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第三十三話 ラオ列車爆破事件➃

 ルーシーが振り下ろされたアーティファクトの手を斧で受け止め、そのまま間を置かずにスパイクを射出する。

 今度は狙いが定まり、スパイクは肩を貫いた。

 わずかだが、その動きが鈍る。


 だが、それでも状況は好転しなかった。

 自由が利かなくなった右手を乱暴に振り回し、アーティファクトはなおもルーシーへ強烈な攻撃を続ける。


 一方で、クリスは火のついた左手に苦戦していた。

 近づこうとすれば、熱を帯びた巨大な手が掴みかかってくる。


「あぁもう……ナンかで動きを封じてから殴れれば――ッ!!」


 クリスは足元に落ちていた、機関車の外枠から剥がれたワイヤーを左手で拾い上げ、右手のガントレットのスイッチを入れた。

 コアが光を放ち、パイプの中で冷却用の青い液体が動き出す。


「キィィィイイイイエエエエエエエ!!」


 アーティファクトがこちらを向き、悲鳴のような雄叫びを上げた。

 次の瞬間、左手で全てを薙ぎ払おうとする。


 クリスはそれをかわし、狭い車内を走りながらワイヤーを絡めていく。

 足、首、手――順番に鉄製のワイヤーが巻き付いていった。


 一方のルーシーは、右手を戦斧で押さえたまま動けずにいた。


 巨大で重い手に押され、じりじりと床へ追い詰められていく。

 アーティファクトの手と、横たわる床との隙間は、どんどん狭くなっていく。


「ま、まずい……クリス君!!私は、このまま潰されるかもッ!!」


 クリスもワイヤーを掛け続けていたが、右腕の動きや頭部までは封じきれなかった。


「俺も、このワイヤーに振り回され――だぁああっ!!」


 結果として、絡められたのは胴体と足だけ。

 炎と巨大な手に阻まれ、決定的に近づけない。


 なおも右手はルーシーを押さえつけ、左手はクリスを狙って振るわれる。

 つっかえ棒にしている戦斧も床にめり込み始め、限界が近い。


 そして――

 攻撃をかわし続けていたクリスの脇腹を、アーティファクトの爪が引き裂いた。


 ほんの一瞬、気を抜いた隙だった。

 熱とともに、ぬらりとした血が腹部を伝い、直後、言葉にならない激痛が走る。


「ぁああ!!――いッてぇぇぇええ!」


 クリスはそのまま地面に倒れ込んだ。

 立ち上がろうとするだけで、脇腹に鋭い痛みが走る。


 ついにアーティファクトはクリスを完全に無視し、両手を振り上げてルーシーを潰そうとした。


「クリス君、ロラン君を連れて……どうにか逃げるのよ!!」


 その瞬間、奥の車両から若い男が姿を現した。

 男は軽く手を叩き、その合図だけでアーティファクトの動きがぴたりと止まる。


「はい、ストップ。ストップ」


 その男は首に銀色のネックレスをしており、赤いロングコートに右目の傷。おそらく吸血族であろう赤い目の色をしていた。


「彼女の技術に興味があるから殺さないでね。あと彼女cuteだから、許しちゃう♪」


「テメェは誰だ!」


 クリスが問うた。


「僕はフードリヒ・ハインさ。ルーモン地方じゃなくて、こっちの方で生まれたから、吸血族にしては珍しい名前だろう?あと貴族たちの間ではイケメンって話題なんだが、聞いたことないかい?」


「気色悪ぃ」


 クリスが吐き捨てた。


「なぜ私たちの居場所が分かったの?」


 燃え上がるアーティファクトの腕が振るわれ、その手の隙間が一瞬だけ開く。

 その刹那を逃さず、ルーシーが身を低く保ったまま、声を投げかけた。


「あららぁ、別嬪さんの質問にお答えしましょう♪」


 フードリヒはステッキを出して車内を歩き始める。


「僕はこないだのヒッタ派襲撃の時にいたんだけど、その時にそこのクリス君に発信機を付けた。ずっとGPSの通信が途絶えていたんだけど、地下でもいたのかな?とにかく、久々に出てきたと思ったらラオに向かってるからチャンスと思ったわけさ」


 彼はステッキをくるりと回すと、振り返って言う。


「それでこの汽車の一番後ろの車両に乗って、トイレに隠れて、頃合いを見てこの車両まで来たというわけ。つまりこっから後ろは皆完食よ♪僕は“吸血鬼”っていう人間の上位種だからね。フフッ。」


「皆――完食――?な、何言ってんだお前?」


 クリスは鳥肌を立たせた。


 それが出血によるものなのか、はたまたフードリヒの行いに対する寒気なのか。

 だがいずれにしろ、クリスの体力はあと少ししか残っていなかった。


「おっと、喋りすぎた?僕一回喋ると永遠にしゃべっちゃうからね」


 フードリヒは舌を出してやっちゃったという風におちゃらけて見せる。


「とにかく、僕は君を始末して、この娘を持ち帰る。君たちの……負け!だよ。ハハハッ」


 クリスが脇腹を抑えて立ち上がった。


「何だとこの野郎?」


 脇腹からドクドクと滝のように血が出ているが、クリスはそれでもかまわずにしゃべり続ける。


「お前は、生物として上位種である蛇が、カエルを食べるという至極当然の理と同じで……吸血族が人間の血を吸うと思っているだろう?……だがな、お前は、テメェだけは!!襲っているカエルが毒ガエルだという事に食べてみるまで気づけないんだ。俺が毒ガエルであるということにな!!」


「馬鹿げたことを」


 フドーリヒはボロボロのルーシーを見下ろす。

 そのまま彼はルーシーを足で踏みつけ、アーティファクトの両手を自由にした。


「やれ」


 何の感情もない顔でアーティファクトに命令を下す。


 アーティファクトは両手を広げ、クリスを八つ裂きにせんと突進してきた。

 右手と胴体は燃え、近づくことすらできない。


「クリス君、どうやってそのガントレットでパンチするのぉ?当たったら自分も燃えるし、なんなら当たっても傷つくことなんてないんだけどねッ♡」


 フードリヒは勝ち誇った笑みを浮かべたが、クリスの目から闘志は消えていなかった。

 それは最後の力を振り絞っているから――ではない。


 勝算があったからだ。


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