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第五十五話 不殺部隊

 敵二人が向かったのはルピナの元。


 しかしルピナは動じなかった。

 胸ポケットから何の変哲もないペンを一本取り出すと――。


「僕を弱いとは思わないでほしいね」


 軽く首元に突き刺し、あっさり二人を倒してしまった。


 少しも無駄のない動き。

 ペンで正確に急所を突き、それでいて一度も敵に触れることさえしない。


 気絶させられた護衛達は、朦朧とした意識の中で彼を見上げるしかなかった。


「お、おおお前だけでも倒してやる!!」


 そして最後の一人がロランへ向かってくる。

 ロランがその首をマチェットで刈ろうとした瞬間、横からナイフが飛んだ。


 ナイフを投げたのは、オリバーだった。

 敵はその場で崩れ、寝息を立て始めた。


「……横から失礼」


「オ、オリバー先輩、僕だってやれますよ」


「違うよ。ロラン君の実力は信用してる――でも、殺す必要はない」


 倒れた敵の服に刺さったナイフを抜き取る。


 先端にだけ血が付いている。

 刺さり具合はまさに絶妙だった。


 ロランはゆっくりとマチェットを仕舞う。

 これでいいのだろうか?と強く疑うように。


 今まで何度も不意を突かれ、殺されかけてきたせいか、確実に仕留める癖がついていた。


 オリバー、アロン、ルピナは怯える学者たちに近づく。


「僕達は敵を殺さないんだ。任務が殺人や護衛じゃないからね。そして何よりも、僕たちは不殺の特殊作戦部隊、天才オリバー班だから――」


 満足げな顔で言う。


「でぇ、あんた達は俺が確保するぜぇ。このアロン様がな」


 満足げな顔で、それも心底腹の立つ顔でアロンも言う。


 その手際の良さと一人一人の戦闘力の高さに、ロランは感心した。


「……すごいです!こんなの初めてですよ」


 駆けよるロランに少し照れ、オリバーは少し頭を掻く。


「ありがとう。君のことは大体、フジさんから話は聞いてるよ。今はあまり血を見たくないだろうから、人さらいとか専門のうちの部署に来てもらったんだ――あまり無理しないで」


