あなたが幸せならそれで……
それは毎回のようにただ遊びに来たはるるんと、二人でお茶をしていた時に投げられた。
「もし、さ? もし、タクトくんがアヤちゃんじゃない人を好きになって、その人といる方が幸せだって感じるようになったら、どうする?」
突然の質問。
はるるんと一緒にいると、時々こういうことがある。
あまりにも唐突な問いかけは、初めこそは驚いたが、今ではなれてしまった。
「突然だね」
「うん。なんか、さ、ふと思ったんだよ」
何かあったのだろうか。それとも、ただの好奇心からか。
はるるんは、自分が見たり聞いたりしたことで疑問を持つと、時折こうして誰かに尋ねる。ただ他人の考えを聞いてみたいだけなのか、真剣に考えて悩んでいることなのか。それはその時によって違っているけれど。
癖、のようなものなのかもしれないと、いつだったか思ったことがあった。
「よく、『あなたが幸せならば、それでいい』っていう人がいるでしょう?」
本当にそう思っているのか。
そう、はるるんは思ったのだろう。だから、さっきの質問をしてきた。私の答えを予想した上で。
「まぁ、タクトが幸せなら、私は身を引くかな。といっても、タクトが本当に幸せそうにしていたら、だけどね」
本当に幸せそうにしている相手の邪魔はできない。それに、したくない。
「仲が良い二人の間に入っていこうとしたって、なんだか虚しいだけだと思うし……」
相手にされないのは淋しい。
そんな思いをするなら、いっそ離れてしまった方がいい。
「でも、友達のままではいたいな」
多方、予想していた答えと合っていたのだろう。
やっぱりね、という表情をしたあと、はるるんは哀しそうな光を、その目に宿した。
次にくる質問は、なんとなく判った。
「それで? それで、アヤちゃんはどうするの? アヤちゃんの幸せは?」
いつになく必死な様子で尋ねてきた。
「好きな人が幸せなだけで、その姿を見るだけで、アヤちゃんは幸せなの? 幸せになれるの?」
外れてほしい予想が合っていたから、必死になってしまったのだろう。
最初は、ただの好奇心だったはずだ。
本当に聞きたかったことが、今の質問だったとしても。そのために、一番初めにあの質問を投げたとしても。こんなことにはならなかった。
私の答えが、今の雰囲気にしてしまった。
「……判らない。でも、たまに私のことを思い出してくれたら、嬉しいかな。あの時は楽しかったな、って。でもね……」
でもね、はるるん。今までの答えは、本当のことであっても、本音ではないんだよ。
雰囲気が少し変わったことに気付いたのか、きょとんとした表情でこちらを見てきた。
「本音を言うと、判りたくないんだ。ずっと、今までみたいに私の方を見ていてほしい。離れていくなんて、できない。私の幸せは、タクトと一緒にいることだから」
「そっか」
その答えに安心したのか、はるるんは柔らかな笑みを浮かべていた。
「『あなたが幸せならば、それでいい』っていう人がいるけどさ、そうしたら、その人の幸せは? って思ったの」
思った通り、最初はただ気になっていただけだったようだ。それを変えてしまったのは、私だけれど。でも、本当は初めから……。
「心配、だったの?」
好奇心で尋ねてきた時から、私の答えを予測していたのだから。本当は、最初から心配していてくれていたのかもしれない。
「そう、なのかな?」
「違うの?」
「……不安、だったんだよ。アヤちゃんも、そういう考え方をする人だから」
まぁ、否定はできないな、と思う。
「でも、よかった」
「うん。まぁ、前の私だったら、はるるんが心配したようなことを言ったと思うな」
昔の私は、自分よりも相手の幸せを考えていた。『あなたが幸せならば、それでいい』と。周りの人が心配するということも判らずに。
今は、そんなこと思わない。
出会った時からっ私のことを気にかけてくれていたタクトと、恋人という関係になって。そこにある日常の、幸せで温かな時間を知って。一度知ってしまうと、それはなかなか手放せないものであることを実感した。
「今はもう、タクトなしじゃ幸せを感じられない」
それほどまでに、タクトの隣の居心地が好くて。他にも
「はるるんとか大切な仲間がいるし。それに、ね? タクトもはるるんも、私のことを想ってくれるから」
それが嬉しかったりするのだ。
二人共、私のことを大切に想ってくれている。それが判るから。
少しこそばゆいけれど、温かくて。
「だから、ね、『あなたが幸せならば、それでいい』なんて言えない」
狡いとか酷いとか言われるだろうけど、今は。
「みんなといるのが幸せだから」
それはきっと、これからも。
手にしてしまった温もりは、手放すことなどできない。
「そうだね」
はるるんが嬉しそうに笑う。だから、私もつられて微笑んだ。
Fin.
…ひとやすみ…
ブログのお題あさりをしていたら目にとまったので、書いてみました。
アヤなら、きっとお題と同じことを言いそうだなぁ、と思いつつ。でも、タクトやはるるんと過ごすうちに考えが変わるんです。
誰かと一緒に過ごすようになって、今までとは違う考え方をするようになる。そういうことってあると思います。
H25 2/7執筆




