変化2
モジャモジャはイヤフォンで恐らく音楽を聴きながら、下を向いていた。やる気がまるで見えない。うちは静かに近寄ったのだが、まるで気づいていないようだった。
うちはタバコに火を付け、煙りを深く吸い込み、ゆっくりと息を吐きながらモジャモジャをしばし観察してみた。
古着にも程があるヨレヨレのTシャツ。明らかに故意ではない穴だらけの汚れたジーパン。何年ものかわからないスニーカー。汚いモジャモジャ髪を後ろで束ねている。
次に売り物を見る。なるほどバザールだ。小学生が夏休みの自由課題で作ったような木製の貯金箱、様々な衣服、新品とは思えない食器類、謎の球体。よくみたらバスケットボールだった。なぜこんなものを…と思うようなものばかり置いてある。
うちはタバコの火を消して携帯用灰皿に収めてから、やっとモジャモジャに声をかけた。
「何がオススメですか?」
返答をまったが何もなし。こいつ売る気あるんだろうな?
ふと視線を感じて顔を上げると、ニキさんがこちらを見ていた。「どうよ?」と言う顔。うちは肩を竦めてみせた。
しゃがんでぼうっと商品を眺めながら、なんとなくバスケットボールを撫でた。
と、突然モジャモジャが口を開いた。
「へぇ、それに興味があるのか?」
モジャモジャを見ると、顔は上げずに俯いたままだった。だけど口元が笑っているのがわかった。
「別に…なんでこんなもの置いてるんだろうなと思って。…これ、いくら?」バスケットボールを指差しながら聞いてみた。モジャモジャがクスクス笑って答える。
「それぁ、売り物じゃないよ。別に売ったっていいけど、オススメはしない。一度きりでいいからな
」「何回でも遊べそうだけど」
「土で出来たボールで?どうやって?」
「土?」
よくよく目を凝らす。普通のバスケットボールにしか見えないが。暗いせいかもしれない。
「持ち上げてみろよ。落としても構わないけど、そうすると壊れるから買い取りになるよ」
そう言われて、持ち上げてみた。
「うわっ、おもっ」
異様に重い。確かに普通のバスケットボールではないようだ。
「売り物じゃないのに、壊したら買い取りになるの?」
「店の装飾品さ。どんな店だって、店のもの壊したら弁償だろ?」
これが装飾品ねぇ…。
「センスを疑うな」
うちはニキさんに向かって(彼はやはりこちらを見ていた)もう一度肩を竦めてみせた。