【15】魔術と科学~調べる
前世中学生のアランはこの異世界には魔法の類は無いと思い込んでいた。しかしどうやら魔術なるものはあるらしい。
7歳になった僕は散歩の途中で魔術について領民が話しているのを小耳にはさんだ。なんでも領都から買い付けに来た商人が、魔術を見た人の話を聞いたらしい。又聞きだけど。魔法じゃなくて魔術があったんだ?ってびっくりだよ。やっぱり剣と魔術の世界だったじゃん、ここは。魔術ってことは技術的なものってこと?それで読破したというか記憶した本を頭の中で読み直すように検索してみた。すると短いながらも魔術について記述があったのに気づいた。
神に仕える聖人が雨が降らず飲み水が困っていた村に立ち寄った際に、人々に水を与えて渇きを癒したという一説が。水の魔術か。この聖人の話は実在した人物なのだろうか。それとも宗教上の伝説なのだろうか。
でも領民が噂話に出すくらいだから実際にありそうな気がする。それともミスター・マ〇ックのようなマジシャンが魔術と言って見せている可能性もあるかな。魔術の仕組みや会得の方法については見つからなかった。もし専門書があれば詳しいことがわかるかもしれない。『サルにもわかる魔術のテクニック』なんてハウツー本はないか。
この世界は科学が未発達だ。もしかしてその理由が魔術と関係あるのだろうか。人の力が及ばないところでは科学無しでも魔術でなんとかしちゃうとか?う~ん、それは少し無理があるかなぁ。単にまだ文明が発展していないからという方が正しいか。
でも、もし前世地球に魔術があったらどうなっていただろう。人の力では解決できない課題を解決するために科学技術が発達したが、そうした場面で魔術を使ってしまったら、科学が発達する素地が生まれなかったかもしれない。
だったら宇宙ロケットが飛ぶような技術は生まれない可能性もあったのかな。それとも魔術さえも科学して、魔法科高校の〇〇〇のアニメのように、魔術工学なんてのを発達させてたりして。とまた思考の海に沈んでしまった。今は情報不足なので魔術についてはいずれじっくり調べてみたい。
今必要なのは魔術じゃなくて技術だ。地球の産業革命では蒸気機関の発明が大きな役割を果たした。人や牛馬など生き物の力には限界があるので、パワーが必要な仕事ができない。その解決のきっかけが蒸気機関だったのだ。
蒸気機関といえばジェームズワットの名前が浮かんでくるが、発明者はトーマス・セイヴァリだと世界史で学んだ。どちらもイギリス人だ。炭鉱の排水のために考案。ポンプの形式に発展させたのがニューコメン、さらに改良したのがワットだ。ワットは蒸気機関を実用化した人ってことになるのかな。この世界にはまだ蒸気機関が登場していないので、もし蒸気機関を再発明したら動力革命を起こせる。ちょっと実験してみよう。
屋敷で使っているヤカンの蓋には蒸気を逃がす穴が開いている。おそらく昔のヤカンには穴がなく、蓋が持ち上がって不便だと感じた人間がいたから穴をあけたのだろうが、この時代では誰も当時を覚えていないのだろう。この蓋の穴の働きを。
そこで蓋の蒸気逃がしの穴に粘土をつめてみた。それで暖炉の炎の上にヤカンをかけたら注ぎ口からお湯が溢れた。ヤカンの蓋がぴったりとはまりすぎていて蓋が動かず、逃げ場のない蒸気がお湯を噴き出させたのだ。厨房から蓋が緩いヤカンを探して持ち出してきた。再度火にかけるとしばらくして蓋が持ち上がったり下がったりした。
ブランシュ先生が授業にやってきたので、暖炉のヤカンを見せた。
「あら、これは一体なんですの?」
「先生、ヤカンの蓋が上下しているでしょう。これは沸騰した湯気が蓋を持ち上げて、すると湯気が隙間から逃げて閉じるんです。でもまた力が溜まって上がって下がってを繰り返します。この上下運動を使って水車とかの代わりの動力にできませんか?」
目に見えない水蒸気という概念はなさそうなので湯気の力ということにした。
「なるほど、それは面白い着眼点ですわね!このままではすぐに使えないでしょうが、改良を重ねたら動力として使えるかもしれません。それができたら大発明ですね。」
先生は目を丸くしてそう言った。子どもの戯言として退けたりせずにこうして認めてくれる先生が好きだ。2年間共に勉強して先生の柔軟性に惹かれた。美人、いや美少女だってこともあるけどね。この世界は頭の固い大人が多い。少なくとも男爵家を訪ねてくる男たちはそう見えた。と思ったら
「問題はどれくらいの力があるかですね。弱い力しか出ないのだったらわざわざ湯気を発生させる必要がないので。」
だって。さすが目の付け所がシャープだね。でも前世地球でその力は証明済みだもん。
さて蒸気圧の原理は示すことができた。これから先はどうしようと考えているとブランシュ先生が言った。
「私の実家はお店の他に工房も持っています。こんなものが作りたいという説明ができるならば、そうした物の試作もできると思うのですけれど。」
なんと、試作ができれば実用化への第一歩が踏み出せる。ちょ、まてよ。キム〇クばりに立ち止まって考える。いきなり動力付きの機械の製造はやっぱりハードルが高すぎる。おそらく部品点数がそれなりに多くなる。一度にそんなにたくさんのパーツを試作できないぞ。だったらトレーニングとしてこの世界に存在しない、もっと身近な道具から始めたらどうかなと思い直し、とりあえず蒸気機関はその後にしようと決めた。
とりあえず魔術は今すぐどうこうはできないので、もう少し調べなきゃ。『10分でわかる魔術』なんて本があればいいのにね。




