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22 アゼミチ


 彼は見た目の通り、好戦的なヤツだった。

 本気にさせる強敵が第三高校にいるのかどうか。

 それこそが畦道が知りたかった情報────まるで試験で負けないのは、前提のように彼が語る。


「四高には芯のあるヤツが数人しかおらん。ソイツらもオレをリーダーだとまくしたてて、戦いをあまり好まん。暁も何や戦おうとせん。つまらない集団や」


「へえ」


「だがオレは戦いが好きや。戦うことでしか、人は学ばない。……四高は駄目、それで次の目星になったのが今回の試験でぶつかるお前ら作高ということ」


 そこまで言ってから、彼が先制する。


「どうや、オレの相手になるヤツが作高にいるのか。それを教えてくれるんやったら、少し作戦を教えてやっても構わねえ。そうでもしねえと、相手にならんしな」


 中々面白いというか、確かにウィンウィンの提案だ。

 まあ何を以て彼に対する強敵となるのかは知らないが、頭の回転力で言ったらやはり……隣にいる冬樹原になるのではないだろうか。


 そうだと思う。

 それぐらいしか知らない。


「そりゃあいい。なら教えてあげるけど、君の相手になる存在っていえば……そりゃあ彼だよ。影の最強、世界の覇者、粘着質のラブコメ作家アンチ」


 僕が彼女を推薦しようと口を開く数秒前、先に彼女が推薦してきやがった。許さんぞ冬樹原、僕を面倒ごとに巻き込むなよ……!


「ホンマか?」


 そう言って自分のことを一瞥してくる。

 圧がやばい。

 潰されそうだ。


「残念ながらそれは嘘だな。僕は弱い。つーか、同じ土俵にすら立てないだろうさ」

「っち、ほな弱者の君に聞くが……誰が俺に相まみえる存在だ?」


 別に迷う必要はない。


「古林という男がいる。彼はまさしく陰の最強だと、僕は思っている」


「はー、まだ冬樹原のよりは信憑性があるな。古林……ね、覚えたぜ」


「分かってくれたか?」


 勿論これはデタラメだ。古林には悪いが、彼は別に有用な人間ではない。全くもって、何の間違いもなく“そうだ“と僕は断言出来る。


「いーや、信じているわけじゃねえ。候補に入れただけや」


 信じてもらわなくて構わない。候補に入れてもらっただけでも有り難い。この豆を撒いておくことで、試験の時に無駄な所へ彼の意識を割かせられるってわけだ。

 これでいい。


「信じてもらう為にはどうすればいいのかな、畦道クン」


 冬樹原が僕の代わりに、そんなことを聞いた。

 途端だった。


「オレはソイツの実力で目で見て確かめる。それ以外じゃ、信じることはあらへんよ」


 彼は最低限の体の動きで力を右拳にのせ、全力で僕の顔面へ向けて殴りかかってきた。刹那の出来事。姿勢を低くして拳を回避し、更に突き出た畦道の右腕をがっちりと、左手で掴み固定する……っ!


 畦道がニヤリと笑う。


 ……っくそ、罠かよ。


「狭間北クンだったか?」


 あの一瞬の攻撃に対応、更には反撃に転ずることの出来る生徒は少ないだろう。そんなことが出来る人物こそ、畦道が求めている人材だ。敵だ。……そして、僕はそれを見事に、最悪なことに彼にソレを魅せてしまった。


「そうだけど」


 彼はまるで獲物を見つけたように気味悪く僕を見つめる。まるで、君は悪くないんやでと和ますかのように。だがそんなの僕にはどうでもよく、ただただ罠に引っ掛かってしまった不甲斐なさを嘆く。


「覚えとく」


「……勘弁してくれ。僕は不戦主義者だ。それから不戦を破ったヤツには付箋を付ける主義者だ」


「はっ、良い威勢や」


 僕が彼の腕を離す前に、彼から拘束を振り払ってきた。

 両者とも一歩後ろに下がる。


「じゃあこれで、狭間北クンが強いことは理解出来たでしょ? 教えてよ。……君たち四高の作戦を」


「はっ、そんなの本当に教えるわけないやろが。って言ったらどうする、つもりなんかね君は」


「もしそうなったら、そだね。ワチが今回の試験を小説のネタにならないような、全くもって楽しめないような、つまらない試験に仕立ててあげるよ」


「それは確かに堪忍してほしい所やな」


 畦道が苦笑する。


「まあいい。今の俺は見つけられて気分が良いからな。教えたるわ」


 とはいっても、信じるに値するかは分からない話だ。あくまでも話半分で聞いた方が賢明だろうな。


「オレらは、君ら作高の中からある人物一人をハメ殺すつもりや。アンタらはその人物を予想して守ってやることやな。じゃあないと、ソイツが退学することになる」


 やはり'そういう'作戦。


 つまり今回の勝負は……第三高校一年一組は関係なく、一年二組と第四高校一年一組との勝負が見どころになるってことだろう。

 ……若干だがやりごたえがありそうで、ワクワクしてくる。


「これだけでも十分やろ。言っとくがこれは真実だ。信じるかどうかは、アンタら次第やけどな」


 そこまで言って、それから彼は、

「ああ、あと。レノレノ。二度とオレに連絡してくるな。ナンパした俺側が悪かったと思っているけどな、君みたいな鋭い観察眼の女の子は好かん」


 そんな言葉を残して、この場を去っていくのだった。


「ハメ殺すって、なんかエッチだよね」


 彼が去ってから、レノレノが囁いた。悪いけど今はそんな妄想に興奮するほど、僕には余裕がない。


「いいや、恐ろしいよ」


「え、なんで?」


「だってハメ殺すってことは多分さ……ソイツが絶対に退去処分、つまり最下位、つまりゼロポイントになるように画策してくるってわけだろ? そんな策、恐ろしい以外思わないだろ」


「な、なるほど……たそかにTV!」


 何を言っているんだコイツは。


「まあ、指針になる情報は得られたね。当初の予定とは随分変わってしまったけど」


 少なくとも偵察ではなかったな。


「それはそうだ。石山流には早めに伝えた方がいいだろうな」


「うん、試験まで時間は無いからね」


 というわけで、僕たち奇天烈三人組の偵察は無事に終わった。レノレノが今回得た情報を電話で石山流に伝達する。面倒な事案も増えたが特に問題ではない。

 未だ心残りがあるとすれば、なんだろう。


 ……レノレノの言っていた、この試験が『ふざけている』って話だろうか。それとも四高のリーダーが僕たち三高に宣戦布告してきた張本人ではなく、そのツレだったという話だろうか。


 アゼミチの他にも一人、気になる人物がいた。


 だが、それぐらいだ。特に問題はない。ないはずだった。

 気が付けば時間は過ぎ、試験当日・木曜日になっていた。


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