20 冬樹原の作戦
そこには、青のパーカーで着飾る見知れた少女が立っていた。
「ほら来たぞ」
「時間ぴったりダネ」
「なんか文句ある?」
「なーいよ」
第四区西公園。僕たちの学生寮前バス停からバスで二十分弱ほどで到着した。……思ったよりも時間がかからなかったな。三番地区が山上街にあるのに対し、第四高校の生徒たちのホームタウン四番地区は山を下る途中にある。
《教職》という職業が設定されている第四高校の住処、四番地区。
失礼かもしれないが、お世辞にも立地が良いとは言えない。そんなこと言い出したら、人工島にある夢泉学園は全部そーだけど。
「で、聞くけど。どうして僕をこんな所に呼んだのさ。試験までもう少しだぞ」
「だからこそだよ」
今回の試験についてってこと?
「試験のことなら尚更ってやつだけどな。僕なんかより、もう既にクラスをまとめる存在になっている石山流を呼べばいいのに」
「北ちゃんじゃないとダメだよ」
「……なぜ?」
明瞭に答える気はさらさら無いようで、にんまりと彼女が笑う。
「北ちゃんが好きだから」
「いくら僕がコミュニケーションが苦手だからといっても、その手の詐欺には引っかからないぞ。やりがい搾取ならぬ好き搾取だ!」
「何を言っているのだい、北ちゃん。ついに頭がおかしくなったの? アタマあった、あら、当たり前」
……何を言っているのか、コイツは! 僕がせっかくギャグにのってやったのに、コイツは僕のギャグをスルーするどころか、更に高度で異次元で意味不明なモノをぶつけてきやがった!
「……ごほん」
意趣返し。僕だって、と冬樹原のボケをスルーしていると咳払いされた。
これはアンタの負けだな! がーはっはっはっ。
「さて話を戻そうか」
いや待て、僕はいったい何をしているのか。こんなくだらない勝ち負けに、どんな意味があるっていうのか!
「率直に言って、ワチらが今からすること。それはね……」
それは?
「四高の人たちの偵察さ」
そりゃまたあ、急な話だ。偵察? あれか、前に四高側から偵察まがいにカフェで喧嘩売られたからか? 売られた喧嘩はしっかり買う。そんなタイプなのだろうか。
「偵察ねえ」
「ワチは北ちゃんと違って普段から、試験に対する作戦や有益な情報はレノレノを介してクラスに伝達しているのだよ。今回もその一環さ」
冬樹原は普段のほほんとしているので、試験なんて王楼地との勝負だけに集中して、クラス全体への作戦は適当にパスするつもりなんだと思っていた。
どうやら違うらしい。
「一応言っとくが、僕だって普段からと連絡を取り合っているよ」
「具体的に言うと?」
「古林、ただ一人」
「じゃあダメだね」
なんでさ。
その時、唐突だった。西公園に聞き覚えのある声が響き渡った。
「……おまたせー、それから登場。どうも。みんなの偶像崇拝対象者。可愛いの中のカッコイイに憧れる。零野礼野です」
そんな時に空気を読まずに、大きな声をあげて猫犬ちゃんが登場する。
白シャツに黄色いカーディガン。
下はジーパン。
垢ぬけた女子大生みたいなコーデだ。
知らないけど。
でもやはり、制服とはまた違った可愛さがある。広岡がこの姿を見たら絶叫していたことだろうよ。
にしても。
「もしかしてレノレノも誘っていたのかよ」
「そだけど、嫌だった?」
「……そりゃそうだろ」
冬樹原がシニカルに笑う。くそ。
やはりコイツ、性格が終わってやがる……! というか終わり過ぎている。
「今日はあの四高? とかいう野蛮人の観察をするって話だったよね? それね、私とても楽しみで明日しか眠れなかったよー……」
そうだった。忘れていた。レノレノも青い悪魔と同じぐらいには、おかしな奴だったわ……ああクソ、本当にさ。
この僕の心の中の嘆声だって、この偵察の組み合わせだって。
本当にふざけている。
「なあ冬樹原、どうやって偵察するかとかは既に決めているのか?」
「もちろんダニョ」
珍しく彼女がそう答える。




