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第七話 転生と始まり➂

「は、早く!早くハンス爺さんを助けて!」


 クリスが叫ぶ。


「何を勘違いしている?私たち吸血鬼協会はこの男を処罰しに来たのだよ。こんなに人狼がいる孤児院を政府に隠していたのは、どう考えても犯罪だろう?……まぁ、この男への用はそんなくだらないモノではないのだががね」


 すると三人の中でも、一際大きな体格の男がハンスを蹴り上げた。弱った老体が飛び上がり、そのまま壁に叩きつけられる。

 しかし彼は一言も発しなった。どうやら既に意識がないらしい。


「やめろおおおおおおお!!」


 ロランが叫ぶ。


「残念。彼はもう息絶えているよ」


 と、狐顔で、一番後ろに立つ男が言う。

 彼はさらに、続けざまに言った。


「君たちは私に見つかって幸運だね、本来は目撃者を消すところだけど。こう見えて実は私、子供が好きなんだ。ささ、逃げなさい。カシム、ブルート、帰るぞ」


 彼らが身を翻して窓から出ようとしたその時、クリスが一番手前の男に掴みかかった。


「このクソ野郎ども、ハンス爺さんをかえせええええ」


 その瞬間、クリスは目にも見えぬ速さで首を掴まれた。掴んだのは狐顔の男であり、その怪力にクリスの表情が一瞬で苦痛に支配される。

 彼は不気味に()()()ながら言った。


「小僧、私の名はクソ野郎じゃない。ゼリクという尊い名がある。……フフフ、また強くなってから挑戦しに来るといい」


 ゼリクがそう言い終わると、クリスは首を掴んだまま廊下まで投げ飛ばされる。

 小さなクリスの体が廊下の壁にぶつかると、鈍い音と共に全身を痛みが襲った。

 燃える館と、狂気に満ちた三人の吸血鬼の影が二人を覆う。


 すぐにロランがクリスの元へ駆け寄った。


「クリス!」


 駆け付けたロランに支えられ、ゆっくりと立ち上がるクリス。

 憎しみに顔を歪ませたクリスは、ロランと共に再び部屋へと足を踏み入れ、今一度拳を握りしめた。


 今の彼の頭の中に、“諦める”の3文字は無い。


 しかし、二人がもう一度部屋の中を見ると、そこにはもう誰もいなかった。


「ハンス爺!ハンス爺!」


 クリスとロランがハンスの元へ向かおうとするが、炎を纏った柱が目の前に倒れて来た。

 慌ててそれを避け、逃げる二人。


「クリス、もう無理だ!出よう!」


 ロランの提案にクリスも渋々頷き、出口へと目的地を変える。


 二人は何とか炎の中を走って孤児院の外へ出る。

 だが、クリスよりも多く煙を吸ってしまったロランは、丁度外に出てすぐのところで地面に倒れた。


 その小さな体を担ぐクリス。


 その時クリスの胸の中では、復讐の炎が燃え始める。それはさながら勢いを増して燃え盛る、ハンスの孤児院のようであった。





 翌日早朝、クリスは一人で孤児院に来ていた。

 孤児院は焼け、残っているのは炭だけ。


 他の孤児と先生たちは町の病院に保護されたが、やはりハンスは助からなかった。

 

 孤児院には近くの街から数人警察や記者が来ていたが、誰も片田舎であった火事のことなど気にしていないようだった。

 

 焦げた匂いの中、クリスは焼け跡を踏みしめた。

 ハンスは既に埋葬されたようだったが、クリスは昨日の夜ここで何が起こったのかを知りたかった。

 

 しかし、クリスは暫く黒焦げになった地面を歩いていたが、ゼリクと言う男に関する情報は何も得られない。

 クリスは彼を、証拠の一つも残さない、プロの殺し屋か何かなのだろうと考えた。


(だけど、なぜ、そんなプロの連中がうちの孤児院を襲うんだ?……何か理由をほのめかしていたけど……クソ、謎が多い……)


 情報収集を諦め、病院へと戻ろうとした時。

 クリスがふと地面を見ると、そこに何か取っ手のようなものが出ているのに気づいた。


「なんだろう、これ」


 クリスは慎重にそれを引っ張り上げた。

 すると床の隠し扉が静かに開き、彼の目の前に現れたのは古びたブリキの箱だった。


 クリスはその箱をそっと取り出し、心臓が脈打つのを感じながら、箱の中身を確かめるために蓋を開けた。

 

「これは…銃?」


 中に入っていたのは、錆びついた一丁のリボルバーと、一通の手紙だった。


 この世界で、クリスは銃をまだ見ていない。

 狩猟は弓矢だし、あるのはあるらしいが、政府が厳格に規制しているはずだった。


(そんなものを、どうして……)


 彼は驚きと困惑が入り混じった表情で、そっとリボルバーを手に取った。その重みと冷たさが手のひらに伝わってくる。

 次に、慎重に手紙を取り出し、封を切ると、古いインクで書かれた文字が現れた。


“クリス、君にこの銃を託そう。今まで何も話してこなかったが、君には■■■■■■■。(黒塗りされている)まぁ、詳しくは今度話そう。今まで黙っていてすまなかった。


 ともかく、これで成人だな。これを書いている今、私は君がどこにいるかは分からない。もしかしたらまだフサルト村にいるかもしれないし、遠くで働いているかもしれない。

 そこでだ、これだけは覚えておきなさい。この世界は君に冷たいだろう。誰かが常に君の側にいるわけじゃないし、辛い時支えてくれる人なんてなかなかいない。

 たとえそうだったとしても、私が君の側に居ても、居なくても、常に私は君の味方でいるよ。


 そしてそれは15歳の誕生日プレゼントだ。受け取っておきなさい。君なら使い方がわかるだろう?狩りに使うんだぞ。

 それと、ロランとは仲良くな。

                        ―ハンス”


 手紙を読んだクリスの目からは、自然と涙がこぼれ落ちていた。

 手が震え、紙が徐々に濡れていく。


 嗚咽の漏れる声で、クリスは囁いた。


「……爺ちゃん……今日は爺ちゃんが誕生日だよ」











 だが、クリスがその手紙を裏返すと、そこにはこう書かれていた。


“もし私に何かあった時は、アルマト・クータスの石を探せ”


 物語の歯車は今、動き出した。


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