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30 あ。


 最後のターンでもある六ターン目を知らせる、スマートウォッチが嗤った。

 戦いのゴングが鳴る。


「今、オレが生き残る方法は一つ」


 僕は目の前にいる男子生徒の動きを、じっくりと見つめる。

 どう動くのか。


「お前をタッチし、ポイントの二分の一を奪う。そうすれば両者ともに5ポイント。この試験でアンタを倒すことは叶わねえが、俺も死にはしない。どうだ?」


「はてさて、どうだろうね」


 答える。畦道は自分が生き残る方法を順序立てて、整理しつつ説明してくる。

 別に僕は興味ないのだけどね……別に時間はあるし、いいだろう。


「問題は君が僕を触らせてくれるのなら、やけどな」


「うーん、どうだろう。気分次第かな」


「ははっ、なら最後の勝負。力づくでやったるわ……!」


 スマートウォッチをちょっとだけ弄ってから、彼に向き直る。これがこの試験最後の真っ向勝負となるだろう。


 二時間、長いようであっという間だった。


「いくで、バケモン


「来いよ、四高のリーダー。殺す気で」


「やったるわ……ッ! はは!」


 何度目なのか分からない。畦道が地面を蹴り上げる、が今度は直進してこなかった。楕円を描くように、丸みを帯びた軌道で向かってくる。

 姿勢を低くし、加速していく。


 触れられたら終わり。逆に相手は触れてしまえばいい。

 圧倒的にコチラが不利のゲームだ。


「おらよ!」


 彼は右手を広げて、表面積を広くする。それから僕の真正面へ突き出す。これを避けないと、そのまま僕の胸にぶつかってしまうことだろう。


 後ろや右左に下がるのは芸がない、だから僕は逆に右斜め前へと────!


「やるやん」


 避け、


「だろ?」


 彼の腕が空振る。

 畦道が後ろに腕を回す。姿勢を低くして、回避。後退し彼と距離をとる。下手に動くのはいけない。出来るのなら『相手の動きを見てから』動きたい。


 さっきのナイフの件もある。気を付けたいところだ。


「まだまだやるぜ!」


 彼が動いて、僕がなんとか避ける。そんなチャンバラが少し続く、大体五分間ぐらいは戦っていただろう。

 彼は拳だけでなくナイフも使ってくる。


 時々、当たったら危険な攻撃もある。だから細心の注意を払う。


「そろそろ、終わらせよか!」


 ふと、畦道が地面に落ちていた何気ない木の棒を拾った。コッチを一回見てから、狙いを定め────木の棒を投げてくる。


 狙いは僕の顔か? 軽く右に首を曲げて、避ける。


「まだまだやっ!」


「おお、それ怖いな!」


 追撃と言わんばかりに、次は銀色のソレが飛んできた。

 果物ナイフである。さっきと同じ要領で回避。……したら、今度は畦道本人が走ってきた。攻撃ラッシュだな。


「策はなくなったのか?」


「いーや、あるで」


 背後。カンと、乾いた音が僕の鼓膜を通過する。……なんの音だ? 気になったが、背後を振り返っている暇はない。

 真正面から彼を見定めないといけない。


「おらよっ!」


 だが飛んできたのは、なんとも素直な左ストレート。体を左に逸らす。


「……ッは!」


 全部避けたはずだったのだが、畦道が奇妙に笑みを浮かべる。……なんで嗤った? 直観的に僕は一瞬だけ背後へ振り返る。見ろ、と直観が叫んでいたんのだ。


「そーいうことか」


「気付くか、流石やね」


 さっき投げた木の棒が、僕の後ろになった木にぶつかり跳ね返って、足元まで飛んできていたのだ。あやうく、木の棒に引っ掛かって転ぶところだった。


「危ない危ない……って」


 その木の棒は確かに、しっかりと避けたハズだった。

 だというのに僕は木の棒に引っ掛かり姿勢を崩してしまっていた。そんな現実が、ココにはあった。


 なんでか。


 すぐに理解する。


「二個なら避けれても、三個なら君でも無理やんやな?」


 そう……彼は木の棒の他にも、ナイフを投げていたのだ。それが跳ね返った木の棒に当たり、木が二つに割れたわけである。その片方だけに僕の意識はむいていて、もう片方を意識していなかった。


