28 交錯
冬樹原に勝つために、私はクラスメイトに何ポイントか渡していたけど……どんどん森の奥に進んでいくと、やっぱり生徒の数がまばらで、ポイントを渡せる生徒に会えなくなってきていた。
でもそれは、最初から私的には予想していたこと。
つまり予想通り、想像通りだ。
私の作戦だと……四ターン目までポイントを集め、最後に、自分が最下位にならない程度にポイントを誰かに渡す、という未来になっている。
肝心なのは、どれだけポイントを集められるか、どのようにしてクラスメイトを見つけるか、だ。
現総ポイント数125。
フユッキーユッキーがどれぐらいのペースでポイントを稼いでいるのか分からないし、集められる限界まで集めたい。だが集めることに集中しすぎれば、受け渡す相手を見つけられずに敗北あるのみ。
「もっと効率的にポイントを集めるとなると……やっぱり崖とか進みにくいところを探して一攫千金を狙うか、進みやすいところで沢山カプセルを見つけられることを願うか。どっちか二択……うーん」
この森に入った最初から、ずっと見えていた高い崖がある。そこを登ることさえ出来れば……凄いポイントの入ったカプセルを見つけられるかもしれない。
いやでも、それはあまりにも希望的というか利己的な思考だ。
それが成功する確率はかなり少ない。というか私程度が頑張って登れるのなら、他の生徒が既に登りきっているに決まっているし。
……どうしよう。どうやってポイントを集めよう。
「おい、王楼地ちゃん!」
「はい?」
突然知っている声が森の中で駆け巡る、というか私宛のモノだった。足音も徐々に聞こえてきて、……“見えた“。狭間北クンが森の中を走っていたのだ。全速力で、凄い速度で。
「って、凄いPカプセル持っているのだけど……すご」
「王楼地ちゃん! これ、受け取ってくれ!」
「は?」
私は口を開いて、呆然としているしかなかった。
そりゃあ、そうするしかなかった。何故なら────その大量に抱えたPカプセルを私に向かって、大半を投げ飛ばしていたのだから。
「うわあ、何事っ!?」
「未使用のPカプセルだ!」
「は、え?」
なんとか空中に待ったカプセルを数個手に取るが、他はもれなく地面に落っこちてしまい……焦り、混乱。意味が分からない。
「えぇ?」
コチラがこの意味を問いただす余裕はなく、彼はいつの間にか更なる森の奥へと進んで行ってしまう。……まじですか。
こんなことって、あり得るのか?
震える手をなんとか抑えて、彼から貰ったPカプセルの総数を数えた。
「に、20個!?」
いや流石に規格外というか、なんだか闇金を受け取った気分だ。実際に闇金を受け取ったことはないけれど、分かる。こんな感じなんだろうなあ、と。
それとも、マネーロンダリングに利用された気分だ。
「もしかして本当に、誰かから奪ったヤツだったりして……いやでも、別にソレはルールで禁止されていないし、いいのだろうけどさ!」
にしても、本当に、規格外な人だ。
……誰かに奪われる前にありがたくポイントを受け取ろう。そう思って、私は狭間北クンから貰ったポイントを頂くことにした。
それで私の総ポイント数は265になった。
これで私は億万長者である。
さて、じゃあ……私はこれを渡せる誰かを、探しに行かないと。
◇
運が良いところに王楼地が居て助かった。
これで僕がいま持っているPカプセルは一つだ。おかげでかなり身軽に動ける。
「逃げんなや! なあ!」
畦道は大量のPカプセルなんてどうでもいいのか、僕だけを追いかけてきている。これじゃあストーカーだ。ストーカーまっしぐらだ。
時々の投石を避けながら、できるだけ足場が悪いところを進んでいく。悪いな、障害物競走なら僕は誰にも負ける自信がないんだよ……!
