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第三十話 ラオ列車爆破事件➀

 吸血族過激派本部への襲撃から、一週間が経った。


 その間に、ブルートに関する情報がいくつか芋づる式に浮かび上がってきた。


 まず分かったのは、ブルートが現在、ラオと呼ばれる都市にいるということだ。

 しかもただ滞在しているのではない。ラオの首長――正確には、議会そのものを裏から押さえ、都市の実権を握っているらしい。


 ラオでは、議会全員が揃って悪政を敷いているという話だった。

 過度な税の徴収。賄賂が当たり前のように流通する政界。狂気じみた奴隷制。


 もっとも、これらはあくまで周辺から集まった情報に過ぎない。

 実際にラムズスから直接聞き出せたのは、ごく一部だった。


 確かなのは二つ。

 ブルートが、ラオの中で突出して栄華を極めていること。

 そして、彼が「ジャクソン」という偽名を使っている、ということだけだ。


 それ以上のことは、まだ何も分かっていない。





「クリス君、ロラン君、久しぶり!」


 襲撃から数か月後のある日、クリス、ロラン、ルーシーの三人はフジに呼ばれ、作戦室へと向かっていた。


「ルーシー先輩!お久しぶりです。今日はこの三人を集めてどういう話をされるんですかね」


 ロランがフサフサと尻尾を振りながら、廊下を歩いてくるルーシーに聞いた。

 クリスは目を擦り、いかにも今起きたところだという風な仕草をしている。


「わかんない。でも任務じゃないかなぁと思ってるよ」


「ホントですか!僕もこの間に大分強くなりましたからね。ルーシー先輩とキリ先輩のおかげですよ。クリスも訓練してきたんでしょ?」


「おん。何回かキリってやつの頭をぶち抜きそうになったけど」


 それを聞いたロランとルーシーは顔を見合わせて苦笑いすると、いつの間にやら三人は作戦室に着いていた。

 クリスが両開きの重いドアを開けると、部屋の中央にはフジが一人。

 白髪の生えた腕を組んで待っていた。


「よく来た。こないだの作戦での傷は治ってきているか?」


 フジが自分の髭を触りながらクリスとロランに聞いた。


「はい。僕は大方治りましたが、クリスはまだ少し痛そうです」


 クリスは袖をまくって両腕の火傷を見せる。


「そうかそうか、痛々しいな。まだ完治していない上、仕事続きで申し訳ないんだが……新しい任務を引き受けてくれないか?」


「「「了解」」」


 三人とも威勢よく返事をした。


「その内容なんだが、早速ブルートの抹殺に乗り切ろうと思っている。ゼリク一派の主な資金源はブルート。こいつを早めに叩いておけば、向こうの武力が削がれるというわけだ」


 フジは机の上に置いた地図の“ラオ”と書かれた文字を指さしている。

 ロランはメモを取り、クリスは真剣に聞き、ルーシーは半分聞いてなかった。


「それで、どんな作戦で倒すんですか?」


 ロランが聞く。


「君たち三人には、実際に砂漠都市ラオまで行ってもらう。そして」


「そして、、、?」


「あとは助っ人達と作戦を立ててくれ」


「助っ人達…ですか?」


 ロランが驚いた顔をして答えた。


「詳しくは話せんがこっちにも事情がある。あと、キリは今別の任務で、ラオにはこれ以上人を増やすことができんからの」


「要は自分たちで工夫しろってことね。了解」


 クリスはやれやれといった表情でフジへ敬礼した。


「あとルーシー君、君は少し残っててくれ」


「りゃ、りょ、了解!」


 話を聞いていなかったルーシーが慌てて答えた。




 そして、部屋からクリスとロランが退出し、フジとルーシーだけが残った。


「私、ちゃんと聞いてましたよ!牧場都市ラマですよね!!」


 ルーシーは自信満々に言ったが、フジはその迷言に頭を抱えた。


「違う、砂漠都市ラオだ。君に残ってもらったのは叱るためじゃないんだぞ。私は作戦成功率十割の君を信用しているからな」


「――では、何でしょうか?」


 彼女の目に鋭い光が差し込む。


「君にはあの二人の監視をしてもらう。一応二人とも小型超蒸気機構(アーティファクト)によって監視させてはいるが、副総長の君にも行ってもらいたい。人手が足りんからな」


