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31 閉幕



 閉会式が終了してからは現地解散なので、みんなで打ち上げをしたり、帰って今日の疲れを癒そうとする生徒で様々であった。


 僕はまず冬樹原と王楼地の所へ向かった。

 彼女たちはまだ会場で、話し合っている最中で結果が気になっていたので丁度良かった。


「はあ、私の負けか~。最後にクラスメイティを見つけたし、勝てると思ったのだけどなあ」


「残念だったね。ワチには北ちゃんがいたから」


 冬樹原と王楼地はどれだけクラスメイトにポイントを渡せるかで勝負していたのだ。それでどちらが優秀なのかを決める。


 最もこんな勝負でなんの優劣を決めれるのかってハナシだが、彼女たちにすれば一位二位を決めれる舞台さえあればいいのだ。


 だから我ながら、この勝負は名案だったと感じている。

 これを機に二人でただ喧嘩するのではなく、能力を高めあったり、クラスの士気を上げてほしいものだ。


「私にも狭間クンがいれば、こっちが勝ってたかなって話だよ」


「あれ? オウロウチーも北ちゃんから、ポイントを貰ったのではないかね? あ、そっか。あげた、のではなくて、貰った。……だもんね、ぷぷ」


「きーッ! なんかムカつく! めっちゃムカつく!」


「げえー」


 ……うーん、思っていたのとは少し異なるけれど、うん、微笑ましいくてよろしい。


「ねえ、狭間クンは私とフユッキーユッキー。どっちが優秀だと思う? ねえ、この勝負の言いだしっぺの君が決めてよ」


「えぇ、僕が?」


 暖かい目で二人を眺めていたのに、突然話をふられて戸惑ってしまう。どうやって答えよう。それについては、何も考えてはいないのだ。


「うーん、ともかく二人とも無事で良かったと思っているよ。三高からは一人も犠牲者を出さずに済んだからね」


「あ、話を逸らした狭間クン!」


「ばれたか……」


「絶対、分かってたでしょ?」


「って、どうした冬樹原?」


 僕が王楼地と会話している中で、冬樹原は変にそわそわしながら辺りを見回していたのだ。明らかにちょっと様子がおかしい。


「いやね、レノレノとちょっとした約束をしてて……どこにいるのかなーって探していたのだけど、見当たらなくて。ちょっとね」


「レノレノか、あぁ、確かに、さっきから見当たらないね。帰っちゃったのかな?」


「ま、どうせ明日学校で会うし、その時でいいかなっていう気持ちになってきたといううーか」


「それがいい」


 そんな会話を交わして、僕は冬樹原たちと解散した。


 冬樹原はこれからオウロウチーと一緒に喧嘩しながらショッピングモールに行くらしい。

 喧嘩という名の遊び、だろうな。

 喧嘩するほど仲が良いっていうし、そういうことなのだろうさ。



 ◇



 試験が昼頃に終わり、しかも現地解散なんていうのだから……僕はどこで昼飯を食べようか、とても迷った。


 外食にしようとは決めていたのだが、なにせ優柔不断。

 四番地区にある飲食店を調べたのだが、どれも美味しそうで迷うばかり。結局、スーパーで買ったお惣菜を公園で雑に喰らうことで落ち着いた。


 四番地区は自然が豊富である。

 もっとも、この島自体が基本的に自然が豊かなのだが────ココは自然がより顕著だ。


 四番地区の西公園。

 試験終わりで疲労が溜まっているのか、わざわざ昼頃にココに来る生徒はいなかった。


 僕はここでお惣菜のコロッケを食べ、空になったプラスチック容器をゴミ箱に捨てた。

 それから自然を堪能する。


 風が心地良い。


 僕は今日の疲れを癒す為に、ベンチにゆっくりと腰掛けて脱力、目を瞑ってこの大自然を体感する。


 ああ、春風が暖かくて眠くなる。


 ……今日は久しぶりに沢山動いた。空いていたブランクはたった二ヶ月ほどだったが、それは思ったよりも大きく響いてしまった。それを踏まえると、今回の試験はかなり良い運動になったかな。スタートダッシュとしては最適だったかもしれない。


 だがまあ、手ごたえのある相手はいなかったのが心残りだ。別に彼は『殺意』を向けてくれたし、それだけで充分だ。


「よお久しぶり、って言った方がいいか? いや、久しぶりじゃあねえか。じゃあなんだ、こんにちは、こんばんは? シニガミさんよ」


 ……あ?


