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【4】アランの回復~治る

さて前世の記憶を取り戻したアラン少年はまだ本調子ではないみたい。眠って体を休めた後はどうなる?

 3日ぶりに目を覚ますと枕元には水差しとコップが載ったトレーがあった。コップ一杯の水をごくごく飲んだ。

「ふー、おいしい!」

 ベッドサイドのチェストからハンドベルを取ってチリンと鳴らした。


 コッコッコッ、ノックの後に

「アラン様お呼びでしょうか。」

 の声がドアの向こうからした。えーと、コレットだっけ?ぼんやりしていた意識の焦点がだんだんと合ってきた。

「コレット、入って。」

 と声をかけた。ミルクティー色のふわっとした髪で琥珀色の瞳をしたコレットが入ってドアを閉めた。


「アラン様、お目覚めになられたのですねよかった~。」

 と彼女は安堵のため息をついた。

(「あ、この子知ってる。」)と感じる自分と(「誰だっけ?」)と不思議に思う自分がいる。

「コレット。ぼ、ぼ…わたしはどうしたの。」

 まだ現実に戻ったばかりの僕は困惑して言った。

 僕より10歳以上年上でおとなのコレットは躊躇なく

「失礼します。」

 と言っていきなり僕のおでこにサッと手を当てた。コレットの柔らかな手のひらの温もりを感じて、男子校中学生の意識を蘇らせた僕はドギマギした。男ばかりの学校で2年半以上生活していたので女性に対しての免疫がない。クラスでAIを使ったフェイク〇ードで同級生をおかずにするなんてことも起こらない。はなから女子がいないのだから。


「お熱も下がったようですね。2日前にびしょ濡れで帰られてベッドに入られたでしょう?その後で高いお熱が出たんです。うなされていました。でも、もう大丈夫ですね!セリア様にお知らせしてきます。」

 と言って部屋を出て行った。良かった。顔が赤くなったのをコレットに悟られなかったみたいだ。思わずシーツの下に顔をうずめてしまった。5歳児の僕はこれまでコレットのことを女性として認識したことがなかったな。次第に意識の焦点が定まってきた僕は思った。


 バタンと音を立ててドアを開き母様が飛び込んで僕に抱きついてきた。あらためて見る母様の栗毛はなんて柔らかなんだろう。ヘーゼルの瞳も透き通って美しい。母様に抱きしめられるのは恥ずかしくない。その温もりはとっても安心する。

「アラン、3日も熱が下がらなくて心配したわ。このまま回復しなかったらどうしましょうと気が気でなくって。」

 母様が涙ぐんだ。この世界では病気で亡くなる子どもは多い。母様の心配は当然だ。

「お腹が空いていないかしら?」

「うん、少し空いてる。」

「普通の食事は無理だから少ししたらマノンにパンがゆを用意させるわ。それを食べたらよく休むのよ。」

 と安心した母様は厨房に向かった。


 その後料理長が作ったパンがゆをコレットが持ってきてくれたので、それを食べた。こっちの食事ってこんなに味気なかったっけと前世の味覚が戻った僕はそう感じた。食事をとるとまだだるさがとれないので再び眠った。


 眠りについてから丸一日経つと熱も引いてすっかり回復した。気分爽快だ。「明日 明日わ~たしは~だい~じょうぶだよ~ 不思議だね~気分爽快だよ~」と歌が頭の中で流れた。今日は父様が王都から戻って来るので家族みんなで夕食をとるのだ。自分が寝込む原因となった前村長の息子のことは黙っておこう。大智の意識からすると彼らは前世なら就学前のガキなのだ。ここで彼の一家に罰が与えられるのはなんだか気が重いから。そう思い寝巻から普段着に着替えて食堂へ向かった。


「アラン心配したぞ。セリアも気が気ではなかったみたいだ。流行り病を軽く見てはいかんからな。」

「はい、ご心配をおかけしました。この通りすっかり良くなりました。」

「うむ、回復して何よりだ。さあ、早く座りなさい。」

 すると長兄のカミーユも次兄のシャルルも

「良かったな!」

 とにっこりして声をかけてくれた。

「兄さま、また遊んでね。」

 と妹のクリステルも隣の席からにっこり微笑んで言った。僕の家族は髪の色がクリステルを除いてみんな栗毛。瞳も茶系統だ。色合いに濃淡はあるけれど栗毛は優性遺伝なのだろうか。クリステルだけは金髪。劣性遺伝子が掛け合わされたのかも。


 父様はベルナール・ド・ラ・プラード男爵という地方貴族でプラードの家名が示す通り平地のそれもこれといった特産物のない田舎貴族だ。父様の代からの新興貴族なので、自分の領地は持たず子爵から借り受けている領地も決して豊かとは言えない。だから身の回りの世話をするメイドは各自についているわけではなく、コレットひとりしかいない。他には執事のジョゼフと庭番兼雑用係のシルヴァン、それに料理長兼メイド頭のマノンしかいない。マノンは普段は料理を主に担当している。人数の多い来客の時だけメイド頭として応対する。貴族の屋敷には普通は使用人が十人くらいいるのだが貧乏領主にはこれが精一杯。


 僕は貴族の三男だから領地経営の勉強をしてはいない。この世界では平民なら子どもだって労働力だから5歳にもなったら遊んでいられない。児童虐待だと騒ぐ人間はいないし。地球で児童労働が禁止されたのは産業革命以降だから、この世界の文化度はまだそこまで達していないのだろう。上級貴族なら子どもはみんな貴族学院に通うのだけれど、下級貴族は跡継ぎとせいぜい二男までしか学校に入れない。貴族の三男というのはお金はないけれど、平民に比べたら好きなことをする余裕があるので時間的には恵まれているのだ。


 けれども前世の記憶が蘇った僕は一大決心をした。もう5歳のアランの意識は一歩退いてしまっている。前世でまだ中学3年生の大智だったが、中学受験のために小学4年生からたくさん勉強した。勉強は好きだし苦にならない。そして東京都内最難関の中高一貫校の一つに入学したのだ。中学3年ではすでに高校の授業も一部先取りしているし、大学受験に備えて塾にも通っていた。それに同級生に認められた記憶力もある。地球の産業革命より前の文明レベルのこの世界で、前世の知識を生かせばこの領地を豊かにすることができるはずだ。そう考えたら気分が前向きになってきた。明日から頑張るぞー!異世界の文明開化や~!そして高校デビューならぬ異世界デビューでウジウジした自分とはおさらばするぞ!

さて前世知識を生かして領地を豊かにするという目標ができたアラン。猛勉強を始めるのか!?

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