27 本番はここから
時間は少し遡る。
僕がまず、すべきだと思ったコトは略奪者の仕様についての理解であった。
だからわざと僕は他の生徒たちが居るところで、『ようやく百ポイントを超えたぞ!』なんて嘘をついてみたのだ。馬鹿がその罠に引っ掛かってくれて、僕に一度きりの略奪者の力を使ってくれた。
「あ、れ……?」
それで検討がついた。略奪者はある条件を満たすとポイントを奪えない。『奇数のポイント』か『一定数のポイント以下なら』のどちらかだ。
大方、奇数だからという理由だろう。
つまり、ポイントを奇数に調整さえしていれば略奪者から奪われる心配は無い。それから僕はPカプセルを集めることだけに専念した。
決して能力を使いはしない。
合計で集めたカプセルの数は、全部で43個。これで何ポイントになるかはわからないが……これぐらいが丁度いい。
それから三ターン目序盤、僕はある地点へ向かう。事前に落ち合う場所を決めていたのだ。その場所に着くと、すでに彼が待っていた。
「待たせたか、古林」
「いいや、待ってない。が、オレはクラスが勝つために何をすればいいんだ?」
広岡が退去処分になってかなり経ち、彼は自分一人でもやっていけるような心持ちに変化していた。成長していた。
「そうだな。ここに未使用のPカプセルが沢山ある。────ここから指示する方向にいる冬樹原たちの所へ運んでくれ」
「……? なぜ冬樹原という疑問はともかく。なぜ彼女らの居場所が分かる?」
「事前にどこのルートに進むか確認した。それだけで話は済むかな?」
「なるほど。用意周到だな」
「どうも。ああ、それと……」
冬樹原あての伝言をお願いする。
「うぅむ、よく分からないが了解した。取り敢えず、この大量のカプセルを冬樹原のところへ運べばいいんだな? それとあれを伝えれば良いんだろう?」
「まあ、そういうことになる。最悪、冬樹原が見つからなかった場合は他の生徒でも構わないよ」
「了解した。じゃ、また……試験が終わってから会おう」
「あ、待って」
ふと思い出して止める。わざわざこんな重い仕事を引き受けてもらったのだ。
「あとで何かお礼するから」
それぐらいはしなきゃ、いけないだろう。当然だ。
「……そうだな。ならば、そのお礼は第三高校一年二組から犠牲者を出さない、という形で頂くことにする」
それだけを言い残して、彼は去っていくのだった。去る者は去り、また別の男がココにやって来る。
僕はわざわざ静かにその男の到来を待っていた。
三ターン目が終わる間近。既に僕の行動時間は終わっていた。だからその場に立ったまま、一歩一歩と近づいてくるその男を凝視する。
態度も、口調も、全部を整えて見据える。
「どうやら、一番会いたくない人物に会ってしまったようだよ」
「ははっ、テメェ……その草食動物みてえな顔によらず、随分と好戦的やんな……そういうヤツをオレは望んてたんやで、ははっ!」
その男は、そう、第四高校の現リーダー、アゼミチであった。
彼はどうやら怒っている様子だ。
鈍感で人の感情の起伏があまり分からない僕でも、それは分かった。
“彼はどうしようもなく、怒っている”のだ。
「ねえ、なんでアゼミチ君はそんなに怒っているのかな、僕はとても疑問に感じているよ」
「ぬかせ。君やろ? オレの行く手にあるPカプセル全てを、後片もなく回収したのは……おかげで苦労しとるで。まだ"""ゼロポイント"""や。コッチの作戦は成功したが、これじゃあオレがダメや」
作戦というのはまあ、冬樹原たちのことだろう。
襲われるのは運動神経が比較的鈍い彼女だと確信していた。彼がエオンで僕を攻撃してきた、あれが決定的な証拠である。
狭間北に目を付けたとフリをしておいて、別の人物を狙う。
分かりやすいフリ。
その時点で作戦は見抜けたも同然だった。
「僕が君に仕掛けた張本人だって疑っているわけ、だね」
まあ、そんな“どうでもいい“フザけた解説はともかくである。話を戻そう。
「ふむ、なら期待に応えられそうにないな。だって有り得ない。アゼミチ君が見つけるはずだったPカプセル全ての回収なんて、一人でやるにはあまりにも無謀すぎるだろ?」
手を広げて、そう主張する。
「そんな言い訳通るわけあるか、アホ」
ダメだった。
「なんでオレがここに来るのをわざわざ待ってたんや。煽るためか? ……返答次第では、君が満足するまでオレがボコしたるけど」
「そりゃ勘弁ってやつだよ。僕は暴力反対派でさ」
「……っち」
「因みに聞くけどさ、もし僕がそれらのことを全てやったとて、キミはどうするつもりなのかな。そのままだと君は退去処分になってしまう。僕をボコすなんて無駄なことに貴重な残り二ターンを使うなら、なおさらだよ」
「うるせー」
そこで、アゼミチが言葉を遮る。
「君のもっとるそのPカプセルを奪えばいいだけの話や」
僕が残しておいたカプセルに、彼は目をやる。
「もう使っているかもしれないだろ?」
「オレはかなりの速度で森を進んで来た。その速度を超えるには、純粋な運動神経と効率が求められる。一々カプセルを拾って、開けて、QRコードを読み取っとる暇なんて無いに決まっとる。だからそれはまだ、未使用のPカプセルや」
……流石に四高のリーダーをやっているだけはある。
それぐらいは手に取るように分かるのだろうな。作戦はザルだけど。はは、冗談はよして僕は息をのんだ。ここから先が肝心だからな……試験は、今から始まるといっても過言ではない。
「さあ狭間北。オレをもっと楽しませてくれや」
「悪いけど、その誘いにはのれないかな」
スマートウォッチから長いバイブレーションが響き渡る。
ついに始まった、四ターン目が。
「いくでっ!」
まず第一撃として飛んできたのは────、素直な右ストレートだった。ここで姿勢を低くしては持っているカプセルを落とす可能性がある。
だから優しく、最低限の衝撃で後退する。
「まだまだあッ!」
追撃が飛んでくるので、右、左、とテキパキ避けてから……距離をつめてくる畦道の右足を、僕の左足で引っ掛けて転ばせた。
「ぐっぁ! おいおい……中々やるやん」
「だろ?」
彼が転ぶのを確信してから、距離を取ろうと畦道に背中を向けて走り出す。このままカプセルを抱えたまま正面から彼とやりあうのは、あまりにも不利が過ぎる。
それは負けます、ごめんなさいと言っているのと同義だ。
取り敢えず距離を取って────っと! 後ろから石が飛んでくる。
投石攻撃か。
「っち、当たらねぇか」
逃げる逃げる逃げる、僕は自分のスタミナが許す限り走り続けた。まだ四ターン目は始まったばかりである。




