第1話 落ちこぼれの魔導士
第1章 1/6 はじまり
世界が崩れかけていた。
空は裂け、紫色の魔力が雲のように渦巻いている。
大地のあちこちに巨大な魔法陣が浮かび、暴走した魔力が雷のように走っていた。
その中心に、ひとりの少年が立っている。
オリオン。
そして、その前に立つ少女。
白い髪が風に揺れる。
月の光のような魔力が、彼女の周囲に静かに漂っていた。
セレナ。
彼女は静かに言う。
「あなたしか、世界を救えない」
オリオンは苦しそうに笑った。
「俺は……ただの人間だ」
セレナの瞳は揺れない。
「違う」
「あなたは――」
その瞬間、世界が光に包まれた。
――――――――――
数年前。
王都魔導学院。
「オリオン・レイヴァルト」
教師が名前を呼ぶ。
教室の後ろの席で、少年が手を上げた。
「はい」
教師は手元の紙を見て、ため息をついた。
「魔法適性試験、再評価の結果が出た」
教室の空気がわずかに変わる。
「攻撃魔法適性――最低ランク」
小さな笑い声が上がった。
「またかよ」
「落ちこぼれ」
そんな声が聞こえる。
オリオンは肩をすくめた。
(まあ、知ってたけど)
教師は続ける。
「補助魔法は平均レベルだが……魔導士としては厳しいな」
「努力は認める。だが現実も見ろ」
オリオンは苦笑した。
「はい」
それ以上言うことはない。
授業が終わると、クラスメイトが近づいてくる。
「おいオリオン」
炎魔法使いの少年、カインだ。
「また最低ランクかよ」
「まあな」
「よく学院に残ってられるな」
オリオンは笑った。
「実習で役に立ってるからじゃない?」
そこへもう一人来る。
長い青髪の少女。
リシア。
彼女は静かに言った。
「カイン、からかうのはやめて」
「実習では彼の補助魔法が役に立っている」
カインは鼻を鳴らした。
「まあ、それは認めるけどな」
その時、教師が教室に戻ってきた。
「お前たち、実習任務だ」
教室がざわつく。
「王都北の森で魔物が増えている」
「討伐と調査を行う」
カインが笑った。
「やっと実戦か」
オリオンは小さく息を吐いた。
(まあ、いつもの補助役だな)
森の奥。
オリオンたちのパーティーは慎重に進んでいた。
メンバーは五人。
カイン(炎魔法)
リシア(氷魔法)
シオン(風魔法)
ガルド(防御魔法)
そしてオリオン。
「索敵、異常なし」
シオンが言う。
その直後だった。
茂みが揺れた。
魔物が飛び出す。
「来た!」
カインが炎魔法を放つ。
火球が魔物を焼き払う。
戦闘は順調だった。
だが。
地面が揺れた。
巨大な影。
森の奥から、大型魔物が現れる。
「嘘だろ……」
カインが呟く。
想定外のサイズだった。
魔物が咆哮する。
「散開!」
リシアが指示を出す。
戦闘が始まった。
炎。
氷。
風。
魔法が飛び交う。
だが魔物は強い。
ガルドの防御を突破する。
隊形が崩れた。
その瞬間。
カインが放った炎魔法が――
オリオンの方向へ飛んだ。
「しまっ――」
カインの顔が青ざめる。
オリオンは反射的に動いた。
(まずい)
避けながら魔法を放つ。
狙いはひとつ。
炎を打ち消す。
だが。
次の瞬間。
炎が――膨れ上がった。
「は?」
カインが声を漏らす。
炎は巨大な爆炎となり。
大型魔物を飲み込んだ。
轟音。
爆発。
そして静寂。
魔物は跡形もなく消えていた。
誰も動かない。
カインが言う。
「今の……俺の魔法か?」
リシアが首を振る。
「威力が異常」
オリオンは呆然としていた。
「俺は……」
「打ち消そうとしただけだ」
誰も答えられなかった。
その夜。
寮の部屋。
オリオンは机に向かっていた。
ノートを開く。
戦闘の記録を書き始める。
魔法のタイミング。
魔力の流れ。
炎の変化。
しかし。
答えは出ない。
オリオンは空を見た。
月が出ている。
「……なんだろうな」
胸の奥に、妙な違和感が残っていた。




