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うーん、終わらなかった。
その日から、彼らのオレンジは飛ぶように売れた。
いままで見向きもされなかった白いものは、並べられるとまたたく間になくなった。それがなくなると、代わりにコインが山のように積みあがる。集団はべとべとに汚れ、辺りに甘ったるい匂いを漂わせていた。それは決して心地いいものではなく、広場を通り過ぎる人たちは怪訝そうに見下していった。
多くのオレンジの購入者のなかには、ポールやエカテリーナも含まれていた。彼らはひたすらに道楽を求めていた。これは暇つぶしにはピッタリの遊びだった。彼らは一つずつオレンジを買った。汚いものを触るように、集団からそれを受け取る。彼らはまるで何もわからないサルのように、集団とオレンジを見比べた。嫌な笑みを浮かべる。彼らはレバーを押し倒すように、それを集団に投げつけた。そこに思案やら感慨やらはなにもない。ただレバーを倒しただけ。多くがそうであるように、オレンジは爽快に破裂した。果汁があたりに飛散する。
「どうだ、俺が一番広く飛び散ったぜ」とポールは威張る。「やーん、洋服に汚い汁がついたわ」とエカテリーナは愚痴る。オレンジを買った誰しもが、そんなふうに笑っていた。
「お前もやってみろよ」ポールは僕にそれを勧めた。
「いいよ。僕には金がないから」
「なに言ってんだ。お金ぐらい俺が払ってやるよ。こんな楽しいこと、やらないのは損だぜ」ポールは大きく膨らんだ袋からコインを一つ取り出した。そうして有無をいわさず、集団に放った。それを集団のひとりが拾い上げ、代わりに腐ったオレンジを僕に渡す。僕はそれをしぶしぶ受け取った。オレンジが僕の手に渡る。
オレンジが僕の手に食い込んだ。オレンジの重さに僕は驚く。それはまるで鉄球のようだった。オレンジは恐るべき力で、砲台である僕の手を潰そうとしているようだった。僕は片手では耐えられず、両手で支える。それでも支えきることはできず、蟹股にまでなった。それを演技だと思ったのか、ポールたちは腹をかかえて笑う。僕はとんでもないと思った。笑い事じゃない。僕の腕は頼りなくプルプルと震えていた。身体はひどく硬直していた。オレンジは僕の身体まで潰そうとしていた。
「さあ、早く投げちまえ!」ポールが急かす。
「すこしは男らしいところを見せなさいよ」エカテリーナが急かす。
僕はオレンジを投げ捨てた。それは集団とはまったく関係のない方にとんだ。本当に、間逆の方だった。それは放物線を描いて落下する。腐ったオレンジは地面で潰れた。その姿は潰れた脳みそを思い起こさせた。僕の身体は完全に衰えていた。僕は疲労で激しくあえいでいる。
集団は虚につかれたように僕を見つめていた。そしてポールたちは、僕に哀れみの目を向けていた。
「つまんね」ポールはそういって、エカテリーナを連れて去っていった。
僕はまだ、あえいでいた。難しいことを考えることはできなかった。
あれだな、意味を与えようとしたらだめだな。
面白くない。