 それで、こんな醜態を招いた。


「……くそっ」


「ようやく捕まえたで、狭間クン!」


 そして、彼は僕に触れた。


 ────能力を使用した。


「……は?」


 それで全てが終わる。

 彼の全てが終わる。

 ゆっくりと立ち上がって、僕はなんの感情も表に出さない表情で畦道を見た。


「0ポイント、やと……?」


 そう。彼が手に入れたポイントは0、同時に僕が現在持っているポイントも0ポイントだった。だから略奪の力を使ったところで、意味はなかった。


 理解不能で立ち尽くす彼に対し、僕は言う。


「君は今、明確に後悔したよね?」


「……あ?」





 そう。勝負は既に。

 あ、という前に全て終わっているんだよ。





「敵に回してはいけない人を敵に回してしまった。相手にしてはいけない人を、相手にしてしまった。本気にしてはいけない人を本気にしてしまった、と」


「なんやと……」


「ねえ畦道クン、君は知っているかな。このスマートウォッチには凄い機能が付いているのだよ。それはね、自分のポイントを捨てられるという機能さ」


 捨てられたポイントはどこにもいかず、無になる。

 スマートウォッチを操作している時に、偶然僕が発見した機能だった。


「ま、まさか……てことは君!」


「そうさ、僕が持っているポイントをさっき、全て捨てたのさ。おかげで君の略奪者の力は無駄撃ちで終わった」


 そういうことになる。


「何を言っているんや……アンタはよ、それだと自分も0ポイントで退去処分になるんやで?」

 初めて、彼の声が震えているのを聞いた。


「悪いけど、殺すことにしか興味はないね」


「な、なんや……君、本当に馬鹿なのか?」


 そんな会話をしている間に、ついに六ターンにおける僕たち二人の行動時間が終わってしまった。両者0ポイント。

 もう生き残る道は残されていないわけだ。


「はあ、アンタみたいなヤツがこんな所でアホな選択取ってくるとは思わんで……どっちも負けるとか、最悪だとは思わんのか?」


「思うよ」


 両者勝ちならまだいい。

 両者負けなら、ハナから勝負する理由なんて存在するのか────って話を、彼は言いたいのだろうよ。

 僕もそれには同感だ。勝利のない勝負に意味なんてない。


 勝てなければ意味がない。

 自分に対する結果が伴っていなければ、努力なんてものはサラサラ意味がない。


「とっても強く思う。そう思う。同意するよ」


「……何を言ってるんキミ、ならなんでこんな事をしたんや。喧嘩両成敗なんて話じゃないで」


「……はあ、何を勘違いしているんだい畦道君」


「なにを」


「僕は死ぬのが怖くはないと言ったけど、死ぬつもりじゃないし。ここで君と一緒にくたばる気だってないんだよ」


 何を言っているのかコイツは、と畦道がこちらを見続ける。


「つまりだよ。あー、僕は……いやさ、一応クラスの為に一番危険な役を買ったわけ。あくまでも個人的にやっただけだけど。でもそんなコトをわざわざしたっていうのに、英雄的存在だっていうのに、それを見殺しにいるクラスメイトってさ……」


 ってさ、


「ちょっと嫌じゃないか?」


 刹那。

 急な崖から誰かが(くだ)ってくる。

 少女だった。

 僕の見慣れた少女だった。


「どーやら、随分な激戦だったみたいだね。北ちゃん」


「そーゆうことだ」


「お疲れ」


 僕は動かない。近づいてきた蒼い髪の彼女と優しくハイタッチを交わす。


「冬樹原こそ」


 そこで僕は残していた略奪者の力を使用した。冬樹原のポイントの二分の一を受け取って、コチラの総ポイント数は75となった。


「な、何が起きとる……?」


 畦道がアゼンとした表情で、僕らを見つめたまま硬直していた。


「僕は最初、大量にカプセルを持っていただろ? それを友達経由で冬樹原に渡しておいたのさ。『六ターン目の最後に、“この地点へ”来て僕にポイントを半分くれ』っていう伝言でね」


「古林クンに案内してもらったケドさ、随分と行きにくいところを指定してくるよね」


 黙る畦道に、僕は近づき口を開いた。


「じゃあね、四高の“元“リーダー」


 冬樹原をハメる作戦を分かっててわざと成功させたのも、

 わざわざ彼を待っていたのも、

 最初の時点でスタミナを消費してまで沢山のPカプセルを集めたのも、

 この袋小路である崖に逃げ込んだのも、

 畦道と二人きりの状況を作ったのも、


 全ては、狭間北の予定調和。

 全てが、彼をこの学校から殺すための作戦に過ぎなかった────ただ、それだけ。


「は……、完敗や、もういい」


 こうして夢泉学園入学初の試験が終わった。幸い、第三高校から犠牲者を出さずに済んだので良かった。

 退去処分はポイント最下位、0ポイントの『畦道』。

 第四高校の生徒が退去処分になって、長いようで短かった試験がついに幕を下ろした。


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