3-1.「一番いい運動」
へとへとだ。
悪夢の二日間だった。
こういう時、男性と女性の体力の差を感じる。
イロイロされていたのはこちらだというのに、何故あちらはあんなに元気なのだろう。
「年かしら……」
「何をいってるの、あんたまだ21でしょ」
友人の麻美が呆れたように私を見下ろした。
私はテーブルに顔を伏せたまま、視線だけを上げてそれに応える。
「いや、年を感じる。……休みの間に、同じ運動したはずなのに、おとうとの方がずっと元気なんだもの」
「ああ。弟君ね、元気してる?」
「元気も元気」
それどころか人を弄んで御満悦、艶々した肌で登校しているのではないだろうか。
同じ大学に通う身ではあるが、学部が違う上、教室移動も多いので会おうと思わない限り、滅多に出会う事はない。
今頃何をしているのだろうか。
私はこんなにぐったりとしているのに……。
正直、何かに体重を預けていないとだるくて敵わない。
いっそ、寝てしまえたらどんなにいいか。
生憎と次の授業は単位を落とせない授業だから出ないわけには行かないのだ。
「しかし、そんなくたくたになるなんて……山登りでもいったの?」
気の毒そうな目で麻美が私を見た。
「まぁ、そんなもの」
人生の山を一つ越えてきたかな。
私は曖昧に笑ってごまかした。
それにしても、だるいことだるいこと。
昼休み、大学にいくつかある食堂のうちの一つにあるテラスの席で、私はぐったりと身を伏せていた。
背中に当るほかほかした日差しが暖かく気持ちいい。
傍らでは、私の苦境などどこ吹く風で麻美はのんびりお茶を飲んでいた。
「筋肉痛が翌々日以降に出ると年取った証拠っていうけど。……あんた、運動不足なんじゃないの?」
ぐびっと腰に手を当てて栄養ドリンクのように紅茶を飲みほすと、タン、とソーサーにカップを戻した。
快活だというと聞こえはいいけれど、麻美はがさつなだけだと思う。
「マラソンなんてどうよ? やってみたら?」
「無理、長距離なんて1km走っただけでへばっちゃう」
それどころか100m走るのさえ私はいやだ。
「体力つけるために走るんでしょ」
「肺が死ぬわ」
「我侭ねー。じゃあ、水泳は?」
「冷え性だし」
私が冷え性なのは本当だが、それは拒んだ真の理由ではない。嘘も方便というヤツだ。
本当の理由は、水着を由人の前以外で着るとご機嫌斜めになるのが目に見えているからだが、そんなことはいえない。
たとえ仲のいい麻美であっても、私と由人は仲のいい姉弟だと言うことは知っていても、恋人であるとは知らないのだ。
公式上、私は彼氏はいらない女で通している。
「エアロビは?」
「習うのにお金かかりそうだから」
「じゃあ、太極拳、これでどうだ!」
「それ、体力付くの?」
「……知らない」
「じゃあ、ダメだわ。……というか、やり方もよく知らないからやっぱり習わないとダメじゃない?」
「アレもコレもソレもダメって注文煩いわね、あんた。……いっそ、弟君に相談したら?」
「由人に?」
「そうそう。仲のいいオトート君なら考えてくれるんじゃないの?」
「考えてくれるかなぁ?」
金払えとか、よくて晩御飯を一品自分にだけ増やせと注文をつけてこないだろうか。
不安がよぎる。
「相談するだけすればいいじゃない。ダメならダメでまた相談乗ってあげるわ」
「わかったそうしてみる……」
予鈴がなった。
次の授業はここから離れた校舎だ。
私はぐったりした体をダルそうに持ち上げながら、次の授業の教室移動に備えて立ち上がった。