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第七十話 信じる力は無限大➀

 リラはザザとの間合いを測り、ダガーを逆手に持った。


「ケヒヒ。アラスカオオカミの獣人か。その薄汚ねぇ耳を切り落としてやるぜ」


 ザザがそう言うと、一気にリラへと近づく。

 リラは鋭い眼差しでザザの動きを見逃さず、反射的に身をひねった。


 しかし、ザザのスピードと力は圧倒的で、次の瞬間には再び間合いを詰められる。


「お前ェ、意外と速ええじゃねぇか」


 ザザが不敵に笑みを浮かべながら言った。

 リラは冷静さを失わず、逆手に持ったダガーを上手く使い、ザザの隙をついて反撃に出る。


 素早く繰り出した裏拳での一撃はザザの腕をかすめ、浅い傷を残した。


「チッ、やるな……」


 ザザが苛立ちを隠せない様子で呟いた。

 互いの力量は、それぞれの予想よりも強かったようだ。


「ザザと言ったか?かかって来い。拙者が返り討ちにしてやる!」


 リラは宣言し、再び戦いの態勢を整える。

 体勢は低く、じわりじわりと獣化を進めた。

 

 エマはそんなリラを心配する。


 祈るように、護るように――戦いを見守る。





 エマとリラはクロノスで共に育ってきた。


 リラの両親は熱心なクロノス教信者だったが、事故で早くに死んでしまった。

 死は皆に平等に、それでいて予告なく訪れる。


 しかし、死後の世界を信じるクロノス教信者にとって、それは只の通過点に過ぎなかった。

 一人残されたリラは死後の世界で自身の成長した姿を見せる為、その後クロノス教の活動に打ち込むこととなる。


 一方のエマ。

 彼女の生い立ちもまた特殊だった。


 物心ついた時からクロノス教にいた彼女は、教祖であるリリィによって大切に育てられる。

 教団の信徒に囲まれて育った彼女は、教団が友達であり、家族でもあった。


 彼女にとって一番の遊び場だったのは書斎。

 リリィが集めた本がたくさんあり、中には誰にも読めないような言語の本もあった。


 しかしエマには、それが読めた。


 なぜなら、彼女には前世の記憶があったからだ。




――記憶では日本人、名前は “小瀧夏”。


 幼い頃から病気がちで、小学生の半ばには長い長い入院生活がスタートした。

 彼女の両親は夏を助けるべく様々な治療を行ってきたが、病気の治療はできなかった。


 それから狭い部屋で毎日が過ぎ、やっと病院生活に慣れ始めた頃。

 高校生になった彼女は隣の病室で一人の男の子と会う。


――彼の名は “佐藤雄志”


 夏が病院に入った時と同じ目を持つ彼は、いつも窓の外を眺めていた。

 このまま病院の中で人生が終わるのか、という絶望の目。


 そんなある日、夏は思い切って声を掛けることにした。


「君はいつから入院?よろしくね。歳はいくつ?」




 そういった背景や、クロノス教団教祖の義理の娘という理由から、いつからかエマの(そば)に優秀な護衛が付くこととなる。

 エマの同年代で、話し相手にもなって、組織に忠実な護衛。


 それがリラだった。


 本を読んで発明した日本(いせかい)の無線機や、得られた最新の医療知識は教団を支え、今もエマは発明を続けている。

 そしてリラも彼女を守り、クロノス教の信者として組織へと忠誠を誓っていた。


 しかし、リリィはエマを教団の外へは行かせなかった。


 その理由は愛か、憎しみか。

 全ては教祖リリィにしかわからなかった。


 それでも本部の中では自由だったエマは、大して不満はなかった。


 ところが彼女は、リリィの慢性的な、吐血を伴った病気のことを知る。


 そうして母を救うため。

 夜にこっそり教団本部から出て、もっぱら治療法の研究に明け暮れた。


 本来それを止めるはずの役回りはリラのはずだった。

 だが、いつしかエマとは主従の関係を超え、かけがえのない友となっていく。


 そして遂に、母の病気について調べている時に手掛かりとして見つけたのが、オスカルの論文。

 同時期にオスカルもエマを見つけ、互いの情報を共有することを約束してラオの地で落ち合った。


 その病気もクリスと深いつながりがあることを知るのは、また後のことであった。





 リラはザザの動きを見逃さず、再び間合いを測りながらダガーを構えた。

 その獣化した鋭い眼差しに一瞬、ザザはたじろいだ。


――が、すぐに不敵な笑みを浮かべて攻撃を仕掛ける。


「お前のその目、気に入らねェ!!!!」


 低く唸りながら、リラに向かって突進した。

 リラは冷静にその動きを見極め、逆手に持ったダガーで肉の刃を受け流す。


 斬撃がリラの頬をかすめたが、彼女はそのまま体をひねり、ザザの背後に回り込んだ。

 しかし、ザザが肉の刃を回すと、リラのダガーを弾く。


 彼の反応速度は、人間のそれを超えていた。


 それでもリラは冷静さを失わず、即座に防御の姿勢をとる。


「いつからクロノス教にいる?ビサでは上層部が指名手配されているはずだが、よくそんな宗教を信じようと思ったな」


「信じたのではない。クロノス教の教えが拙者に与えられたのだ」


 リラの声が低く響き渡る。

 ザザは再び突進し、彼女のダガーに肉薄した。


 リラは機敏に動き、肉の刃をかわしつつ、逆手のダガーで一撃を返す。

 その一撃がザザの腕をかすめ、深い傷を負わせた。


「くそ……!こいつ……!」


 ザザは怒りに燃えながらも、動きを鈍らせることなく攻撃を続けた。

 リラもまたその執念に負けることなく、次の攻撃を華麗にかわす。


「獣人女!貴様は宗教の奴隷だ。よくそんな陳腐な考えで生きているな。現実を視ろ現実を!醜いアヒルは成長しても醜いし、シンデレラは一生いじめられるものなんだ」


 醜いアヒルを自分と重ねているのか、顔が俯く。


「この世に救いなんてない。下等な獣人族は大人しく吸血族の配下に下れ。安寧を保証してやるぞッ!」


「貴様はひどくバカなのだな。この世界はそんな単純にできてはおらん。それと、拙者は貴様がクロノスのことをどう考えようと全く持って気にしない。人それぞれ自身の信じるものがあるからな」


 一方の彼女には不安や恐怖は無い。

 あるのは、信念と――


「――だが、仲間を貶したことは許さない」


 怒りだけだった。


 リラは全身に力を込め、完全に獣化した。

 彼女の手はフサフサの毛に覆われ、手の先には鋭い爪が五本しっかりと付いている。





 アラスカオオカミの獣人


 特筆すべきはその隠密力、嗅覚である。


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