第八十一話 数奇な運命➂
「……てなわけで、彼は冤罪なんです」
それまでのルピナの人生、ロデリックとの関係、そしてロランの罪を聞いたロータスは、深く頷いた。
「マジか。じゃあ、速く連れ戻してあげないとじゃねぇか!」
ロランはベッドから降り、痛む脇腹を押さえながら服を着替える。
「おっと……もう大丈夫なのか?」
ロータスが聞くと、ロランが首を縦に振る。
「大丈夫です。まだ少し傷が痛いですけど、これから真実を知るルピナよりは百倍マシですから」
ロータスはそれを聞いて少し悲しそうに笑う。
「じゃぁ、行くぞ!緊急ルピナ奪還作戦だ」
ロータスとロランが医務室を出て、まずオリバー班の作戦会議室へ行く。
二人が部屋の扉を開けると、そこにはアロンとオリバーが座っていた。
「聞いて、二人共!」
ロランが二人に呼び掛けたとき、アロンが急に席を立った。
「丁度来たよ。ギリギリだったねぇ」
アロンがそう言うと、手にいつもの如意棒を持ち、それを伸ばしてロランの喉元に突きつけた。
「何してんだアロン!ロランは裏切り者じゃねぇ!暗号の解読も間違ってるんだ。話を聞け!」
ロータスがそう叫ぶと、アロンはニヤリと笑ってロータスを見る。
この行動には、オリバーも困惑していた。
「裏切り者はルピナだけだろう?……アロン?」
オリバーが不安そうに彼を見つめたが、アロンそれに答えなかった。
アロンが如意棒の先に付けてあるカバーを外すと、中から鋭利な先端が出て来た。
如意棒は杭のような形になり、不殺の武器とは程遠くなる。
刹那、アロンはそれを大きく振り被り、オリバーの掌に突き刺した。
「「……は?」」
「アアアアアア!!!」
オリバーが悶える。
アロンの槍はテーブルとオリバーの右手を貫通し、地面にまで突き刺さっていた。
そこでロランが気づく。
――ルピナが裏切り者で鳩を飛ばしていたなら、あの刺客は誰からの刺客だったのか。
――どうしていつもなら自分の話を聞いてくれるアロンが、ルピナの冤罪の話を全く聞き入れてくれなかったのか。
「やめろ……やめてくれ……そんな真実……!」
そして辿り着いてしまった一つの結論。
「君が、裏切り者だったのか」
ロランが彼に言うと、アロンは満面の笑みで答えた。
「este deja prea târziu。だね」
♢
「おい、ルーシー曰くクリスが牢獄に連れてかれたって言ってるぞ」
若い黒髪の長身男は、ガラケーを耳に当てたまま近くの椅子に座る初老の男へ言った。
「そうか。坊主を行かせろ。そっちの方が信頼してくれるだろうからな」
殺風景な部屋の中で初老男が答える。
長身の男は電話越しの相手にその旨を伝えた。
その後電話相手と少し話し、電話を切ってから彼の隣へ座る。
暫くの沈黙の後、初老の男が喋った。
「ルーシーとは会えたか?アダム」
アダムと呼ばれた長身の男が答える。
「いや。会おうと思ったけど、無理だったよ。まぁエマは無事守られているようだけど」
アダムは煙草に火を点け、一口吸って煙を吐いた。
「刺客は?」
初老の男が聞く。
「いた」
アダムが答えた。
「どれくらい?」
「二、三人」
「全部やったのか?」
「あぁ」
アダムが自慢気に答えた。
「たまげた。お前、強くなったな」
「はっ。アンタのおかげで強くならざるを得なかったんだよ。残念ながらね」
アダムは笑って吐き捨て、そのまま続ける。
「そろそろ時が来ただろ?クリスを地獄に落とすときが。ハンスさんのおかげで手が出せないと思ってたが、まさかこっち側に来てしまうとは。まぁ、そういう運命なんだろうな」
「地獄とは人聞き悪いな。彼もどうやら私達と同じ目的らしいじゃないか。ウインウインの関係という奴だよ」
初老の男がそう言ったとき、急にドアをノックする音が聞こえて来る。
二人は、それが“坊主”だろう――と予想した。
コンコンコン
「あんたの目的は王室の復興だろ?俺達とは違う。あぁあ、クリスも可哀そうに」
アダムはそう言って立ち上がると、玄関まで行ってドアを開ける。
ドアの前には吸血族の男が一人。
瞬時に、アダムは男の後ろへ目を向ける。
まだ一人だけか――てことは、アジトの場所が分かっていたわけじゃない。
――場所だけ狙い撃ちして、周辺をしらみつぶしに探したのか……!
初老の男がアダムに言う。
「お仲間さんの返り血の匂いをつけて来たんじゃないか?」
「んなこと言ってる場合じゃねぇ!どっちにしろここがバレてんだ!!」
その瞬間、アダムは刺客のこめかみにリボルバーを向ける。
吸血族はすかさずそれを躱し、アダムの腹に蹴りを入れた。
強力な一撃にアダムは吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。
吸血鬼はそのままアダムへ近づいて首を掴もうとするが、伸ばされた手を逆にアダムが掴む。
そのまま場所を入れ替わる形で吸血族を壁に押し付け、ダガーを左手に突き刺した。
「痛゛ぁあああああ」
肉に刃が貫通しているため、吸血族の力で回復しようにも傷を治すことができない。
アダムが蹴られた腹を押さえ、リバルバーを構える。
一瞬で決着が決まったと思われたその時。
初老の男にもアダムの耳にも、ドアの近くまで来ている、追加の刺客であろう吸血鬼達の足音が聞こえた。
「また逃亡生活が始まるぞ」
初老の男が静かに言うと、アダムはやれやれという顔をした。
「まったく。ここには三日しかいなかったぞ」
アダムはそう言うと、壁に押し付けられた吸血鬼へ向かって、ゆっくりと引き金を引いた。
二人はこっそりと裏口から逃げ、真夜中の街を駆けていく。
途中白シャツに血を浴びて真っ赤になった、いかにもスチームパンクなゴーグルを着けた少年とすれ違った。
――が、二人は気にすることなく闇夜の中へと消えていった。




