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第四十七話 第二次ラオの乱➃ VSケイト

「あたしは他のバカ二人みたいに体力を使って戦ったりしないよん。賢く、狡猾に、私の毒矢で殺してあげる。あたしはブルート直属三傑のケイト!よろしくねーん」


 クリスは自己紹介が終わらないうちにケイトに銃口を向け、トリガーを引こうとしたが、それに気づいたケイトがすかさず矢を放つ。

 矢はクリスの手めがけて飛んでいき、思わずクリスはそれを避けた。


「あたしそれ知ってるもんね。どこで手に入れたか知らないけど、てっぽうっしょ?賢いから何でも知ってんの。褒めてもいいよ?」


 クリスはこの世界に銃という存在を認知する者がいるとは思わず、軽い衝撃を受ける。

 今度はエアリアが義手を変形させてクロスボウを放った。


 矢が連射されたが、一本も当のケイトには当らない。

 ケイトは少し体勢を変えただけで、それ以外は微動だにしなかった。


「あんた計算してる?矢ぁ使うときは計算しないと」


 エアリアも相手があまり動かないとオファク武術を使いにくい。

 気配や本能で戦う二人には、計算や理論で戦うケイトと相性が悪かった。


「気配も分かんねぇし、矢もするりと躱す。なかなかの強敵だな」


 エアリアが間合いを取っていると、今度はケイトが攻撃を始めた。


「えーもう終わり?今度はあたしから行くよ?」


 ケイトは、三本の矢を同時につがえた。


 狙いは二人。

 放たれた瞬間、矢は空中でわずかに散り、二本がクリスとエアリアの足元へ走る。


 二人は反射的に跳んだ。

 難なく躱す。


 ――だが。


 着地の直前、エアリアは嫌な感覚に視線を走らせた。

 三本目。確かに警戒していたはずだ。


 しかし、次の瞬間――

 避けた先、その真正面から、矢が飛び込んできた。


 視界の外。


 エアリアは歯を食いしばり、体をひねる。

 矢先が肌に触れる寸前、刃で弾き飛ばした。


「……怖いことするなァ、嬢ちゃん」


「そこは見えないはずなんだけどねん。やるじゃん、ババァ」


「少なくともテメーより百歳は年下だっつーの」


「見た目が全てよ?貴女は顔こそいいみたいだけど、その筋肉じゃ……ねぇ?」


 軽い声とは裏腹に、ケイトの手はもう次の矢を取っている。


 クリスとエアリアは距離を取った。

 不用意に近づけば、次は避けきれない。


 ケイトがつがえた矢は一本だけ。

 だが、これまでとは違っていた。


 矢の中央。

 小さな筒が、ぶら下がるように取り付けられている。


 放たれた矢は、妙に遅かった。

 風を切る音も弱い。


 クリスは普通に躱そうとする。

 だが、矢がすぐ横を通り抜けた、その瞬間――


 パンッと乾いた音がした。


 筒が弾け、紫色の液体が空中に散る。


「何だこれッ」


 クリスは咄嗟に身を引いた。

 飛沫は背後の低木にかかり――次の瞬間、泡を吹いて溶け落ちた。


 神経を逆撫でするような嫌な音。

 そして、鼻の奥まで届く刺激的な臭い。


 もし、今のがかかっていたら。

 そう考えた瞬間、背中に冷たいものが走る。


「よく避けたね。でも、これだけじゃないよ」


 ケイトは楽しそうに笑った。


「さぁ。ガンガン行くよ!」


 次々と取り出される多様な武器。


――毒矢、クナイ、ナイフ。


 形も用途も違う毒牙達が、こちらへと放たれた。


 一度でも触れれば終わり。


 表情が曇るクリス――に対し、エアリアは歯を見せて笑った、


「なるほどね……」


 彼女はそう言うと、銀製の鎧を脱いで地面に捨てた。

 途轍もなく重かったのか、地面にめり込む鎧。


 サラシと軽装の砂漠用ズボンのみで毒に立ち向かう姿は、クリスを驚愕させる。


 迫り来る刃物たちに対し背を向け、クリスの肩をもって少しだけずらすと、刃物はすべて二人の側を通り過ぎていった。


 どれ一つ掠ることなく、ただ少しずれただけで躱したエアリア。


「クリス……お前、最近仲間ができて、無茶してるらしいな」


 エアリアはクリスに語り掛ける。


「ババァ、どうやって躱した!こっちは計算してんだよ!当たるはずだろ」


「何やってんだよ姉貴!鎧捨てるとか、死にに行くような――」


「あのなァ、仲間っつうのは守ったり守られたりするもんじゃねぇ」


「おいケイトちゃんの事は無視かよババァ!!」


「――オファク流武術、追加レッスンだ」


 エアリアはそう言うと、振り向いてケイトを指さした。


「あいつの顔面に拳を叩き込む。二人であいつに近づくぞ。援護なんてもんはいらねぇ」


 クリスはもはや唐突に始まる追加レッスンに返事もできなかったが、一先ず拳を構えた。


「そうだ。拳で語ろうぜ」


 エアリアは一歩、正面に踏み込むと、ケイトに向かって走り出した。


 彼女の初速は人間のそれを超えていた。

 風が巻き起こり、砂が舞い上がる。


――鎧を脱いだだけ。だが、これが大事だった。


 彼女はパワーで優る吸血族を対策するために鎧を着ていただけで、遠距離型の敵と戦う分には不必要な防具だったのだ。


 それに遅れまいとクリスも足を踏み出した。


 毒に当れば即死。

 しかし、正面を走る師匠の背中が、ここだけは安全だと言い切っていた。


「クリ坊!オファク流で風の動きを読め。簡単によけられるはずだ――」


 それに反応するは怒り狂ったケイト。


「簡単ってなんだよ!撃つよ!アッタマ来た!!全部当ててやっからな!」


「来い――ブス前髪ババァ!!」


 叫びと同時に、ケイトは矢も刃も構わず乱射した。

 だがエアリアは一切減速しない。


 飛来する毒牙は、彼女の体の“少し外”をすり抜けていく。


「見るな、感じろ!」


 その背中を信じ、クリスも踏み込む。

 風の流れ、殺意の向き――矢が来る“前”に、身体が勝手にずれた。


「そうだ。それで良い!仲間と一緒に殴れ!仲間を信用して戦え!仲間と足並みをそろえて戦え!!」


 刃を躱し、矢を躱し。


――気づけば、クリスとエアリアはケイトのすぐ目の前へと辿り着いていた。


「無茶は仲間の足を引っ張るだけ……本当の仲間は、二人で殴る!!」


「あーもうッ!なんでババァに当たんないのさぁ!?」


 ケイトが一瞬、理解できないという顔をした、その瞬間。


 二人は同時に踏み込み、拳を振り抜く。

 右と左。完璧なタイミング。


「ぐぇふッ!!!!」


 鈍い音が重なり、ケイトの顔面が歪んだ。


 彼女は言葉もなく、後方へ吹き飛んだ。


「――でもテメェのそのガッツ、嫌いじゃないぜ」


「姉貴ィィィィィイイイ!!一生ついていきますッ!!」


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