攻略対象ぶらり四人旅
恋敗れた攻略対象ってどこ行くんだろうね
「アリア……どうか私と共に、これからの人生を歩んで欲しい。」
「ハンス様……!…、はい!喜んで!」
金の髪に青い瞳の美しい青年が、愛らしい茶色の髪に桃色な瞳を持つ少女に跪き手を差し出す。その手を嬉し涙を流しながらはにかんで取る少女の姿は、まるでこの世界に二人しかいないかのように輝いて見えた。──群衆たちを、置き去りにして。
「えーー、では、我らの失恋と王都からの脱出を祝して」
「「「「かんぱ〜〜〜〜〜い!!!!!」」」」
ここは場末の酒場。薄汚れたその場所の、その一番端のテーブルで男四人はジョッキを片手に交わし合いながら声を上げる。あくまで小声で、静かに。
男たちはそれぞれ薄汚れた格好をしているものの、酒場の給仕をしている娘が思わず頬を染める程に趣の違う整った顔立ちをもつ美男子であった。
その中の一人、肩で切りそろえた銀の髪に酒場に集うような者たちが見たことのないような鮮やかな紫の瞳を持つ男は眉間のあたりで何かを動かすような仕草をしながら語り出す。
「まず、えー、お疲れさまです。我々はこの中の誰一人が欠けてもこのように生き延びることはなかったことでしょう。まずはそのことを神に感謝し…いえ、お互いの健闘を称えましょう。まずはアルフ、あなたの剣技がなければこの場所まで安全に旅をすることはできなかった。ありがとう。」
その言葉に、赤々と燃え盛る炎のような髪に芽吹いたばかりの若葉のように輝く瞳を持つ短髪の男は首をふる。
「よせよ、それをいうならジョン、こいつのおかげだ。腕っぷししか胸を俺は張れないがジョンの計画と事前準備、平民の暮らしへの知識がなければ俺たちは行き倒れて今頃奴隷船のうえだった。…感謝をいくらしてもしたりねぇ。」
そういいながらアルフは隣の、これまたこのあたりでは見かけない神秘的な黒い髪と瞳を持つ中性的な青年の肩をバンバンと叩く。それに苦笑しながらジョンと呼ばれた彼は口を開いた。
「そうは言いましても、僕ができるのは交渉と計算ごと、地図作成くらいです。戦闘では何一つ役に立たないばかりか、足手まといにで……。エドの機転と伝手、なにより魔術がなければそもそも王都からのここまでバレずに旅をし、捕まらずに今もこうしていられるのは奇跡に等しいと思います。」
そしてまた隣にいる、これまた四人の中でもことさら美しい男に目線を向ける。
「そんなこといってもな〜〜んにもでないよ!まぁでも気分はいいかな!でもそれよりもエルの治癒術がなければ詰んでた場面のほうが多かったんだからこうやってお互いに褒め合うのはやめよ!なしなし!全員すごいってことで!」
そう、パチリと泡立つエールのような不思議な光彩をもつ瞳を持つ茶目っ気たっぷりに瞑って同じ色の髪を一つに結んだ男は笑う。その言葉に最初に声を発した銀の男は軽く頷いて、ではと再び口を開いた。
「では、これからの目的を改めて話し合いましょう。ジョン、地図を。」
「はい!…ではこちらをご覧ください。」
そう黒髪の青年は荷物から取り出した地図をテーブルの上に広げて指をさす。
「僕達がいるのはここ、アーガル王国の端、ベルゼの森と呼ばれる森と山脈の近く、通称『果ての村』です。ここから僕達はベルゼの森を抜け隣国、ランガ公国へと向かい、港を目指します。それから商船を利用するのですが…フィルティア森林国かドルゾ帝国、マリアベル女王国、この3つの国のどこを目指すべきか。意見を。」
「ドルゾ帝国はパ〜〜ス。俺一応獣人の血を引いてるから人間至上主義はちょっとなぁ。きな臭いしあそこ。」
「さすが元次期宰相。エドがきな臭いっていうからにはよっぽどだろ。なんだ戦争でも始めんのか?」
「ちょっとアルフ、無礼。それいうならお前のことも元次期騎士団長っていうぞ。まぁ鉄とミスリルが欲しいのかそのお隣のユーベルニア王国の冒険者にドラゴン退治依頼してるから…ね…??」
