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夢の木と幸福の鳥

作者: 躑躅 角

 日も暮れかかる頃、小さな小さな男の子が森の暗い道を一人歩いていました。 くたびれた青いブルゾンを着てトボトボ歩く、その様子はどこか寂しげでした。

 それを上から見ていた、古木は言いました。

「こんな所に、何をしにきたんだい」

 けれどもそれは、枯葉を落とすことも出来ない静寂の声。男の子には聞こえません。男の子はトボトボと歩いていきます。

 古木は困りました。

「この道を行ってはいけない。この道の先には…」


 そこへ、一羽の小鳥がやって来ました。古木の枝に止まって言いました。

「おやおや、小さな子、どこへ行くのだい」

 けれどもその声は小鳥のさえずり、男の子には分かりません。小鳥は困りました。

「行ってはいけないよ。だってこの道の先には…」


 古木は枝に止まった小鳥に言いました。

「小鳥さん小鳥さん、あの子を行かせないでおくれ、どうかお家に届けておくれ」

 けれどもその声は、虫を追い払うことも出来ない、静寂の声。小鳥には聞こえません。男の子はトボトボ歩いていきます。

 小鳥は足元の優しそうな古木に言いました。

「古木さん古木さん、どうかあの子を止めておくれ、そうして、来た道へ返しておくれ」

 けれどもその声は小鳥のさえずり、古木には分かりません。古木と小鳥は考えて、それぞれに、ある決断をしました。

 古木は花を咲かせました。千年に一度の花を、無理矢理に、ありたけの力で、咲かせました。 その美しいブルーの花は、暗い森の道に暖かな明かりを降らせました。

「引き返しておくれ」

 古木が言うと、男の子は立ち止まって振り返りました。

 小鳥は歌いました。小さな肺が破れるほど大きく、そして綺麗な声で。美しい旋律に乗せて小鳥は言いました。

「行かないでおくれ」

 男の子は走って引き返してきました。そして古木の下まで来ると目に涙をいっぱい溜めながら言いました。

「おとうさん、ぼくも夢の木と幸福の鳥を見つけたよ。これでやっと会えるんだね」

 けれどもその声は人間の子供の声。古木と小鳥には分かりません。

 男の子はその場に横たわると、落ちていた小鳥の死骸を胸に抱きました。朽ちていく古木がパラパラと雪のように、男の子の体に降り積もり、やがて全てを覆い隠すと、そこには美しいブルーの花の、暖かな明かりが添えられました。

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