第五十一話 一人目➁
振り下ろされるロングソード。
――その刃を、二本のマチェットが受け止めた。
「!?」
「見たことあるよ、あんたの顔。お前がブルートだろ?」
クリスとブルートの間に立っていたのはロランだった。
彼はボロボロになったローブを纏い、赤髪を振り乱している。
「ロラン!」
ロランは両手のマチェットを剣に押し当て、クリスとの間にわずかな隙間を作って斬撃を受け止めた。
「ガキがわらわらと湧きやがって。束になろうが同じこと――!」
ブルートは右のマチェットを強引に弾き飛ばし、そのまま重い連撃を叩き込む。
振り下ろされる剣はあまりにも重く、一本では受け切れない。
「わけわかんないパワーだなァ!」
ロランはその一撃のみで壁際まで追い詰めらる。
――その瞬間。
背後からクリスが踏み込んだ。
人差し指のない右手に、瞬時に装着したガントレットを握り込み、渾身の力で腕を振り抜いた。
鈍い衝撃音が炸裂する。
「カハッ!!」
死角からの一撃が背中に直撃し、ブルートは血を吐いた。
振り返る。
そこに立っていたのは、全身から血を流しながらも闘志を失わないクリスだった。
「俺は、まだ終わってねぇ!たとえこの唯一残った右手が潰れようとも、必ずお前ら吸血鬼三人を地獄まで叩き落してやる!」
叫びとともに、ガントレットに再び力がこもる。
「このガキがァ……!」
「お前は、最初の一人にすぎない」
ロランもマチェットを構え、ブルートの眉間に狙いを定めた。
「貴様らァァァァァァァ!」
二人が同時に踏み込み、腕を振り下ろす。
「「ぶっ潰れろォォオオオーーーーーッ!!!!」」
――ドカァァアアアアアアアン
凄まじい衝撃とともに床が砕ける。
ブルートの体は地面へと叩きつけられ、崩れ落ちた床板ごと地下室へ消えた。
土煙が舞い上がる。
「遂に、一人目だな」
ボロボロになったクリスは地下へ続く穴を睨みつけ、低く呟いた。
ロランは安堵したように、その場へ座り込む。
荒い呼吸だけが、静寂の屋敷内へと響いた。
一件落着か。
事態はそう思われた。
しかし、クリスが気絶したエアリアを担ぎ、広場を出ようとしたときだった。
地下室から声が聞こえてくる。
「フフフフフ。やるじゃないかァ……俺に本気を出させるとはな」
ロランが立ち上がり、再び武器を構えた。
「流石に一筋縄ではいかないようだね」
「――テメェ、生きてんのか」
二人が穴の方を見る。
すると地下から手が伸び、一階の床を掴んだ。
一本。
二本。
三本。
四本。
「よん……本……!?」
ロランは困惑しながらも、マチェットを握り直す。
這い上がってきたのはブルート唯一人。
上の服ははだけ、額からは血を流していた。
明らかに増えている――腕の本数が。
右手と左手に加え、背中から二本の腕が生えている。
「フハハハハハ。我々はヒト共と違い、自然と共生、共存し、一体化するための科学を発展させてきた……これはそのうちの一つ。ある生き物からある生き物へ、その能力や体の一部を移植させる技術だ」
ブルートは壁際まで歩き、飾られた甲冑から剣をふんだくった。
「俺の腕は、吸血族から吸血族への例だな」
四本の腕すべてに剣を持つ。
二人を見て不敵に笑った。
「ポ〇モンみてーになりやがって!!」
クリスが言うと同時に、二人は再び向かっていった。
四本の腕。
すべてにロングソード。
ガントレットを装着し、左手でダガーを投げる。
だが剣によっていとも簡単に弾かれた。
その隙にロランが背後へ回り込む。
しかしそこでも、背中の二本の腕が攻撃を防ぐ。
「確かに俺のスピードは他の吸血族幹部に劣るかもしれない。だが、俺にはそれを上回るパワーと、この四本の腕がある!!」
向き直る。
剣を振り下ろす。
ギリギリで避ける。
切り込む。
防がれる。
「クリス!気を付けて!」
「問題ない。何とかなる」
クリスは既に血まみれだ。
左腕は力なく垂れている。
限界が近いのは明らかだった。
「温い!!温いぞ下等種族!!我は生物の頂点!!百獣の王なのだァァァアアア!!」
背腕から一撃が振り下ろされる。
ロランのマチェットが折れる。
それでも止まらない背中側の腕からの追撃。
一本のマチェットでは受けきれず、たじろぐロラン。
意識をこちらへ向ける為、クリスは正面から飛び掛かる。
だが受け流されると、壁に叩きつけられた。
「ぐぁぁああああああ!」
破壊された左腕に激痛が走る。
「クリス!」
ブルートは膝をついたクリスには目もくれない。
逆にロランを壁際へ追い込む。
迫りくる四本の剣。
一本では凌げない。
ブルートが右手に持っていた剣でロランの左手を突き刺すと、剣先が壁に刺さり、ロランは屋敷の壁で磔になった。
「ッ!!」
ロランは左手に剣が刺さった痛みに耐えきれず、壁に磔にされたまま意識を失う。
「この結果は至極当然だろう?俺は吸血族の忌まわしき歴史を乗り越え、吸血族による平和な世界を作るために生まれて来た。その俺がこんなとこでくたばってられるかァ!」
「ロラン!」
痛みに耐え、ゆっくりと立ち上がったクリスがロランを心配する。
「よくもロランを……お前らは、罪のない人々を殺し、数々の残忍な行いを働いてきた。」
ガントレットにエネルギーを溜める。
「ハッ!何を言っている。お前だって命を奪ったことがあるだろう――フードリヒは?命に重い軽いがあるとでも言うのか?」
「俺も極悪人だよ。自分の目的を遂行するため、手を汚す。その時点で、少なくとも俺は自分のことを正義だ何だとは思ってねーよ。だがな、これだけは言える。俺は俺より弱い奴を殺したことなんてない」
「貴様……」
「難しいことはごちゃごちゃ考えねぇ。ただ、今回も俺より強い奴を倒すだけだ。俺がお前に――」
中央の金属が青く光る。
「鉄槌を下す!!!」
クリスが飛び上がり、ブルートの頭上からガントレットを叩きつけた。
ブルートも三本の剣で応じる。
――が、クリスの体重も乗っかった重い一撃に、その太い足が床へめり込んだ。
「貴様ァ!」
大きな火花が散り、爆音が鳴り響いた。
クリスのガントレットを弾いたブルートの剣がグニャグニャと曲がり、ブルートは後ろに押される。
ガントレットの衝撃によりコアの部分が爆発。
辺りに煙が充満した。
そして爆発の煙が晴れるまで、暫くの沈黙が訪れる。
その沈黙を最初に破ったのはブルートだった。
「フフフ……ハハハハハハ。フハハハハ!!!これで終わりか!お前のガントレットは壊れ、相棒は壁に磔にされ、お前自身は両腕をなくす。傑作だなァクリス!!」
霧が晴れたとき、ブルートは剣を失っただけで無傷。
クリスは両腕から血を流し、膝をついている。
勝敗は誰の目にも明らかだった。