「うわ……ドラゴン退治……何百人死ぬんだろ…。」
ドルゾはなし。とつぶやきながら持っていた手帳に何かを書き込むジョン。アルフは腕を組んで唸り出す。
「悪かったよエド。フィルティア森林国はどうなんだ?」
「あ〜〜…あそこですか……。住民のほとんどが妖精とエルフなのを許容できれば候補かと。」
「だめじゃん。あ、給仕さ〜〜ん。森シュリンプ揚げ十個追加で〜〜。」
「見た目の割に本当にエドはよく食べますよね…。エル、妖精とエルフの何がいけないんですか?」
「エルフは寿命が長すぎて人間と共存できないんですよね。価値観というか…色々すごいですよ。エルフがマイノリティな地域だと短命種の生活に適応してくれますけどあそこは産地ですからね……多数派なので絶対合わせません。妖精は…悪戯で人を殺しそれを五秒で忘れたり子供を誘拐したり顔のいい男を水に沈めたりします。」
「だめですね。」
フィルティア森林国もなし。と再びジョンは手帳を開く。残った国の地図を再び広げ、四人は眉間にしわを寄せた。
「マリアベル女王国。残ったのがここかぁ〜…。」
「仕方ないだろ、この国と国交を結んでなくて俺たちの顔が割れてなくて、何かあっても他人の空似で済ませられる海を越えるほど遠い国はこの三つだけだったんだから。」
「いや、悪くはないんですが……。はぁ……。」
「ぜっっっったいいますよね…ロフティ公爵令嬢…。」
「まぁ俺達と同じ事を考えている…というか勧めてきたからには…いるだろうな……。」
はぁ、とため息をつきながら天を仰ぐ。
「あ〜〜……とち狂ってヴァルガ帝国に行っていてくれないかな~………あそこなら反対方向だから………。」
「無理でしょう。ヴァルガ帝国は今原因不明の異常気象で鎖国状態です。なんでも20年ほど近隣の海に台風が4つ消えもせず停滞していて他にも陸路は度重なる土砂崩れと地震で道が割れているとか。」
「最悪じゃん……。」
それがなければヴァルガ一択なんだけどなぁ…と四人は揃ってため息を吐く。もそもそとやってきた森シュリンプを口に運びながらエドがようやく口を開いた。
「まぁでも…ロフティ公爵令嬢のおかげで俺たちは生きてるんだし。嫌がるのも失礼だよね…。」
「…だよなぁ、会わせる顔がねぇっていう俺達の気持ちの問題なんだよなぁ……。」
そう呟いてアルフは油で汚れた天井を眺める。四人がそれぞれ思い起こすのはかくも輝かしい学生時代の記憶。めくるめく青春の思い出達だった。
「……私たちはみんな、アリア…第二王子妃に恋をして、周りのことも見えなくなっていましたからね…。自分たちの状況も……。」
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──時は遡る。
王都にある王立学園。魔術と戦闘術、そして勉学を学ぶことのできるそこで男四人はとある女性に呼び出されていた。
「突然呼び出してごめんなさいね?実はあなたたちに聞きたいことがあったの」
そうにこやかに教室の、自身の椅子に腰を掛けるのは豊かな金の髪に鮮やかな赤い瞳な豪奢な美女。彼女の背後には背の高い、獣の耳と尾を持つ侍女と耳の長い騎士が控え、剣呑な空気を醸し出していた。そんな中、彼女はゆっくりと首を傾げて男たちを順繰り見やる。
「法王猊下の甥子であり聖女であるアリア様の指導員であらせられるエルドウィン・グレゴリオ様、騎士団長閣下のご子息であるせられるアルフレッド・ローウェル伯爵子息。そして宰相閣下のご子息であるエドモンド・ラルミア公爵子息と平民でありながら特待生として学園に入学したジョンソンさん。あなたがたはこれからどうするおつもりですの?」