 唐突に聞こえてきたのは、少年の声だった。

 嫌というほど何度も聞いてきた声だった。

 僕の高揚感を呼び覚ますような、敵の声だった。


 聴きなれた声に、目を覚ます。目を開く。

 気が付けば、夕暮れ時になっていた。


「よーやく、起きたか」


 隣には少年が座っている。


「まさか君がこんな所にいるなんて、思ってもいなかったな。……クロザキ」


 クロザキ。

 黒崎(くろざき)桐谷(きりや)

 僕と同じく黒髪の少年。


 かがみ合わせの存在というやつだ。違う所は『一人称』と『頭脳派か物理派』か『仲間想いかどうか』の三つだけ。それ以外はほぼ、と言っていいほど全く一緒の少年。


 僕と同じく“あの終わってる世界生まれの”人間にして、最強頭脳と称される人類トップの頭脳を持つ────最高傑作。


「そりゃそうだろ。俺とお前はいつも一緒だろ? お前が居るところには俺がいるし、俺がいるところにはお前がいる。笑えるだろ、はは?」


「……それもそうだな。で、わざわざ何の用さ」


「あ? それぐらい、お前なら分かるだろ?」


「いや全く」


 嘘だ。分かる。だって僕と彼は鏡合わせ、同じような存在なのだから。


「はあ、まじ?」


「うん、まじ。大マジさ」


「そりゃあ勘弁だぜ。分かってくれよ。……俺がわざわざお前に会いに来る。なんでかなんて、決まっているだろが」


 うーん、心当たりがないな。


「結果発表だよ」


「結果発表? 僕は何かしたっけか」


「あ? ここまで言っても分からねえのか? ああ、そうか。そうだよな」


 勝手に聞いてきて、勝手に納得する。相も変わらずコイツは変わっていない。


「相変わらずだな、お前もさ。そうだった。お前は鈍感キャラで通っているのだったなあ。ゴメンゴメン、キャラ薄すぎて忘れちまってたよ」


「はあ」


「話し戻すけどさ」


 別に戻さなくても良いんだけどね。このまま僕の目の前からいなくなってくれても、とても構わないのだけれどね。


「はあ2」


「畦道っていう男、知っているだろ? お前ならさ」


「誰だっけ、その人」


「お前が今回の試験でぶちのめしたヤツだよ。随分と完膚なきまでにやってくれたなあ……クラスに戻った時、しょんぼりしていたぜ。ま、おかげでさっき消えたけどな」


 思い出すように目は遠く、彼は微笑した。


「待ってくれ、お前……四高なのかよ」


「え? あ、そうだが。はあ、お前それも知らなかったのかよ……」


 コイツに呆れられるのは毎度のことだが、だがなんだか悔しくなる。


「もう一回、話を戻すけどさ」


 彼は続ける。


「試験前さ、畦道とか暁士道ってやつらが四高内で権威を振るっていてリーダー気取りをしていたわけ。なーんでこんなセンス無い奴らばっかりリーダーになろうとするんだろて疑問になりながらさ、同時に思ったわけ」


「「コイツら邪魔だなって」……か」


 これは大方予想していたので、言葉を被せてみる。上機嫌になったのか、クロザキが口笛を鳴らす。


「いいね! 分かってるじゃん。邪魔だし、なによりリーダーは二人も要らんよな!」


「どうも」


「……えーっとな、で、それでさ。邪魔だなあって思った矢先にな、お前ら作高とバトるって試験を聞いてよ。テンション爆上がりってわけ」


「へえ」


 なるほどな。

 なんとなく、全貌を把握してきたぞ。


「作高にはどうせテメェがいるし、どうせなら潰してもらおうって思って、アイツがお前にぶつかるように色々やった」


「僕に面倒ごとを押し付けたとかいう聞き捨てならない台詞第一位」


「良いだろ別に、どうせ勝てるわけだしさ」


「……あのなあ、まあ君がそういうヤツだって前々から知っていたけどさ。具体的にはどんなことしたんだよ」


 決まっているだろ、と彼が僕を指差してきた。

 指を差すのは失礼だから、止めた方がいいと思うけど?


