第三十四話 ラオ列車爆破事件⑤
「いつ、俺が、こいつを、殴ると言ったぁぁああ!!!!」
クリスはアーティファクトに巻き付けたワイヤーを取ると、一方に鉄パイプを括り付け、アンカーのように返しを作った。
それをドアから線路へ投げる。
線路と機関車の間で鉄パイプが絡まり、金属の擦れ合う音と共にワイヤーが後方に引っ張られていく。
それにつられてアーティファクトもドアに引き寄せられ始めた。
「いやいや、アーティファクトは壊れちゃうけどこれじゃ君の方へこいつが近づくだけだよ」
フードリヒは未だクリスが何をしたいのか分からない。
クリスは車両の前方にいて、アーティファクトとフードリヒは車両後方。
クリスは前方右側のドアから鉄パイプを投げたため、アーティファクトは右側の壁を伝って、一度前方に引きずられる。
その後に前方のドアから外へ出て後方へ飛ばされることになるはずだった。
「いいや、お前はこの超絶面倒臭かったクソッたれ機械と一緒に死ぬ運命だよ」
クリスはガントレットを使ってワイヤーのもう一端を掴むと、その魔石によるエネルギーでワイヤーを引っ張った。
「オラァア!」
すると、バチッという破裂音が響き、同時にガントレットが強く光った。
次の瞬間、クリスの腕はワイヤーを引き絞り、1トンはあろうかというアーティファクトごと、無理やり持ち上げてみせる。
「!!!」
当然ガントレットでパンチすると思っていたフードリヒは驚く。
そしてそのまま、ワイヤーの端は前方左側の窓の外へと投げられる。
つまり、両端からワイヤーによって引っ張られたことによってアーティファクトが宙に浮く。
憎き人狼もどきは、車両中央で磔状態になったのだ。
――ギチギチ……バキバキバキ
ワイヤーの各両端が線路と絡まったことにより体が左右に強く引っ張られ、アーティファクトは今にも千切れそうな音を上げる。
「素晴らしい。よくやったじゃないか。褒めるよ。だけど、こいつはこれじゃ壊れないぞ?だからこの後は、ワイヤーの強度によるが……あ、あれ?これは――これはッ!!」
フードリヒが気づいたときには遅かった。
最初に限界を迎えるのはアーティファクトではなく、列車の壁だった。
細い強靭なワイヤーが線路に引っ張られることで壁に大きな力が加わり、ワイヤーがメキメキと壁を横一文字に切り裂いていく。
そうなると、アーティファクトのついたワイヤーが高速の刃となってすべてを両断しながら後方へ進みだした。
「これも割とあるトリックだぜ。映画でも、アニメでも……高速で動くワイヤーは全てを叩き切るってヤツだよ!!」
「き……貴様ァァアアア!クリス、人間の分際でよくもォ!」
「お前には、ロランを傷つけた“報い”が必要だ。地獄へ落ちろ!!!」
フードリヒは、避けるという選択肢すら与えられなかった。
高速で飛来したアーティファクトがその身に直撃し、鈍い衝撃とともに全身を強く打ち据えられる。
次の瞬間には、身体ごと後方へと弾き飛ばされていた。
バキバキバキバキバキバキ!!!
凄まじい破壊音が連なり、クリスたちの乗る車両より後方に連結されていた車両が、まとめて後ろへ吹き飛ぶ。
張り巡らされていたワイヤーが容赦なくそれらを切り裂き、木材も鉄骨も原形を留めないまま砕け散っていった。
倒れ伏すように床に身を投げ出していたロランとルーシーは、その惨状に巻き込まれることなく済んでいる。
――助かった。
そう思った瞬間、列車後方でひときわ大きな爆発音が響いた。
アーティファクトが、ついに限界を迎えたのだろう。
クリスは思わず振り返る。
そこには、あるはずのものがなかった。
自分たちの乗る車両より後ろ――
連なっていたはずの車両は、跡形もなく消え失せていた。
「ちょっと休憩。キツすぎ――」
完全にフードリヒを倒したのを見ると、安心したのかクリスは次第に意識を失っていく。
ルーシーが大丈夫かと語りかけているのが朧気に聞こえて来た。
そんなことよりロランを……ロラン……を……
そこでクリスの意識は、深い、深い眠りへと落ちていった。
♢
虚ろな意識の中、誰かの声が聞こえて来た。
「ったく。派手にやってくれちゃって。俺らがやったと思われちまうじゃねーか」
「どうしようもなかったの。許してよ」
「別にいいさ。まぁ起こったことはしょうがない」
「お、クリス君、起きた?」
クリスは目を覚ました。
ずっとベッドの上で寝ていたせいか、全身の筋肉が強張ってうまく起き上がれない。
「おっと、待て待て。今起こしてやるから」
バンダナを巻いたドレッドヘアの男がクリスの上体を支えた。クリスが寝ていたベッドの横には、赤色のバンダナを頭に巻いた男とルーシーの二人がいた。
「何時間くらい、寝てました?」
クリスがルーシーに聞いた。
「そうだねぇ、私達が二人をここまで運んだのが十五日だったから、今日で丸三日かな」
クリスは自分が三日もベッドの上で寝ていたことに驚くが、道理で体が痛いわけだと思った。
腹には綺麗な包帯が巻かれ、腕には二本の点滴が刺さっていた。
「ロランは大丈夫なんですか?」
クリスは恐る恐る、ルーシーに聞いた。




