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第六十一話 どうしてうまくいってくれないのか➀

 翌日、オリバー班の四人は班長の部屋に集まっていた。


 資金不足で蝋燭が足りていないのか、部屋の中はうっすらと互いの顔が見える程度の明るさしかない。

 陰鬱な雰囲気がロランの胸を締め付けた。


「昨日フジさんから連絡が来たと思うけど、僕達で内部にいる裏切り者を探し出すことになった。まぁ、僕たちの班はそれだけ信頼されているということだね」


 オリバーが皆の顔を見て言った。

 少なくともオリバーはこの班の中に裏切り者がいるとは思っていないらしい。


 ルピナは俯き、アロンはニヤニヤしながら話を聞いていた。

 オリバーの話を聞いて、ロランがふと疑問に思ったことを口にする。


「具体的に、何で内部にスパイがいるってわかったんですか?」


 それにオリバーが答える。


「最近、軍部を出入りする連絡バトの中に怪しい奴が混じってるらしい。僕もこっそり手紙を見てみたんだけど、内容はうまく暗号化してあった」


「このアロン様なら解けるぜ!」


「……。しかも、最近教団内の情報が貴族側に流れているようなんだ」


 当然のように無視されたアロンは腕を組み、不貞腐れてそっぽを向いた。


「とりあえず……鳩暗号の解読と、ここ最近軍部に近づいた怪しい人物がいないかを調べよう」


 オリバーは自身の班を、ロラン、ルピナのペアと、オリバー、アロンのペアとの二つに分け、それぞれ他部隊への聞き込みと暗号解読に分担した。





「そうですか。特に怪しい奴はいないと……。いえ!裏切り者とかじゃなくて、最近経費が無駄に使われてるらしくて。はい、ありがとうございます」


「上手くいかないな、ロラン……」


「だれも何も知らないんだもん。しょうがないよ」


 ロランとルピナは他の部隊を探ったが、怪しい人物を見たというものは誰一人いなかった。


 ロランは途方に暮れて天を仰ぐ。

 その背後では、相変わらず真っ黒な服に全身を包んだルピナが、ぴったりとロランに付いて来ていた。


「こうなったら、その暗号を持ってくるっていう鳩を直接捕まえるしかなさそうだね。軍部地上塔の屋上にある鳩小屋まで行こう」


 ロランがそう言うと、ルピナは無言で頷いた。


 二人は教団軍部の中を進んでいき、地上塔へ出る階段までゆっくりと歩いて行く。

 軍部の中は相変わらず薄暗く、等間隔に並んだランプが廊下を照らすだけだった。


 二人の横を数人の獣人がすれ違っていった。

 彼らは皆腕まくりをし、頭に鉢巻を巻いている。


「武器工房の人達だ。獣人の筋骨隆々な人達ばかりだね」


 ロランが隣にいるルピナに言うと、ルピナはまたも無言で頷いた。


「あのさ、ルピナは前に護衛対象だったバトゥ議員のこと、どう思ってた?」


 ロランが問うと、ルピナが聞き返す。


「どうって?議員として好きかどうかって話か?」


「そう。彼の政治に対する姿勢とか性格の話じゃなくて、彼の掲げる公約とか政治の内容」


 少し考えてルピナが答える。


「どうだろう。あまりこんなことは考えたことなかったな。俺は自分の人生を生きるのに必死だからな」


 それを聞いてロランがルピナを見る。

 ルピナは目元すら見えなかったが、その少し俯いたフードがルピナの感情を少しだけ外に漏らしていた。


「僕はあの議員、あまり好きじゃなかったな。なんか、すごく、自分の考えた理想を押し付けてて、少し違うと思った」


 ロランが言うとルピナが腕を組んで考え始める。

 ロランは続けた。


「何ていうか、何でもかんでもすぐに変えていけば良いってもんじゃないと思う。確かにこの世界に悪いところはたくさんあるけど、なんていうか、極端すぎるんだよ!」


「……うん」


「旧体制派の議員と新体制派の議員達が歩み寄ればもっともっとこの世界が良くなるはずなのに、どっちも意固地になって互いの話を聞いてないんだ」


 暫く聞いていたルピナが微笑む。

 ロランがルピナの意見を聞こうと見つめると、ルピナがそれに気づいてロランに言った。


「成長したな、ロラン。将来は政治家かな」


 ルピナがそう言うと、ロランが頬を膨らます。


「あぁ?僕を何歳だと思ってるんだ。前から大人だぞ!」


