満天の星over俺 【星企画】
Tm様の星企画に便乗させていただきました。
星空を見上げる心の余裕を持ちましょうねって話。
【星企画】http://naroutm.web.fc2.com/
満天の星ってあるでしょう。でも今どき星空を気にする人なんて、それほどいませんよね。七夕?織姫と彦星の?……ああ、昨日だったっけ。なんて、よくある話です。
えーと、橋山光さんは……T市の出身?なるほどねえ。ここはそれほど都会でもないし、夜空も綺麗に見えたでしょう?だけど、星空なんて見上げていたのは子供のころだけ。そうでしょう?ほら、図星ですね。なるほどなるほど。
……ぷふっ。
大人になって――え?笑ってませんよ。いや笑いましたけど。別に橋山さんを笑ったわけじゃありません。ほら、星空なだけに図星って……くくくっ。あ、わかりません?ほら、漢字で書くと……くだらない?はあ、そうですか。
さて、閑話休題として。私はともかく橋山さんには時間がありませんからね。
大人になって夜空を見上げた。しかしあれ、と思う。こんなに星は少なかっただろうか――。
正解ですか?そんな悔しそうな顔しないでください。よくある話ですよ。都会に出て、実家にはあった自然が懐かしくなる、というのは。
ふいに望郷の念が浮かび、そしてあなたは願った。
満天の星空を見たい。
「それで、あなたはいまここにいるわけです」
「質問いい?」
「はい、どうぞ」
「ここってどこ?」
「ヴェルディトリア。地球出身のあなたからすると、異世界にあたります。具体的な場所を言うと、エルス神聖王国の西に位置するグレーラン草原ですね」
「あんた誰?」
「私はあなたがたの言う神にあたります。といっても管理職でしかありませんけどね」
「ひとつ言っていいか?」
「はいどうぞ。あ、ただし、神に関する質問はなしにしてください。機密情報の公開は厳禁ですので。とはいっても、人間の知能で理解できるレベルではないのですが……
「黙れいい加減にしろ電波野郎ッッッ!!!!!!」
結論からいうと、電波じゃなかった。
それどころかマジで神らしかった。
いろいろと魔法やら何やらを使って証明されたが、説明は面倒なので省く。
さすがに、地面からにょきにょき木が生えてきたら信じざるをえない。
だが敢えて呼んでやる。電波野郎と。
「嫌ですね。気軽に神様と呼んでくださって結構ですよ。私はこう見えても堅いタイプではありませんから」
「黙れ電波野郎。心読むな。読んでも声に出すな」
あー……少し恥ずかしいが、さっき電波が言った「満天の星空が見たい」っていう願いは本当だ。
子供のころは、夜に空を見上げたら星が綺麗に光ってて、「わあっ…」とかならなかったか?少女趣味とか言うな!子供のころの話だよ。
それがさ、高校生になって、東京の大学に上がって。ああ、言っておくがインテリジェンスが通うあの大学じゃないから安心しろ。そうこうするうちに忙しくて夜空を見上げる余裕なんかすっかり忘れちまった。ま、男なんてそんなもんだろ?
だから、愕然としたんだ。
夜空ってこんなだっけか……?
朝のニュースで言ってた流星群ってのを見ようと、窓から空を見上げたんだ。
けど、曇り空なのか街灯のせいなのか知らねえけど、煌々と輝いてるのは月だけだ。しし座流星群ってのも、これっぽっちも見えない。1,2個だけぽつりぽつりと光ってるのを見たら、実家の夜空が見たいなあって思ってさ。センチメンタリズムってヤツ。
なんかヤケになってさ。
雲の上では流れ星も流れてんだろ?俺の願い、かなえてくれよ。高地でもどっか行ってさあ、俺、満天の星空が見たい。
なんてさ、ロマンチックなこと考えて。
だって普通かなうなんて考えないだろ?
まばたきした直後、俺はこの何にもない――あるのは草だけっていう草原に、満天の星空を見上げながら立っていた。
「えーとそれで、帰れない?」
「はい、そうですね。異世界転移は人体に負担がかかるので、1回のみです。地球に帰っても身体が内側から破裂します」
「グロッ。……で、何であえて異世界にしたわけ?」
「ヴェルディトリアの夜空で視認できる星は、数ある異世界の中でも最も多いので」
胸を張られた。
いや、知らねーよ。ヴェル…とかどうでもいいから。長野とかそこらへんでいいだろ。
ふざけてんの?ふざけてるよねコイツ。それとも頭悪いの?なあ殴っていい?
「やめてください」
「心読むな。つか普通、星空と人生どっちとる?って問われたら迷わず人生選ぶに決まってんだろ」
「捨てるほうですか?」
「どうやったらそんな考えが浮かぶ!?わざとだろ?わざと俺を怒らせたいんだろ!?俺に何の恨みがある!?」
「まあまあ、落ち着いてください」
「どうやったら落ち着けるかってんだごほっぐぉほッ」
むせた。
まったく、こんな奴が神をしてるとか有り得ん。
「そうですか?」
「だから心読むなって……だって神って人々を幸せに導くものだろ。俺不幸になってるじゃねえか」
「神といっても、世界の均衡が崩れないように監s…もとい、見張っているだけなのでね」
「言い換えても同じだから」
さわさわと風が草をゆらしていく。見渡す限り草しかない。こんな草原、今まで通り地球で過ごしていたら、一生お目にかかれなかっただろうな。
上を見上げたら満天の星空。
この世界にも星座はあるのか?実際のところ、星座って線でつなげただけじゃ全くその物に見えないよな。オリオン座なんて、むしろ砂時計座にしたほうがよさそうだし。
なんで、俺なんだろうな。
こんなしょうもない願い、かなえなくたっていいのにさ。
ま、聞いたところで電波は答えてくれなさそうだけど。
本当のところを言うと、この世界に来て、上を見上げて。
絶句した。
星って、たくさんの太陽を見てるってだけだろ?それが、なんでこんなに……綺麗なんだろうな。
「なあ神様、俺の人生壊してくれたことには滅茶苦茶文句言いたい。けどまあ、この星空には、感謝してる……かな」
キザっぽく振り返った俺が、後ろにいた神様がいなくなっていることに気づくまで、あと30秒。
神殿の遣いというのが仰天しながら、野宿していた俺を起こすまであと7時間。
俺が年齢を間違われて、学校に入れられるまであと5日。
何を間違ってか、俺が天文学者になるまであと3年と半年。
子供や孫に看取られながら死んだ俺が、あの世で神を殴り飛ばすまであと60年とちょっと。
そんなことも知らない俺は、暢気に夜空をながめているのであった。
他の参加者の方に比べると稚拙かもしれませんが、暇つぶしでもなったなら嬉しいです。
読んでくださってありがとうございます!