26 作戦
二ターン目は特に何事もなく終わった。
総ポイント数96。カプセル集めに集中しすぎて、肝心のポイントの受け渡しが間に合わなかった事が、唯一の気掛かりというか失敗である。
やはり一ターン二十分というのは短い。
試験で行動できる範囲が相当広いこともある。
ただでさえ時間が少ないのに、更に散策しなければならないマップが広いのだから、そりゃあ大変という話である。
ワチは零野と大人しく、三ターン目の始まりを待った。
このままいけば、無事に試験を終わらせる事が叶うだろう。
……でもそんなフラグを建ててしまうと、足元掬われる可能性だってある。
細心の注意をすることに、変わりはない。
「よし。三ターン目開始だよ、猫犬ちゃん」
「三ターン目も変わらず頑張っちゃいますかっ!」
三ターン目の始まりは、二ターン目と異なり森の中、奥深く。野生動物などが出てくる危険性もある。
「猫犬ちゃん、ここら辺は森深くて危険なところもある。慎重に進んでいこう」
「え? でも、そうすると……ポイントが集められないのじゃ」
「スピードより精度を重視する形でいこう。見落とさないように、慎重にね」
「なるほど!」
三ターン。時間にして一時間。そう、一時間もかけてワチらは森の深くへ進んできた。
だからここら辺一帯には生徒が見当たらない。やはり最初の方で猫犬ちゃん……零野とタッグを組んでよかった。
最後の方に誰にポイントを受け渡すか探しても、この感じだと、見つからないなんて可能性だって、十分に存在した。
「そうなるとワチは結構な幸運だったのかな」
「なんて?」
「なーんでもないよ、それより先ずポイントの受け渡しだよ」
「あ、そだネ。二ターン目間に合わなかったもんね! モンスターね!」
木々が高く、草は生いはいる。陽光はまともに葉を通すことを許さず、中は暗がりに包まれている。
「まずポイントを渡すから……えーと、90ポイントだね」
先程と同じ手順を辿る。
「……これで完了かな」
「ひゃ、ひゃくろくじゅうポイント……!」
これでワチのポイントが6ポイント、零野のポイントが160になる。
「うぅん。でも、どれぐらいポイントを集めりゃいいかなあ。オウロウチーがどれぐらい集めているか分からないし……難しい問題だ」
「って、フユッキーっ!」
「え?」
刹那とさえ比喩不可の刹那の刻。零野の大声で、ふとワチが顔を上げて、その光景を目にした。大量のおそらく四高であろう生徒たちが────レノレノを取り押さえる、その光景を。
「きゃあ、私っ!?」
「……は、え?」
数人が零野を取り押さえ、一人の男が“トランシーバー“を使い誰かと通話している様子だった。
「──さん、ええ、捕まえました。これでオレらは安泰ですよ」
そう言ってから、トランシーバーを下げて、
「悪く思わないでな? 襲わないだけマシって話や」
一人一人の男たちがスマートウォッチの側面ボタンを押し、レノレノの肩に触っていった。それが余程嫌だったのか、零野が叫ぶ。
最後の一人が行為を終えたかと思うと、そそくさと走って逃げて行った。
……一体なんだったのか。
それにトランシーバーって……どこで手に入れたのだろう。
確かに持ち込みは禁止でも、使用は禁止されていなかったけども。ただ“偶然“試験会場にあったトランシーバーを使う分には、問題ないのかもしれないが。
って、そんなことよりも。
「猫犬ちゃん、大丈夫……?」
ワチは忙いで、地面に泥まみれで倒れる彼女の前に屈む。
倒れる零野を起こす。
「う、うん。別に泥まみれになったのは……かなり退去処分になってほしい案件って話だけど、それ以外はなんとも……って、ちょっと、待って」
「どうしたの」
零野は顔面を蒼白させ、スマートウォッチの画面を一瞥した。
そこにはポイント数『5』と、だけ表示されていた。
「あれぇ……わ、わたしの百六十ポイント、は?」
彼女の声は震えていた。啞然としている。
「くそっ、五人とも略奪者って……フザけた作戦だね」
160が一気に5に変わってしまった。あの場に居た男らは五人だった。略奪者という役職は、相手の総ポイントの二分の一を奪うという力を持っているので────全員が略奪者だったということになる。
これがアゼミチの言っていた────作戦か。まさか『レノレノと私』の“二人“が標的だったなんて。“予想“は外れてしまったらしい。しかも噓だったときた。
まんまとハメラレタ。
『後悔時すでに遅し』。
ちょっとした不注意でワチらのポイントがほぼ全部無くなってしまった。いくら後悔したところで、もはやその事実は覆らない。
……くそっ。なんてことか。これは悔しいなんてモンじゃ言い表せない。
「ワチのポイントは6、猫犬ちゃんは5ね……はは、これは笑い事じゃ済まないかも」
二ターン分のポイントを失った。ここから巻き返すことが可能なのか、どうか。……どうする? クラスメイトの他の平凡者を探すという作戦、見つからない可能性もある。
じゃあ今からペースアップして、ポイントを稼ぐ?
無理だ。ただでさえ体力のないワチには、いくらなんでも無理難題すぎる作戦である。じゃあ他にどんな作戦があるっていうのか────。
ワチは考え、だが行き詰る。
気が付けば随分と時間が経っていて、三ターン目が終わり間際に迫っていた。
「……あは、もしかしてコレって詰みってやつかな」
だがまだ終わってはいなかった。久しぶりに絶望を見た瞬間、しかしまだ活路はあったらしい。二度目、今度は別の意味で零野が叫ぶ。
「って、フユッキー……、フユッキー!」
「え?」
森の中から、一人のクラスメイトが現れたのだ。
「よ、ようやく見つけたぞ。はあ、はあ……冬樹原」
名前を古林王。あの北ちゃんの友達であった。
「なんでキミがこんなトコに、って……なにそれ」
「いや、冬樹原に渡せと」
「誰からの?」
「狭間北から、だ」
驚きの連続だった。
だって古林は抱えていたのだから、……未使用のPカプセルを22個も。
わざわざ持ってきたのだ。
それから彼は、汗をかきながら言う。
「それと冬樹原に伝言がある」