 ルピナはそれを聞くと、また微笑んで言った。


「まぁ、まだ子供だと思うけど」


「僕をからかってるな!ルピナ!」


 ロランがルピナの肩を小突いた。


 そんな話をしていると、二人は丁度地上へ上がる階段の下に着いた。


「この上だっけ……とりあえず行ってみよう」


 ロランがそう言い、階段に足を掛けて登り始めた。


 二人は蒸気の噴き出す鉄パイプや、人より大きな歯車に囲われた急な階段を上っていく。

 暫くすると、監視塔兼鳩小屋になっている、小さな塔の屋上へと出た。


 狭い屋上に所狭しと建てられた小屋には、たくさんの鳩がはためいている。

 ロランは辺りに漂う鳩の糞の匂いで少し気分が悪かったが、これも調査の為と思って文句を堪えた。


「おじさん、何か、いつもと違う鳩とか来た?」


 ロランが鳩小屋の横に座っていた鳩番の老人に聞くと、老人はしばらく考えた後に言った。


「あぁ、黒い鳩のことかね。こないだフジの親方が探してたよ。一回だけ会えたみたいじゃが」


「今日はいないみたいだな」


 結局その日、例の鳩は来ず、翌日もその翌日も午前に聞き込み調査、午後に鳩待ちをすることになった。

 そしてオリバー達が担当している暗号もなかなか解けず、数日が過ぎていった。





――数週間後。


 ある日、いつものごとく軍部周辺の人達に聞き込みを行っていると、遂に鳩小屋で動きがあったとの連絡がきた。

 急いでロランとルピナが鳩小屋へ向かうと、鳩番が他の灰色の鳩とは違った真っ黒な鳩を抱えて待っていた。


「おじさん、この子ですか?」


 ロランが聞くと鳩番がこくりと頷いて言う。


「そうじゃな。こいつじゃ。ワシの知らんところで出入りしよったようじゃが、遂に捕まえてやったわい!!」


 鳩番がそう言ったとき、急にロランの視界の隅で何かが動いた。

 ルピナもすぐに気づき、そちらを向く。


 その正体は、人だった。


 鳩小屋の隣にある監視塔から一人の男が出て来る。

 その男は茶色いローブを纏い、右手には小さな木の棒のようなものが握られている。


 そして何より、目が赤かった。


「誰だ!止まれ」


 ロランが静かに問うと、見知らぬ男はゆっくりと鳩番に近づいて来た。


 半開きになった監視室の扉からは、泡を吹いて倒れている監視塔常駐の教団員の姿があった。

 ロランが再び男に忠告する。


「お前は誰だ!それ以上近づくと容赦はしないぞ!」


 それを聞いても男は鳩番に近づいていくため、ロランはマチェットを背中から抜き、戦闘態勢に入る。

 ルピナも内ポケットからクナイを取り出し、身を低くして構えた。

 鳩番の老人は何が起きたか分からず立ちすくんでいる。


――と、急にローブの男が鳩番に喋りかけた。


「暗号がばれるとまずいからな」


 男は右手の小さな棒から、音を立てて何か弾のようなものを発射する。

 その何かは鳩ごと老人を貫くと、どこかへと消えて無くなった。


 老人と鳩が、胸に空いた穴から血を流してうつ伏せに倒れる。


 的確に心臓を貫いた弾丸は、一瞬で鳩番の命を刈り取っていった。


「は、鳩番さん!!……お前!」


 ロランが彼を睨んだ瞬間、ルピナがクナイを投げる。

 男の持つ小さな棒を落とそうとしたが、男は軽々とそれを避ける。


 そして、再び棒から“何か”を発射した。


 それはルピナの顔すれすれを通り、彼の被っていた帽子とスカーフを、ものすごい風圧で吹き飛ばす。


「大丈夫か!」


 ロランが振り向いて心配すると、そこには今まで見たことのなかった、ルピナの真の姿があった。

 赤い瞳、額に縦に入った深い傷、艶やかな美しさを持つ黒髪、そして左右白黒で色の違う狼の耳。


 赤い瞳と獣の耳。

 相反する二つの特徴が彼の素顔に隠されていた。


「え?……ど、どういうこと?――ルピナ、君は……吸血族なのか?それとも、獣人なのか?」


「待て、ロラン……」


「――それとも、スパイ?」


 ロランは味方に疑いを向ける。

 しかし、ルピナはそれに構わずローブの男へとクナイを投げた。


「……いや、話は後でさせてくれ。とりあえず、こいつを!」


 ロランは動揺しつつも、マチェットを構えて臨戦態勢へと入った。


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