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21 偵察ミッション!?


 四番地区にある商業施設エオンを歩く。


「もうすぐで試験かいな~」


 ふと。紬姿をした青年の集団が、僕たちの横を通り過ぎていった。

 袴姿に方言……彼らは間違いなく第四高校の生徒だろう。


 こっちには一瞥すらしてこない。


「どうやら、バレてないみたいだね。狭間くんっ」


「……うむ」


「でも、おかしなルールがあるもんだね。四番地区って」

 零野が僕に耳打ちする、


「四番地区の商業施設等に入るには、着物姿でなければならない。って、とんでもなくフザけているとは思わない?」


「確かにな。このルール、冬樹原は知っていたのか?」


「もちろーん」


 ……今の僕たちはこの商業施設を慣れない“着物姿”でよそよそしく歩いていた。群青色の紬を着る冬樹原。黄色の派手な色をした紬のレノレノこと零野。

 白の紬と黒の羽織を着る僕。

 着物なんて狭間北の人生十五年間で一度も着る経験がなかったもので、とても新鮮な気分になれる。


 ああ、これはこれで良いな。


「にしても似合ってるね、二人とも。良かった良かった」


 この着物たちは全て、冬樹原が事前に用意していたものである。わざわざ店で借りてきたらしい。用意周到を越えて、流石だな。

 サイズは予想し念のため、メイン三着の他にも数着畳んで持って着たらしい。


 幸い、その心配は杞憂で終わったけど。

 この用意の完璧さには、凄いというほかない。


「じゃあ偵察についてだけれど、まずは生徒が集まるであろうカフェに行ってみる予定だけど。いいよね?」


「ああ」


「ちょっと待って」


「どうしたの猫犬ちゃん」


 レノレノには意見があるらしい。


「そんなことより、もっと効率的なものがあるよ」

 というと?


「それはずばり、第四高校一年のリーダーをいま、ここに呼び出す」


 というと、それは所謂敵の本拠地なわけだが。……おいおい、大概にしてくれよな。いくらフザけている人間でもその作戦というか案には、ノーって言うぜ。

 言うに決まっている。


「確かに、ナイスアイデアだね」


 決まっていなかった。


「本気かよ冬樹原。これじゃあさ、偵察じゃなくなる」


「そっちの方が得なら、そっちにするまでだよ」


「いやでも、リーダーをここに呼ぶって言ったってさ、具体的にはどうするって話」


 ふと、レノレノが僕の肩を叩く。


「大丈夫! 安心安全アンド安堵するのです。私が“リーダーの“連絡先は持ってるからさ」


「はあ」


 コイツらは何故そういう変な所が用意周到なのか。もしかしてココマデ仕込まれているのか? 僕だけ何も伝えられていないみたいな、ヤツなのか?

 絶対に違う。違うに決まっている。


「因みに聞くけど、その第四高校のリーダーって……誰なんだよ」

 金髪ツインテールが嗤う。


畦道(あぜみち)クンだよ。君も知っているはずだよね?」


 それはちょっと前に、第三高校一年二組の僕らに宣戦布告をしてきたグループの一人だった。どうやら彼がリーダーらしい。



 ◇



「なんや。俺らは試験対策で忙しい」


 電話一本で彼は、ただ一人で、やって来ていた。商業施設『エオン』の  彼の若干の紅髪が風に揺れている。ついでに、こっちを睨んでいる。

 怖い。何か僕やっちゃいましたか?


「忙しいところ悪かったね」


「……ち」


 畦道は前と同じように深緑の紬をまとっている。

 さて、これからどうやって有益な情報を引き出すのか……。

 初手の選択は怖くて、僕は出来そうにない。

 だから冬樹原にまかせた、のだが。


「ちょっとアドバイスを貰いたくてね。君たちに勝つ方法をご教授してほしいな」


 コイツのことだった。ドストレートに言いやがった。


「ははっ、笑わせに来ているやろ」


 だからこりゃ、当然の反応だった。

 爆笑しないだけ素晴らしいかもしれない。


「笑わせようとはしてないよ。ワチは真面目さ」


「冗談ぬかせよ。君は頭ええって聞いたで、それは嘘情報ってことか?」


「それは今、君がワチを見て判断してくれればいい」


 今の冬樹原と、僕は話をしたくないなと直感的に感じた。……なんか嫌だ。彼女は機械的がある。人間性が感じられない瞬間が時々存在するのだ。


 現にこんなフザけた言葉を吐くときでさえ、冬樹原は怖いぐらいに真顔である。


「じゃあ俺も君の真面目にのとっとるが……ああ、ふざけんなや。言うわけないやろ」


 当然の反応である……これからどうするつもりだったのか。


「おい、冬樹原」


「北ちゃんは黙ってて。どれだけ頭が良くても、交渉術が無いとダメな時が、この世にはあるのだよ」


「うぅ」


 レノレノに助けを求めて、ちらと横を見てみる。だが彼女は何も言わずに、すんとしていた。凛としていた。


「まあ隣の彼のことは置いておいてさ」


 青少女が続ける。


「文句なんてワチは聞きたくないのだよ。だから手っ取り早く教えてくれないかな、四高はワチらに勝つために……どんな作戦を立てているのかな」


「……はあ、教えるわけないに決まっとるやろ」


「そんなこと言わずにさ」


「話はそれだけか? なら帰らせてもらうで」


 踵を返すアゼミチに冬樹原は何も言わない。おい。交渉力がなんだって? アンタだってこれじゃあ、交渉力皆無に等しいじゃねえか。

 というか僕より酷いかもしれない。いや、酷いに決まっている。


「ちょっと待ってくれないかなあ」


「なんや」


 彼をこの場に呼び寄せた張本人、零野礼之がまってをかけた。


「せっかくココに来たのに、何も得れずに買えるのは寂しいと思わない? 私なら思っちゃう。寂しいーってなっちゃう」


「何が言いたい。猫犬」


 待ってくれ、畦道もコイツのことを猫犬と呼んでいるのか? 畦道と零野の関係性を僕は知らないけれど、どこまで馴染んでいる呼び名なのか。

 てっきり僕としては、冬樹原が勝手に呼んでいるだけだと思っていた……。


「つまりはさ、わざわざ私の呼び出しに畦道クンは応じてくれた。何か目的があったんじゃないの? って話―」


「なんでそう思う」


「だって畦道クンは、“あれから“何度メールを送っても何も返信してくれなかったのに。試験のことで話があるって言っただけで、バカ素直に来ちゃってくれたじゃん?」


 普通に考えれば、敵から試験について話があると言われても……わざわざ来たりしないだろう。リスクを考えれば、メールや通話のみで連絡するのが最適解だ。

 だがしかし、彼はここに来た。対面した。


 つまりそれだけ、畦道という人間は得られるかもしれない“試験に関する情報“に固執しているということだ。


「それってつまり、興味のない私の呼び出しに応じるぐらいには、試験についての話に価値を感じているってことでしょ?」


 普段のふわりとしたレノレノからは想像出来ない見事な推理だった。もっとも僕は彼女の本質、観察眼を知っているのであまり驚かないが。


「……は」


 彼は乾いた声で失笑する。


「合ってた?」


「ああ、そうや。だがちと間違えとる。俺は別に試験に関する情報が欲しい訳やない。欲しいのは────」


 欲しいのは?


「オレを本気にさせる強敵が、作高にいるかどうかや」


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