「ありがとうございます……」


 ロランは自分がクロノスから気にかけてもらっていることに安心を感じながら、頭の片隅では未だ昏睡状態であるクリスのことを考えている。

 常にモヤモヤが消えない状態だった。


「あのぉ……何かいい感じの()()ごめんけど……三人の内、二人に逃げられた。いや、ほんと悪いと思ってる」


 アロンがわざとらしく両手をこすり合わせながら言った。





「おい~、話せよリデンブロック?どうせ拷問始めたらすぐ喋ることになるんだから早く言っちまいな」


 ロータスが、月明かりの差す部屋でリデンブロックを問い詰める。


 教団の拷問部屋。

 地下の奥深く、通常の団員には知り得ないところに設置された闇の部屋。

 かつてクリスが閉じ込められた部屋だった。


 その中で連れ帰ってきた学者への拷問が始められていた。


「いいいいいい、言えんのだ!言ったら、殺される!拷問がどうとかいう話じゃない!頼むよ、分かってくれ」


「その白いお髭が真っ赤っかになるまで血を吐かせてもいいんだけどなァ?」


 ロータスがギラギラとした目つきで、リデンブロック教授を睨んだ。

 それでもリデンブロックは頑なに情報を吐こうとしない。


「じゃ、拷問器具取ってくるわ」


 ロータスはそう言うと、椅子を立って部屋を出た。

 雑に扉を開けると、外にいた二人に向かって声を掛ける。


「俺、疲れた……」


 部屋のすぐ外には、アロンとカトレアが待機していた。


「で、いかがでしたの?」


 カトレアが聞くと、ロータスは首を横に振った。


「いや、そもそも俺、拷問とかしたくないよ。可哀そうじゃん」


「先輩優しいっすもんね」


「いっつもこの強面に頼って、拷問するふりでやってきたし」


 いつもはトゲトゲと張っているロータスの茶髪が、今日はしゅんとしている。


「他の奴が吐いたから吐けって言っても、効果なかったっすもんね」


 アロンがロータスにペンチを渡しながらも、何か策はないかと唸っていた。


「まぁ、せっかくアロン君達が攫ってきてくれたし、頑張るよ。俺」


 ロータスは扉を開け、再び厳しい目つきで部屋に入った。


「はい、おまたそ~」


 渋々拷問部屋に戻ったロータスがリデンブロックの目の前にペンチを出すと、彼の額に汗が浮かび始める。


「あ、あ、あの、ほんとにやるんですか?この文明が発達して、技術が飛躍的に進歩したのに、そんな非人道的な行為のできる人間がまだこの――」


「やるっつってんだろォが!話聞いてなかったのかよこの禿オヤジ!」


「ヒィィィ!!!言います!言いますから!」


「そ、それでいいんだよ。リデンブロックさぁん」


 ロータスはほっとして、ポケットに入れていたメモ帳を手に取る。


「……じゃぁ、話しますよ」


「あぁ」


「先月、私たちは重大な発見をしました。それは今まで条件が重なることが無かった為に観測されなかった現象であり、次起きるのは三年以内。前回起きたのは約三十万年前でした」


「へぇ」


 ロータスが足を組み替える。


「吸血族の皆さんはこれのことを"常夜(トコヨ)"と呼んでいるそうで、私達よりも何か多くのことを知っているのかもしれません。研究をした後すぐに教会に軟禁されましたしね。あ、あれはパーティーじゃないです。軟禁されてたんですよ!」


「で、結局何だったんだよ?」


 ロータスが退屈そうに聞いた。


「これ、本当に話しても死にませんよね?他の二人はどうなったんですか?」


「だー!そんなことは知らん!あとの二人は教会から逃げられたらしいぞ」


「な!私を見捨てたのか奴らめ!さんざん目をかけてやったというのに」


――ダン!!!


 痺れを切らしたロータスがテーブルを蹴った。


「それはいらん情報だぞ」


「ヒッ!すいません。じゃぁ、話しますよ?いきますよ?その研究は、それは、地球の周期により、素粒子」


 そこまで言ったところで、急にリデンブロックが黙った。

 会話を意図的に止めたのではない。


 奇妙なことに、電池が切れたように動かなくなったのだった。


「おい、どうした?おーい、おい、ま、まさか」


 ロータスが顔を覗き込むとリデンブロックは既に息絶えていた。

 口から泡を吹き、首は力なく倒れている。


 後頭部には何かが小さく破裂したような傷ができていた。


「んなバカな。そんなに遠隔からコイツを殺せるのか?」


 これは確実に吸血族側から暗殺された証拠だった。


「それとも言葉に反応してターゲットを殺す仕組みか...…いや、そんなもんあるわけねェ!?それともやっぱりこいつの言ってたように、吸血族の技術は俺達よりも進んでるのだろうか」


 悪寒がして、ロータスは部屋の中を見回した。

 しかし部屋の中には何の異変もない。


 さらに、情報を言おうとした時丁度人を殺せる技術があるのかと疑問が浮かぶ。

 言葉で反応したか?それともどこかから聞いていたのか?


 考えうるのは、数メートル範囲で遠隔起動できる爆弾ならあるが――この周囲には敵はいない。


 ロータスは遺体をくまなく調べてから外へ出る。

 早々に部屋を出た彼を前に、不思議がる二人へと拷問の結末を話した。


「なるほど……いや、これは俺らの所為っす、先輩。俺らがあとの二人を逃がさなければ――」


 しかし、ロータスはそれを手で遮る。


「いや、これはしゃーなしってことだ。アロン、気にすんな。どうせ残りの奴もこうなっていた気がする」


 彼はそう言うと、煙草に火を点け、近くの壁にもたれかかった。

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