落ち着いたこの日、先に書類仕事を終えたアヤは、執務室のソファーで眠りの世界へと落ちた。

 先日からいつもの元気がなくいアヤを心配していたタクトは、疲れた表情のまま眠る姿を見て、心の中で「お疲れ様」と声をかけた。

 暖房がきいているとはいえ、何もかけずに眠っていては風邪をひいてしまうかもしれない。そう思ったタクトは、ソファーで静かに寝息をたてるアヤにブランケットをかけた。

 それから少しして、タクトも仕事を終えた。

 ふと時計を見ると、もうすぐお茶の時間だった。

 タクトはすやすやと眠るアヤを起こすのをやめ、お茶の準備をすることにした。

 タクトが執務室を後にしようとした時、眠り続けるアヤの顔が歪んだ。しかし、それを目にする者はいなかった。



 起きる気配のないアヤだったが、眠り始めた時に比べて辛そうな表情が浮かべられていた。

 夢の中のアヤは、幼いころの世界に迷いこんでいた。



 どこにでもあるような温かな家庭。両親達の優しい笑顔。幸せな時間。

 永く続くように思われたそれは、呆気なく終わりを迎える。そのことを、アヤは知っている。

 ある日を境に、アヤは両親も妹も失うことになる。

 妹は、目の前で。

 泣きながら探した両親は、いつになっても見付からず、行方不明になってしまったことを知る。

 当時幼かったアヤには、辛すぎる現実だった。

 すぐに仮の両親の元での生活が始まるが、迷惑をかけないようにしていたアヤは、人への頼り方も甘え方も忘れていった。

 その時、アヤは知った。

 幸せな時間は、そういつまでも続かないのだと。



 辛い過去の夢から逃げるかのように、アヤは目を覚ました。

 むくりと起き上がり、執務室の中を見渡す。

 誰もいない。

 アヤはブランケットを肩にかけ直すと、執務室を出た。



 ふらふらと廊下を歩き、いつもタクトとお茶をしている部屋に行く。扉を開けて中を見渡すが、その部屋にタクトの姿はなかった。

 唇をきゅっと結び、再び廊下を歩く。そんなアヤの表情は、まるで迷子になった子供のようだった。

 次に訪れたのは厨房だった。

 入口から中を覗くと、探していた人物の姿があった。じっと見つめていると、視線を感じたのか、不意に顔をあげたタクトと目が合う。


「アヤ、起きたの?」

「……みつけた」

「どうしたの?」


 アヤの様子がおかしいことに気付いたタクトは、作業を中断してアヤの傍に寄ってきた。

 そっとアヤの手を包むと、驚くほどに冷たい。


「あったかい格好しないと、風邪ひくよ?」


 タクトが優しく声をかけると、二人の間を透明な雫が落ちていった。


「え……」


 突然のことに驚いてアヤを見ると、綺麗な翡翠色の瞳が涙であふれていた。


「いなく、なったかと思った……」


 あいている手で涙を拭いながら、小さな声で呟くアヤを見たタクトは何も言えくなった。だから、言葉のかわりに、そっと身体を抱きしめた。

 少しすると、アヤは泣きやみ、落ちつきを取り戻してきた。 タクトは、アヤの様子を確認しながらゆっくりと身体を離す。そして、優しい声で質問をした。


「何か、悪い夢でも見た?」


 ふるふると首が横に振られる。


「そう? じゃあ……」

「ただ、小さいころの夢を見ただけ」


 次の問いかけに困っていると、力のない声で答えを返された。

 タクトは再び言葉に詰まった。


「ねぇ……私、こんなに幸せでいいのかな……?」


 ぽつりと呟かれた言葉。タクトは何も言えなかった。

 幸せな時間は、永くは続かない。

 幼いころ、身をもって体験それをしたアヤは、そのことをよく知っている。


「怖く、て……。また、何か()くすんじゃないかって……」


 失いたくないと願っても、虚しく零れ落ちていく。

 手で掬いきれなかった水が、溢れて流れていくように、簡単に。


「……それなら、守ろう? 僕も、アヤの力になるから。だから……」


 ()くさないように、守ろう。


「それに、僕はずっとアヤの傍にいるから」


 心配しないでと言うように、タクトは自分の額とアヤの額を合わせて、優しい声で囁いた。


「……うん」


 温かくて、優しい幸せな時間は、永くは続かない。

 アヤは、それを体験しているから。

 身をもって、知っているから。

 でも、そう思ってしまうことは、哀しいことだから。

 それなら、いつか失うことのないように、その日が来ないように、守ればいい。

 永遠なんてないかもしれないけれど、幸せな時間は続いてもおかしくはない。

 今まで辛い思いをした分、幸せになったって罰はあたらない。

 誰にだって幸せな時間はあるし、永く続いていく。

 それを伝えたくて。


「今が幸せなら、それが続くようにしよう?」

「うん……」


 そのうち、今以上に幸せにしてあげるから。



Fin.

…ひとやすみ…

 ジャンル外ではあったものの、うっかりその二次創作漫画を読み、あげくの果てにその話がすごく気に入ってしまうということが起こりました(笑)

 そして、アヤもきっとこんなことを思うんだろうなぁ妄想する始末(笑)うっかり読んでしまった漫画のように、幸せな時間が続くことに不安を感じるのかなと。

 話は、うっかり読んでしまった漫画を参考に書きました。

 幸せな時間が続くこと、また何か失うことになるのではないかと不安になるアヤ。そんなアヤに、タクトはどう声をかければよいのか悩みながら、優しくさとします。

 前回はほのぼの系を書いたので、今回はしんみりした感じになりました。

 ここまで読んでくださり、ありがとうございました!


執筆:H26 2/23~2/27

掲載:3/2

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