25 初動
「総ポイントは……ええっと、26ポイントか」
案外少ないと、ワチは思った。Pカプセルで得られるポイントは同じではなく、カプセルによって大小あった。どうやら草むらの奥や、崖の上などにある取りにくいカプセルのポイントは高い傾向にある。
時々苦労して手に入れたカプセルで低いポイントしか貰えない事もあり、イラついちゃうけれど、我慢我慢。
ここら辺は運を味方につけないといけないからね。
「残り時間は、ってあと十二分……早いな」
ワチとオウロウチーは、北ちゃんが取り決めた勝負のルールの関係上……役職は“平凡者”に固定されている。
偶然近くにクラスメイトが通ったので、呼び止める。
「ちょっと待ってよ」
「なんで。ナンデモ。どうも、ナン〇ャモです!」
「いや違うから。ねえ、猫犬ちゃんの役職って平凡者だよね?」
通りかかったクラスメイト。こんな動く試験でも変わらずの、金髪ツインテール少女。零野礼之だった。偶然にも猫犬ちゃんが通りかかったワケだけど、あまり嬉しくはない。どうせなら接点のないクラスメイトの方が良かったなあ、と思う。
思ってしまう。
「そだけど、それがどったの? ってあー、そっか。なるほどね。王楼地ちゃんと勝負するだとかなんだとか、話していたよね! トーキングってたよね!」
「そういうことさ……」
「で、それがどうしたの? 私にポイントをくれるの?」
「まあ、そうしようと思ったけど。どうせなら一ターンギリギリまで集めたい、だから一緒に行動しない?」
ワチにしては大胆な選択だな、と自分で思った。
「ええ、フユッキーユッキーにしては大胆だね。そうだね?」
「そうだね」
猫犬ちゃんもそう思っていたらしい。
やっぱりそうだった。
「まあ別に一緒に行動するのは構わないけど、別にあ、あんたのことが好きってわけじゃないんだからねっ!」
「はいはい……」
「行動するのはイイケド、でもでもでも、ちょっと見返りが欲しいっていうか。私の姿を見ているスパチャが欲しいっていうか」
はあ、相も変わらず脳がないというか、彼女は随分と現金な女の子である。
「猫犬ちゃん、好きな食べ物ってなんだっけ」
「そんなの決まっていますよ。みんなの愛ですよ。……てのは、嘘なんです」
「ちゃんと」
「お高いお肉ッ!」
「お高いお肉が食べたいのね、分かったよ。じゃあこの試験が終わったら、高いお肉を奢ってあげる」
まじ? まじですか? と目の前で大興奮するレノレノ。嬉しいようで良かった。でもそれをするためには……。
「でもお肉を奢るためには、ワチと猫犬ちゃん。どっちもこの試験で生き残らなきゃいけなーいけどネ」
「た、確かし……頑張ろう!」
「うん、元気だね」
「高級お肉にかけて!」
そういうわけで、ワチは零野とタッグを組むことにした。それが吉となることを願いたいけれど、果たしてどうなるか……。
でも悩んでいる時間はない。
ワチらは残り時間十分弱を必死にカプセル集めに充てて、とにかくポイントを集めた。崖を登って、川を渡って、サバイバル生活をしている気分だった。
汚れるのは嫌いだが、悪くない。
「はあ、はあ、はあ……つ、疲れた。疲れすぎちゃったのですがッ!」
大きな崖を登ってカプセルを手に入れ一段落した時、両者のスマートウォッチが大きく振動した。
一ターン目終了一分前を知らせる短いバイブレーションだ。一分後、ここから二分間の全員強制の休憩を挟んでから、次のターンが始まる。
一ターン目が終わる前にポイントの受け渡しを、手短に済ませよう。
「あ、時間」
「このペースだと、思ったよりポイントを集められないかもね……うーん」
二十分の一ターンで手に入れた総ポイントは64ポイント。崖上にあったPカプセルが10ポイントだったので、それが大きい。
ポイントの獲得が容易な代わりに、二人分ポイントを集めなきゃいけないから……効率は実質変わらない……ポイント集めが捗ったとはいえないだろう。
「取り敢えず、54ポイントを猫犬ちゃんに渡すから」
「おお!」
互いのスマートウォッチを近づけあって、側面のボタンを押すと……両者のディスプレイに光がともった。それぞれのディスプレイで相手に何ポイントを渡すかを選択できる。なんと十ポイント刻みでしか出来なかったので、取り敢えず50ポイントを受け渡すことにした。
レノレノ側からコチラへは、当然ゼロポイントだ。
「お、これで承諾すればいいのかな……?」
「多分ね」
ディスプレイの表示通り進み、無事にポイントの受け渡しに成功した。ワチの総ポイント数はこれで14になる。どうやら零野は元々20ポイントを持っていたらしく、70ポイントになっていた。
「うおぉ、私、億万長者になった気分です。人生ゲームで勝ったとき以来の感動だよこれえ!」
「……そ、そうかな」
まず人生ゲームで勝つって、そんなに喜ぶことなのか。ワチがちょっと冷めているだけなのだろうか? そうかもしれない。
まもなく一ターン目終了を告げる長いバイブレーションがスマートウォッチから発せられる。二分間の休憩タイムをどう使うか。
「ここは見晴らしが良いし……やっぱり、辺りを見渡しておくことが最適解かな」
「え?」
「いや、二分間の休憩タイムを有効活用しようと思ってネ。崖の上で、一番良いのはやっぱり高いのを利用した、展望かなって」
「なるほどね、あったまイイ!」
だから私はその場から動かないで、見える範囲の辺りを見渡した。出来るものなら、この状態で何個かカプセルを見つけたり、場所の目途をたてておきたい感じだ。
「んー、展望ね。景色は確かにイイケド、なーんも見つからないね!」
「ここでカプセルを見つけられたら大きいのだけど、でもカプセルは小さいし、ちょっと離れた所のものでさえ、見えたとしても豆粒ぐらいの大きさだろうね」
それにこんな所からでも見つけられるカプセルに、大量のポイントが入っているとは到底思えない。
だから、やっぱり。
「やっぱり地道に探していくしか、道はないのかな」
そうなのでしょう。
分かってはいたけど、めんどくさい。
「いーやーだー」
「頑張ろ、フユッキーユッキ―っ!」
「まあ、そだね」
二ターン目開始の合図でもある長いバイブレーションが、スマートウォッチから伝わってきた。結局、大した成果は得られなかった。
皆無に等しいかもしれない。
だが、なんとなく先の地形は把握できた。不幸中の幸いとはちょっと違うけれど、最低限は把握できたので助かった。
「とりま二ターン目も、散策に精を出そう」




