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第八十二話 邂逅

「どういうことだアロン!」


 薄暗い作戦室にて、突如裏切ったアロンに対し、オリバーが右手を押さえながら叫ぶ。


「どういう……ことって?」


アロンはゆっくりとそちらへ向くと、理解の追いつかない言葉を口にした。


「悪いけど、俺は最初からカシム様の(しもべ)なんだ。兄弟で仕えててね。ずっとクロノス教団で機会を待ち続けていたってこと」


「言っている意味が……分からないよアロン……」


「今回、目的のものは盗れなかったけど、大きな収穫はあった。エマだけが“博識者(アカシック)”じゃなかった。多分クリス君もだ。理由は分からないけど――ま、言っても分からないでしょう」


 ロータスがアロンの着る白シャツの襟を掴んで、そのまま乱暴に壁へ押し付ける。

 アロンが息苦しそうにその腕を掴んだ。


「貴様……テメェこの野郎!俺達を仲間とも思ってなかったのかよ!」


 アロンは笑って答える。


「いや、帰って来いって言われるまでは割とガチでそう思ってたけどね」


 アロンはズボンから小型蒸気機構の付いたゴーグルを取り、目に付ける。


「まー、これまでのことも楽しかったし、これからは別の陣営で楽しむ?って感じかな。色々経験してみたいから。何しようと俺の自由だろ?何でもできるのが俺様王様アロン様ってわけ」


 ロータスはアロンの頬を殴る。


「テメェ!舐めてんのか!俺達がこれまでどんな気持ちでやってきたと思ってんだ!これまで自分のために、家族のために、世界のために……クソッ。よくもそんなぬけぬけとォ!」


 アロンはプッと口から血を出すと、ロータスを睨んだ。


「俺は娯楽としてしか人を殺したことねーよ」


 アロンはロータスの頬を殴り返し、彼がよろめいた所を突き放す。

 襟を正しながら皆に言い放った。


「俺は嘘ついてたわけじゃないのよ。全部ホントだった。ただ善悪とか、平等とか……クッソどうでもいいだけ。楽しめればそれでいい」


 彼はゆっくりとテーブルに近づき、オリバーの手に刺さった槍を掴む。


「グッ……!」


「オリバー!」


 ロランがアロンへ向かっと走り出そうとしたその刹那、彼は言った。


「じゃ。そろそろ逃げるけど。俺が裏切り者ってサ、もーちょっと早めに気づけたんじゃない?」


 アロンはへらへらと笑った。


 刹那にアロンが槍を抜き、そのままオリバーが痛みに悶えているところへ


――槍を一突き。


 アロンの着ている白シャツが返り血で真っ赤に染まった。


 オリバーの腹に槍が貫通し、声もなく吐血する。


「オリバー!!!」


 ロランが名前を叫ぶも、荒い息遣い以外の返事がなかった。


 アロンがゴーグルの横に着いたボタンを押すと、黒かったレンズが緑色に光る。


「これ、暗視ゴーグル。やっぱカシム様が一番すごいなァ」


 アロンはそれだけ言うと、部屋の電球を壊した。

 地下に作られたクロノス教軍部では、電球一つが消えると部屋は真っ暗になる。


 ロータスが焦り、手探りで辺りを探す。


「どこ行ったアロン!出てこい!見つけてぶっ飛ばしてやる」


 ロランは手探りでオリバーに近寄る。

 目の前にテーブルがあって、血に濡れた椅子があって。


――その横に、オリバー。


「オリバー!答えて!返事を!」


 ロランはオリバーの手に触れた瞬間、彼の寿命が短いことを悟った。

 暖かさは失われていき、だんだんと失われていく体温を感じる。


 騒ぎを聞きつけて部屋に来た他の班員たちがランタンを持って駆けつけるが、既にアロンが逃げた後だった。


「どうすんだ!オリバーがやられたし、アロンの居場所もわからない!情報も盗られたぞ!」


 助けに来た班員が苛立ってテーブルを蹴る。

 ロランは握った手から、オリバーの脈が止まってしまったのを感じた。


「オリバーーーーーーー!!」


 ロランの悲痛な叫び声は、クロノス軍部の地下施設全体にこだました。





――同刻。


 クリスは牢屋というと、じめじめして半地下になっているものを想像していた。


「……頭痛ぇ……牢屋に入れられ――病院みてぇだな」


 教団本部の地下には、彼が思うよりも清潔で簡素な牢屋が広がっていた。

 牢屋の外にかけられた松明がかろうじて辺りを照らしている中、クリスは目を覚ます。


 すぐさま腹に巻かれた包帯に気づいた。

 リリィと会ったところまでは覚えているが、それから先が思い出せない。


――突然、隣から声が聞こえた。


「お。起きたか?多分俺と同じで睡眠薬でも飲まされたんだろ。だが残念ながら、ここは処分を待つ部屋だよ」


 隣の牢から喋りかける男は、暗い隅にうずくまって座っていた。


「軍部からわざわざここまで連れてこられて、縛られていた手足が痛いよ」


 男がクリスに、喋りながら近づく。


 彼は左右白黒のケモ耳、赤い目を持っている獣人と吸血族のハーフだった。

 心なしかラーラに似ている。


「あんたはなんでここに?」


 クリスが問うと、男が答える。


「ルピナだ。俺の名前はルピナ。冤罪だよ」


 クリスは頭を傾げた。


「信じられないって顔してる。ほんとに冤罪だ。君こそ何をしてここに?」


 クリスはリリィと会った後を思い出す。

 急にフジから切りかかられ、キリに背後から刺された。


「そうだ!俺も冤罪だった!冤罪というか、何でここにいるのか分からねんだよ!」


 それを聞いてルピナが笑う。


「君も冤罪?そんなことある?面白いね」


 ルピナの言葉を無視し、クリスは牢屋の中で膝を落とし、拳を地面に叩きつけた。


「思い出した。キリにやられたんだ。あの野郎、絶対やり返してやる」


 ルピナはそれを聞き、ふーんと言ってそっぽを向いた。


「ルピナ……っつったっけ?何でそんなに余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)なんだ。今ァ牢屋の中だぜ?」


 クリスが苛立って、隣にいるルピナへちょっかいを掛ける。


「いや、俺は友人がここから出してくれるからな。君と違って」


 ルピナがクリスに言うと、クリスの眉間にしわが寄る。


「うっせーな!この野郎!俺だって友人が助けてくれるわ!」


 クリスはエマとリラの顔を思い浮かべる。

 そしてそのまま続けた。


「なんか最初から腹立つんだよな、お前。スカしてるっていうか、上から目線でさ」


 それにルピナが反応する。


「なんだと?君こそ初対面の相手に失礼だな。とっとと処分されるといい!」


 二人のイライラが頂点に達し、お互いが隣の牢屋から相手を殴ろうとした――が、手を振りかざした瞬間、手に付けられた手枷の鎖が音を鳴らして手を引っ張った。


 そこで二人の怒りが収まる。


 二人は肩を落とし、腰を下ろして溜息をついた。


 クリスが壁に頭を打ち付ける。


「あーん……もう嫌よアタチ。俺ァこういう病室みたいなのが嫌いなの。とりあえずここから出よーぜー」


「無理だろ」


「いや、頑張れば行けるて」


「無理だ」


「無理じゃねぇ。行くんだよ!」


「じゃ、ご自由にー」


「バカにしてんのか?」


「アホ」


「なんだと馬鹿野郎!俺の名前はクリスだ!」


「「この野郎!牢屋出た後で覚えてろよ!!!」」


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