そういわれても、男たちは何を聞かれているのかはわからない。ただ、目の前の女生徒に対する嫌悪感のまま口を開いた。
「なにをいってんのかわかんないんだけど……。答える義理ってある?」
「ああそうだ。アリアを虐げるお前の呼び出しに答えたのはお前に忠告するためだ。それ以上でも以下でもない。」
エドモンドとアルフレッド、そう呼ばれた二人がそう答えた瞬間後ろに控えていた獣人の侍女が殺気立つ。それを片手で制してから彼女は再び口を開いた。
「虐げてるつもりはないのだけれど…。まぁいいわ。私がするのも忠告だもの。お互い聞き入れるかはさておいて、まずは私からさせてもらうわね。──私、この国から逃げ出そうと思っているの。あなたたちも早く逃げたほうがよくってよ?」
「………は??」
ぽかん、思わず呆けた顔をする男たちを見て彼女は肩をすくめて微笑のまま言葉を続けた。
「ハンス王子の王子妃候補として私は十分仕事をしたと思わない?正式な婚約を釣り餌にされてあの方の財布としていわれるがままに民からの税を差し上げて、政策だってなんどかわりに提出したか。かけらも自由のないこの十一年、あの方は一度も私に報酬を渡すどころか候補とはいえ婚約者に準ずる私に対して何一つプレゼントも夜会のエスコートもなさらなかった。
挙句の果てには聖女アリアを選ぶ始末。ほとほと愛想が尽きたの。この国にも両親にも。あの方は自分でいうほど優秀ではないしなにより狭量で傲慢。お金の使い方も上品ではないわ。……小さい頃、お気に入りのポニーがいたの。クリーム色のかわいいポニー。彼が見たいといったから、見せて差し上げたらポニーは王城に連れて行かれてしまったわ。そして、二度と私はポニーを所有することができなくなって、王城に入ることを許されなくなった。おわかり?」
くすくすと微笑みながら彼女は席を立つ。呆然としている男たちの間をすり抜けて、一人の騎士と侍女の手を大切そうに握りしめて。
「あの方は他人の好きなものをとるのにためらいはないわ。そして、二度と近づけさせない。……ポニーですらこうなのだから、人間だったらどうなってしまうのかしらね?恐ろしくて涙が出ちゃう…。」
背筋に走る悪寒に思わず吐き気がする。ジョンソンに至っては口を押さえ震えだし、それをエルドウィンが背中を擦って慰めていたが、その当人の顔もひどく青白い。
「どうするのか、貴方方の忠告がなんだったのか、聞いてみたかったのだけれどごめんなさいね、もう時間だわ。どこにいこうかしら、うーん迷ってしまうけど、マリアベル女王国のご飯はおいしいって聞くしまずはそこをめざしましょう!それじゃあ皆様!よい結末を!」
踊るようにさる彼女たちを、見送ることしかできなかった。
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「………で、実際殿下の周囲を探ってみたらでることでること…俺達の異動命令の手筈と暗殺依頼……。」
「やめろ思い出させるな鳥肌がたつ。」
「アリア………大丈夫かな……。」
「無事ではあるでしょう。…私たちに会いたい等と言い出さなければ。」
シン、と再び静まり返る中、「「「「いいそう……」」」」という静かな同意が満ちていく。そんな甘えたなところがかわいらしくて愛おしかったが、今では死神にしか思えない。彼女の言葉一つ一つが俺たちの命を刈り取る形をしているのだ。怖くて仕方がない。
「俺……ほんと血が混じってるだけでよかった……アリアは俺の運命の番だったけど俺は血が混じってるだけだからどうにか逃げ出せた…。純血だったら終わってた……。」
「その運命の番とかいう繋がりが妬ましくて仕方なかったんですけど今では哀れでしかありませんね…。」
肩を叩くジョンのすっかり無骨になってしまった手に思わず涙腺が緩む。生きてる……生きてるよ……。