「了解。しかし、彼らを内通者と……?」


「儂にもよくわからん。今回のラオ行きの話はリリィ様直々の命で、儂らにも深く教えてもらえんじゃったからの。しかし、リリィ様はあの二人か、もしくは片方を消すことまで考えておるようだな」


「そ、そうなんですね」


「それと、彼らが立てた作戦はすべてこちらへ上げさせろ。使えるようなら――レモンの種まで絞ってから捨てる」


 淡々と言い切ったその声に、ルーシーは一瞬だけ視線を泳がせた。


「……随分と、冷たいお考えですね」


 その言葉に、フジの眉間がわずかに寄る。

 彼は指を組み、口元に添えたまま、間を置いて返した。


「いや、リリィ様のお言葉は絶対正義であろう?」


 ルーシーは一拍遅れて姿勢を正す。

 背筋を伸ばし、きっちりと敬礼すると――口元だけで笑った。


「はい。もちろんでございます」





 翌日、クリス、ロラン、ルーシーの三人はステティア中心部にある駅に来ていた。


「さあ、ラオまでは蒸気機関車で行くよ」


 ルーシーが二人に乗車券を渡す。


 ステティア中央駅には、すでに蒸気機関車が停まっていた。

 夕陽を受けた車体は鈍い金属光を帯び、磨かれた鋼の面が金に反射している。

 先頭車両になっている巨大な鉄の塊からは、規則正しい音とともに白い蒸気が吐き出されていた。


 重く、低い音。

 まるで巨大なクジラが呼吸しているかのようだった。


「おっきい!!すごいよクリス!!見て見て、煙もいっぱい出てる」


 共和制国家ビサにおいて蒸気機関車は上級国民の乗り物であった。

 乗車しようと思えば何十万ゴールドを払うことになる。


 したがって駅のホームにいるのはドレスやタキシードを着た紳士淑女ばかり。

 チェーンや片目ルーペ、歯車のついたシルクハットを被ったルーシーは、周囲から浮いていた。


「君達、乗車券を失くしたり迷子になったりして泣かないようにね」


 ルーシーがクリス達を小馬鹿にして言う。


「何言ってんだか。俺らを何歳だと思ってんすか」


 ムッとしたクリスが言い返すが、ルーシーはニヤニヤしている。


「私から見れば君らはまだまだ子供だよ?前の作戦は頑張ったって聞いたけど、私の指揮下で無茶は許さないからね」


 三人はすぐに列車の真ん中辺りへ乗り込み、向かい合って座った。


 列車内は、高級感あふれる装飾と真鍮の窓枠によって、きらびやかな演出がなされていた。

 薄暗い線路を走るためランプも点いており、まるで高級なホテルのような空間が広がっている。


「さぁ、行くよ!」


 暫くして、甲高い汽笛の音と共に列車が動き出した。


 車両は十メートルほどの高さの壁の間を進む。

 クリスの前世で言う、新幹線のように外と隔てられた線路は、砂や動物が入れないようになっていた。


 ラオの都市周囲にある防砂壁の内側までは、車窓から灰色の壁しか見えないため退屈な旅となるだろう。


 クリスがそんなことを考えていると、ロランは早くも()()()()しだした。


「ラオまではかなりかかるから、クリス君も寝たまえ」


 ルーシーが蒸気機関車慣れ感を全面に出しながらクリスに言った。


「……じゃあ、寝ときますね」


 クリスも武器の入った革袋を置き、目を閉じて寝る体勢に入る。

 以外にも汽車の揺れや、線路と車輪が互いにぶつかり合う音が心地よかった。





 クリスがすっかり寝た頃、列車のどこかでフードを被った男が謎の機械を弄っている。


「うーん、ここでいいかなァ……カカカカカ」


 どこか薄暗いところでニヤニヤしながら、彼は小さな機械を操作していた。

 首には銀色のネックレスを掛け、男の真っ赤な右目には縦に大きな切り傷が入っていた。


「楽しみだねェ……クリス君……♡」


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