「そうだな。やったコトと言えば、お前が試験に関心を持つように……テメェのクラスメイト一人を利用した」


「利用、誰だろうな?」


「誰だっけな、俺も忘れちまった。確か……レノレノとか呼ばれていたような」


 よりにもよって、アイツかよ……。でも合点がいった。妙に彼女が学校の情報を知っていそうな素振りを見せたのは、コイツがそういう風になるように利用していたからか。

 黒崎なら学校の機密情報など、赤子の手をひねるように簡単に出来るだろう。


 朝飯前ってやつだ。


「なるほど、どおりで」


「合点がいったか?」


「少しはな」


「まあでも、テメェが試験で暴れてくれたおかげで助かったぜ。俺は奥深くまで潜ってポイント程よく取って終われたからな」


「そりゃあ良かった。なら僕のことを許してくれたりしたのか?」


「あ? そんなわけ無いに決まってるだろ。分からねえのか?」


 だよなー……流石に許してはくれないか。

 あのコトを水に流してはくれないか。


「はあ。なんでお前が作校に入ったのか、若干分かった気がするぜ」


「というと?」


「テメェはどうせ死んだヤツらのことを本に書き記し残すことで、それが免罪符になるとでも思っているんじゃねえのか?」


 ……まあ、騙せないか。最強頭脳と呼ばれるだけはある。僕の思考を読み取るなんて、あまりにも簡単な作業なのだろうさ。


「言っとくが俺はそれぐらいじゃ許しはしないぜ。俺の仲間22人全員を殺したことは一生忘れるつもりねえよ」


 そうらしかった。

 ダメらしかった。

 戦うしかないらしかった。


 先程のような穏やかな目つきとは違い、彼は瞳の中にコチラへの殺意を抱いている様子であった。

 本当に明確な殺意である。


「アンタは確か知っているよな」


「勿論、その上さ。テメェが、テメェに殺意を持った相手には絶対勝てるとかいう特性を持っていることはな……だが俺はその上で、お前みたいなクソ野郎をぶっ殺したいんだよ」


「そっか」


「今回の試験は邪魔者を排除する為にテメェを利用しただけにすぎねえ。全部オレの手のひらの上だったってわけ。で、次の試験こそお前の番だぜ」


「というと?」


「もうお前に次はねえったことよ。お前は次でしっかり殺してやるからよ」


「……じゃあ僕も、残しておいた君を殺す為に頑張るとするさ」


 僕は黒崎と似ていて、それからとんでもなく嫌われているが……僕だって同感だよ。僕だって君が嫌いで、うざくて、殺したい。


 だって、だって君は……。

 君だって。


 “唯一無二の僕の相棒を、見殺しにしたのだから”。


 だから僕は君を許すことはないし、君も僕を許すことはない。


 それが全てで、それが全部だ。


 狭間北と黒崎桐谷という人間関係。

 僕と彼という両憎関係。

 死神と天才の左右関係。

 そこに貴賤きせんはない。

 上限関係はない。

 あるのは、


 このフザけた世界での、相互関係だ────それは昔からそうで、今も変わらない。


 歯車はどこかでパーツが変わったようで、実際は変わっていない。

 世界というのは実にそういうもので、僕と彼というのも、そういうモノだ。

 変わらない。何もかも変わらない。


 フザけた世界だ。


 この世界は実にフザけている。



 あ、と言う前には全て終わっていて。

 残るのは途方もない後悔。

 忘れられない傷が深く、残るだけ。


 だから僕は相棒に誓った。フザけた世界に負けた遺志を継ぐために、彼らという存在を世界に描き続ける為に。残し続ける為に。


 このフザけた世界で生き残る、と。


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