「とにかく、この村での補給と森の中での比較的安全な道と周辺の魔物と動植物の情報は得ました。ここでの休息を終えたらすぐに出ますよ。いつ魔の手が追いつくのか定かではないんですから。」
「仕方ないとはいえせわしねぇなぁ……。夜明けとともに出立だろ?大丈夫かジョン、ルート構築間に合いそうか?」
「なんとか。エド後で手伝ってください。」
「もち。どうせ魔物よけの呪文を魔石にこめるのに時間かかるからできることなら手伝う。」
「では私も聖水の製作をしましょう。多くて損をすることはないんですから…。」
「………、えっと、俺もなんかしたほうがいい?」
「「「メインタンクはいざという時のためにしっかり休んで。」」」
思わずかみ合った言葉に誰ともなく思わず吹き出し、声を上げて笑い出す。愛しい少女の心を得るために競い合っていた時期を考えると、このように気安い関係になるだなんて考えもしなかった。
「……では改めて、私たちの未来を祝って!」
「「「「乾杯!!」」」」
恋した少女と、かつての友であり恋敵、そして捨ててきてしまった家族と国の未来がどうなるのか考えることなく騒ぐ時間は、楽しくて、でも、少しだけ胸が痛かった。
エルドウィン・グレゴリオ:神秘的なお兄さん(先生)枠。平民として暮らしていたヒロインをめくるめく綺羅びやかな世界に連れて行くポジ。ひたむきなヒロインに惹かれていたが聖職者ゆえに二の足を踏んでたらかっさらわれた。逃げなかったらシャンデリアの滑落事故(故意)でつぶされて死んでいた。このあと冒険者として男たち四人でパーティーを組んで女王国で有名になる。ポジションは神官戦士
アルフレッド・ローウェル:ワイルド騎士枠。魔物の討伐授業で傷を負いながらも人を助け続けたヒロインに惹かれていた。何度も直球に告白していたが振られ続けていたので実はこいつが一番命の危険があった。逃げてなかったら魔物の討伐を命じられて向かったら武器も何も持たされず魔物の群れに放り込まれていた。このあと(以下略)。ポジションは戦士(盾持ち)。
エドモンド・ラルミア:ミステリアス(腹黒)美人枠。感情が制御しきれないとキツネの耳と尻尾がでてくる獣人と人間のクォーター。運命の番がヒロインだった。魔術の才があったが家の都合でそちらの道に進めず、くすぶっていた所をヒロインに救われた。逃げなかったら魔法の暴発事故(故意)で死んでいた。このあと(以下略)。ポジションは魔術師(支援含む)。
ジョンソン:ヒロインの幼なじみ枠。実は遠い先祖が東方の滅びた王国の姫だったりする。幼いころからヒロインのことが好きでずっと支えていたがヒロインには弟だと思われていた。逃げなかったら適当な罪状をなすりつけられて処刑されていた。このあと(以下略)。ポジションは斥候弓使い。
ロフティ公爵令嬢:名前は出てこなかった。ヒロインのことは結構どうでもよかったけど王子がやばすぎて幼いころから逃亡計画を企てていた。男四人には気まぐれで助言を与えてすぐにげた。世界中を旅するさなか馬の獣人と運命の出会いをしてゴールインする。
侍女:純血の獅子の獣人。クソ強い。お嬢様ガチ勢。隣のエルフとは番だったりする。
騎士:ハーフエルフ。実は300年くらい生きている。番がお嬢様ガチ勢だからお嬢様に忠誠を誓っている。
アリア:絶望的に頭が足りないことを除けば真っ当なヒロイン。よりにもよって一番のハズレ枠を狙い撃ちした。監禁されて誰かに会いたいと言うたびに人が死んでいく。それに気が付かない。
ハンス:ヤンデレ王子枠。好きな相手には自分しか見てほしくないし好きな相手を好きなやつは死ねばいいと思って殺る。ポニーを奪ったのは嫌いなやつが自分の好きなものを持っているのが気に食わなかったから奪ったしポニーはとっくに処分されている。
ポニー:気合いで生まれ変わってお嬢様を迎えに行った。




