日常3
うち(職場では一人称を私に設定)は駅構内で絵を売っている男性に挨拶をした。
「こんばんは」
「やー、ども。こんな時間まで仕事?」
まだこの仕事を始めたばかりの頃、疲れてうなだれながら歩いていたら見つけた絵師。なんとなく目についた絵葉書に誘われるがまま近づいたら、絵師である男性、ニキさんと仲良くなった。以来、一服仲間だ。
職場は禁煙のため、帰り際にニキさんと他愛もない話をしながら一服するのは至福の一時である。ちなみにニキさんは兄弟で絵師をしていて、二人のときもあればニキさん一人のときもある。お兄さんのタロさんが一人で売ることはないらしい。
「これ、差し入れ。生徒の親から貰った和菓子なんだけど、よかったら」
「おー、ありがと」
和みますなー。ニキさんはいつも笑みを浮かべながらあぐらをかいてタバコをプカプカ吸う。うちはいつも通り絵を見ながらこれはいいとかあれは高いねとかテキトーに話す。
「そうだ、そういやさ」
ニキさんがうちの『タバコをくわえるキリンが欲しいですな』話の腰を折って口を開いた。
「最近ってか、2週間ぐらい前からなんだけど、変わった人現れたよ」
「客?」
「売ってるほう」
「変なの?」
「よくわからないもんばっか置いてて、雑貨に見えるけど、それにしては陳腐だし…小学校のバザールみたいな」
バザールがツボってうちはひとしきり笑った。笑いながら新しいタバコに火を付ける。
「売ってる人とは話したことないけど、見た目は普通なんだよね。いや、変か…?」
「ナニソレ」
「あ、噂をすれば来たよ…ほら、あの黒い旅行用カバン持ったあたまモジャモジャの」
ふぅん…確かに普通に見える。けど髪の毛異様にモジャモジャだな。天然にも程があるってなもんだ。
モジャモジャはうちらから数メートル離れた柱の下で立ち止まり、店開きの準備を始めた。
「興味あるなら行ってみたら?」
「そうしよかね…ニキさん、次来るのいつ?」
「今週はもう来ないから…来週の火曜あたりにくるかな」
「おっけー楽しみにしてるわ」
「じゃ、向こうの店の感想よろしく」
手を振って別れたあと、一旦コンビニに寄ってタバコを買い、モジャを目指した。
この行動を、後々とても後悔することになるなんて毛ほども思わずに。




