第六十二話 どうしてうまくいってくれないのか➁
ロランがローブの男へ距離を詰め、ルピナがクナイを投げて援護する。
二人のコンビネーションにより、戦闘は有利に進んでいるように見えた。
しかしローブの男が放つ謎の武器のによって、なかなか男を仕留めきれなかった。
男が棒をこちらへ向けると、目では見えない何かが飛んでくる。
「まずい。この距離であれを一発でも当てられたら、肉と骨を貫通してしまう威力――!」
ローブ男に接近しているロランが焦り始め、男もそれを見越して攻撃間隔を狭めた。
それでもマチェットを大きく振って男に詰め寄ると、棒の先端から不可視の弾丸が飛ばされる。
放った三発の内一発がロランの脇腹をすかした。
「グッ」
ロランは歯を食いしばって踏ん張り、一度敵との距離を置く。
――が、ローブの男にその隙を突かれて、さらに弾丸を喰らった。
右手の甲に一発、頬を掠って一発。
強烈な痛みと共に、傷口からはドロリと血が流れ始めた。
「ロラン下がれ!俺が相手する!」
ルピナがクナイを使い切って素手で立ち向かうも、動きの遅くなったロランを庇いながらではうまく戦えない。
刺客の攻撃も、その勢いを増すばかりだった。
しかし、ロランが自分の傷口を見てふと考えた。
矢傷と違って広く浅く削られた手の甲の傷、鳩番に当たった時も“刺さった“というより、”衝撃波を受けた“といった感じだった。
そして棒から弾を出すときに鳴る、ガポン!という高い音。
「これは、空気を発射してるのか――?クリスのピストル技術にも似ているけど、少し違う……どうにかして空気を圧縮した後にそれを射出しているんだ」
ロランが一つの結論にたどり着くと、急いでルピナに知らせる。
「分かったルピナ!それは空気を矢にして発射する遠距離武器だ。弾は無い!つまり、奴は証拠を残さない、凄腕の暗殺者なんだ!!」
「流石ロラン。んで、どうしろって言うんだ!」
それを聞いたロランが、ニヤリとしてルピナに言った。
「任せて」
ロランはクリスからもらっていた煙幕玉に、マチェットをこすり合わせて出た火花で着火する。
そしてそのまま、ローブ男の方へ投げた。
――ドロン!!
爆発音と共に灰色の煙がそこら中に立ち込め、三人が鼻と口を押える。
ロランとルピナは一歩煙の外に出たが、未だ中にいるローブ男の位置は分からなかった。
「……次の行動は?」
ルピナが問う。
すると、ロランが片方のマチェットを鳩小屋へ投擲した。
鳩小屋の柱にマチェットが刺さり、ビイイインと金属が揺れる音がする。
「そこかッ……!」
それを聞いたローブの男は、すぐさまその方向へ空気弾を打った。
煙の中の敵の位置を音のみで感知し、すぐさま攻撃に移る。
普通ならば、この高度な技術と的確な判断により、フード男の暗殺は遂行されただろう。
しかし、逆にこの一手が彼の息の根を止めることとなった。
「やっぱり僕の推理は正しかった。まんまと引っかかったね、暗殺者さん」
煙の中で空気銃を発射したことにより一筋の気流ができ、灰色の中、透明な線が空を貫く。
そしてその空気の線を辿ることで、空気銃の発射位置、つまりローブ男の位置が割れる。
ロラン達は敵の位置を把握し、敵からはロランサイドの位置が分からないという、狩りに完璧な状況が誕生した。
そしてロランが頷くと、ルピナが拳を握りしめた。
「やるね。で、俺があそこを狙えばいいってわけですかい」
ルピナはそう言うと、煙の中にできた一筋の、透明な空気の道を目線で辿り、その大元へ進む。
ローブの男は、煙の外から誰かが来ていることには気づいた。
――が、気づいた頃にはもう既に手遅れだった。
「ここか!死ね獣人共!!」
刺客が後ろを向いて空気弾を打とうとしたとき、目の前には既にルピナの拳があった。
煙を押しのけて迫る拳は、刺客の脳裏にたった一つの単語を浮かばせる。
絶望――だ。
「遠くからぺちぺち打つのは上手いかもしれないけどな、殴り合いじゃ俺には勝てねぇぜ?」
ルピナがそう言うと同時に、しっかりと握られた拳はローブ男の顔にめり込む。
刺客はそのまま鳩小屋まで吹っ飛ばされていった。
――ズガァァアアアン!!!
暫くして煙が晴れ、脇腹を抑えたロランが倒れているローブの男に近寄る。
「うまくいったよ、ルピナ――彼はもう戦意がないみたい」
ローブの男は鳩小屋に寄りかかり、すっかり伸びてしまって、詳しい話が聞けそうな状態ではなかった。
ルピナが男の手から空気銃を取ると、それを見て呟く。
「こいつはカシムの手下だな。カシムの部下はアーティファクトを使う」
それを聞いたロランが顔を顰め、ルピナを問い詰めた。
「なぜ誰も知らないようなカシムの情報をルピナが知っているんだ?」
「や、待て。今のは――」
「それに内通者の捜査が始まってから来たこの刺客。バレたスパイを処理しに来たとしか思えない。まさに彼は君を狙っていなかったかい?内通者や暗号の存在がこっちにバレたことはオリバー班とフジさんしか知らないはず。君から洩れてもおかしくはない」
ルピナは冷静に取り繕いつつも、額に汗が伝う。
「そして極めつけは、その赤い目。どうだろう?君が内通者じゃない?」
遂にハッキリと疑いを向けられたルピナは、両手を大きく広げて“待て”の姿勢を取った。
「ちょ、ちょっと待ってくれ、話をさせてくれ!」
ロランがルピナを睨みつける目には、完全な敵意が表れていた。
「仮にだ、もし仮に君が僕の敵なら、相打ちになってでも今ここで仕留めるよ。これまで共に過ごしてきたルピナなら知っているだろう?僕は強い!」
ルピナはそれを聞いてもなお、自分の武器を取り出さなかった。
「お願いだ、話を聞いてくれ。まず俺は内通者じゃない。吸血族側の人間じゃないんだ。俺にクロノス教への信仰心は無いが、最終目標は君たちと同じ、ゼリクを倒すことだから!」
ロランは依然、ルピナを睨んでいるが、マチェットの握られた手を緩め耳を傾けた。
それを見たルピナは、必死になりながらも慎重に続けた。
「実は俺は、ブルートの右腕、ロデリックの甥なんだ」
「――え?」
「そして吸血族達に囚われた混血種ハティ一族、と言ってもロデリック叔父さんと俺の妹だけなんだけど、政府側に囚われた家族を救うためにこの教団へ入った……これは誰にも言ってない。ロデリックの甥がクロノスに入団できるわけがないからさ」
ルピナは自分の髪をクシャっと掴みながら、白状したように言った。
「これでどうだ?俺が内通者なら、こんなことわざわざ言わないはずだ。それに手負いの君を既に仕留めてるはず。頼む!ロラン、信じてくれ!俺は……」
「――ロデリック?」
そこまでを聞いたところで、グニャグニャとロランの視界が歪み始めた。
血を流しすぎたからなのか。
それともルピナがロデリックとその娘を助けようとしていたという事実を知ったからなのか。
「待ってくれ、ルピナ、今何て――」
どちらにせよ、ロランの意識はそこで途切れることとなる。
「……ン!……ラン!しっかりしろ!……ロラン!」
最後にロランが見た光景は、薄暗い廊下の中。
帽子を被らず、正体すら隠すことなくロランを運んでいる、ルピナの背中からの景色だった。