「はあ、はあ、……くはは、逃げてばっかじゃつまらねえやろ!」
「そんなことないけどね」
「アホか。ほな、君は俺との勝負を拒否する腰抜や!?」
……やかましい。だけどこのまま平行線を辿ると、畦道が僕を捕まえるなんてことは起こりえない。この鬼ごっこを続けると不利になっていくのは、なにより畦道の方だ。
「おい、狭間クン。まさかこのまま鬼ごっこが続くと、なんて思ってないやろな」
「あ?」
振り返る。……彼は右手にトランシーバーを装備していた。
いつの間に。いや、最初からあったのか?
電子機器の持ち込みは禁止だが、元から試験会場を予想してセッティングしておけば問題ないという算段か。
「ポイントまで連れてきたで。はよやれ!」
なんにせよ、これは苦しいかもしれない。
畦道がトランシーバーで合図をするのと同時に、僕の逃げ道を覆うかのような形で数人の男子生徒が現れた。……役職は大方、略奪者か。それか平凡者だろう。
「悪か思わないでな、狭間クン。これが作戦勝ち、ちゅーもんや」
「取り囲むぞ!」
あっという間に僕は包囲網の中心に立たされてしまった。
「いやあ、それマジ?」
それに生徒たちは皆体格がよく、僕なんかよりもずっと強そうだった。
シンプルな肉弾戦はまず不可能。
無理やり数人の体重で地面に押し込まれたら、それもゲームオーバー。
一つでも選択をミスすれば、今までの作戦が全部水の泡になってしまう。
……どうするか。
「おりゃあ!」
取り囲んでいた男たちが一斉に、僕に向かって飛び掛かる!
「悪くないけど、良くはない作戦だったね」
その場にあった太い木の棒を拾い、一人の男の横腹にぶつけた。気絶させない程度、あざにならない程度、でも悶絶ははするぐらいの勢い。
「ぁぐあ!?」
「問題はナッシングってね」
空いた隙に、空いた男の隙間からするりと抜け出した。
「ははっ、ふざけた野郎や……っ!」
土を蹴る。一気に距離を取る。
「は、速い!」
「こんなの追いつけへんて、畦道さん!」
畦道の手下たちとは一瞬で距離を取れた、だが一人だけついてきている。
言うまでもない、畦道だ。
彼はまだ僕のことを根気強くついてきている。流石はリーダーを名乗るだけあるというか、純粋な運動神だけでなく、精神力も相当鍛えられている。
「……っと、もしかしこれもアンタの罠か?」
ある程度走ったところで、僕は止まった。
止まるしか選択肢はなかった。
……なにせ、僕が逃げた先にあったのは断崖絶壁であったから。先にはあるのは壁。
登れるはずもない。
袋小路。
これを登るのは中々厳しいだろう。
崖を見てから、踵を返し振り返る。そこにはやはり畦道が立っていた。それと一緒に四ターン目が終わるバイブレーションが響き渡る。
周りには他に生徒一人もいない。
居るのは、僕と、畦道だけ。それだけだった。
「君は中々やりおる。あの包囲網を抜け出すことが出来るなんて、思ってもいなかったで……流石にビックリやったわ」
風が吹いている。僕と彼の髪が、それぞれ靡いていく。
「アンタも中々やるね。作戦は正直お粗末なモノだったけれど、僕の脚の速さについてこれる高校生は……そう居ないよ」
「同じ気持ちや。オレの脚力を超えたるヤツは、そういない」
二つの双眸が交錯する。
一切の気の緩みも許さない、そんな状況だ。
「……」
風が強くなっていく。空が暗雲に埋め尽くされる。
……さて、そろそろ終わりに持っていくとするか。残りターンは二つ。
五ターン目と六ターン目が残っている。
残された二つの時間で『何をするか』の構想を頭に思い浮かべる。
僕たちが勝利するのに必要なピースはあの一つ。
……ではさて、最終工程を始めよう。
「なあ、畦道。アンタは僕を何だと思っている────?」
畦道クンに対して、一つのクエスチョンをぶつけた。




