桜の花びらに
《桜の花びらに》
静かな執務室には、ペンが紙の上を走る音と、動かされた紙が立てる音だけが響いていた。
そっと扉が開かれ中に入ってきたのは、このフローレ国の王様であるアヤだった。
「おかえり」
ペンを走らせていた手を止め、タクトは顔を上げて言った。
気が付けば外に出ているアヤには、もう呆れたり怒ったりすることはない。毎日のように繰り返されていた行動には、もう慣れてしまっていた。それに、そこがアヤらしいと思っていた。
「ただいま」
そう言ってアヤは微笑む。何かいいことでもあったのだろう。嬉しそうにしている。
アヤがくるりと背を向けて出ていこうとした時に、ひらひらと何かが舞った。
それは、桜の花びらだった。
その花びらを見ていたら、いつの間にかアヤの姿が消えていた。
少しすると、再び執務室の扉が開いた。そして、お茶とお菓子を持ったアヤが入ってきた。
「タクト、お茶にしよう?」
「そうだね」
執務室にある、もう一つのテーブルにお茶やお菓子が並ぶ。そして、二人はお茶にした。
何気ない会話はしたものの、二人の口からは『桜』という言葉は出てこなかった。
次の日も、城の中にアヤの姿はなかった。
そのことに気付いたタクトは、仕事をきりのいいところでやめて、城の外に出た。そして、アヤもタクトも気に入っている丘がある草原に向かって歩き出した。
しばらくすると、小さな丘が見えてきた。しかし、タクトは丘には向かわなかった。丘の左奥に広がる草原の方へと歩いていった。
歩いていると、風に乗って薄桃色の花びらが運ばれてくる。花びらがやってくる方へ目を向けると、長い桜並木が見えた。春だけにしか現れない、アヤとタクトのお気に入りの場所だ。
桜並木の中へ足を踏み入れ、進んでいく。
時折吹く風に桜の花が揺れて、ひらひらと花びらが宙を舞いながら落ちていく。その様子は、まるで別の世界にいるような気分にさせた。
少し歩くと、前に人影が見えた。背中に流れる金髪は、タクトのよく知る人のものだった。
「アヤ」
声をかけると、アヤが振り返る。そして、タクトの姿を確認するや否や、嬉しそうにふわりと笑った。
「タクト」
「ここに来てたんだね」
「うん。昨日の花びらで判ったの?」
「なんとなくだけれどね」
「そうなんだ。きっと来てくれると思ってたんだ」
アヤの声は柔らかく、嬉しそうな響きをしていた。
「わざとやったの?」
「まさか。あれは偶然だよ」
「ふーん」
「あ、信用してないでしょ」
故意に信じていないような感じで頷くと、アヤはちょっとすねたような口調で言った。そんなアヤが可愛くて、タクトは時々少し意地悪なことを言うのだった。
「本当はね、明日あたりに誘うつもりだったんだよ。ここの桜が満開になったから」
「そうだったんだ」
「うん。けど、今日来てくれたから……」
アヤは一旦言葉を切った。そして、
「すごく嬉しい」
幸せそうに笑った。タクトにしか見せないようにしている笑顔で。
―――桜の花びらに誘われて来た桜並木。
そこで見たのは、桜よりも綺麗に笑う君の笑顔―――
―――fin
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*COSMOS HEART*
一周年記念企画参加作品
テーマ…桜
こんにちは。
この作品を執筆しているとき、スランプ?もしかしてスランプなの?みたいな状態になってしまい、焦ってました。
原因がだいたい判り、この話を完成させようとしました。そうしたら、思いのほかスムーズに執筆できましたΣ( ̄□ ̄;)
この話は、プロット以上に甘くなっていまい……正直焦っています。こういった話を書くと、その後に恥ずかしくなるからです>///<
でも、妄想(想像)している時や書いている時は楽しいんです♪アヤとタクトが仲良くしてくれれば、私はそれで満足です(笑)
では、ここまで読んでくださりありがとうございました!!
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