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18 王楼地美優④



 事の顛末を話そう。


 まずなんで彼女、王楼地美優が怒っていたのか。

 その理由は単純だ。

 冬樹原と同様に“現役作家”である彼女が、自分の本だけ書店に置いていなくて、冬樹原のモノだけ置いてあったから嫉妬して、ムカついた。


 ただ、それだけが理由らしい。


 そんなことがあって、王楼地は冬樹原に勝手に苛立ち、最悪なことに僕たちは丁度その場面に遭遇してしまった……というわけである。


 なんて不運だろう。


「そんでね、私の本が無くて、フユッキーユッキーの本だけ目立って置いてあったから────そっちの方が売れているのかあ、ふーん。取り敢えずフユッキーユッキーを殺そうかなって、考えたわけ」


 ショッピングモールのカフェで、いま、僕と冬樹原は眼前の少女から事情を聞いている最中だった。


「ん?」


 若干というかカナリ、彼女の思考回路がぶっ飛んでいるように感じる所がある。類は友を呼ぶってこういうのを言うだろうな。嫉妬から急に殺すに発展するなんて、あまりにもふざけている。


 だがそれよりも異常だと感じるのは、この話を隣で聞いている冬樹原が────何も異常と思わずに納得して頷いていることだ。


 もしかして僕は、とんでもなく恐ろしい世界に一歩踏み入ってしまったのじゃあないだろうか。それに作家志望が集まる高校のくせに、なんで現役作家が二人もクラスにいるんだよ!


「あの、一応聞いておくけど……なんでアンタら、既に作家なのに作家志望が集まるこの第三高校に入学しようと思ったの」


「そりゃあ作家志望なんて奇人が集まる所、行ってみたいに決まっているよね。そんなことも分からないのかい? げえ」


「私は単純に自分の実力を、みんなに知らしめるために入っただけかな」


 うーん、曲者しか居ない。


「まあ今の私はそんなのどうでもいいと思っててね」


 黒髪少女が僕を見て、微かに頬を赤らめる。わざとらしかった。


「なんで?」


「私の本をいつでもカバンに入れているような、信者さんに会えたからね!」


 別に僕は王楼地さんの信者ではないし、本がカバンの奥に入っていたから、わざわざ取り出そうとしなかっただけなのだが……こりゃ言わない方が良さそうだ。


「お待たせしましたー」


「どうも」


 頼んでいたコーナーが届いたので、カップを手に取りゆっくりと嚥下する。


「ま、そゆことで。特別にフユッキーユッキーを許してあげるよ」


「そりゃどうもー……ワチからすれば、怒られるようなこと沢山してきたから、何でキレられていたのか分からなかったし。なんでか知れて安心したよ」


 安心アンド安堵する、ってヤツだな。氷室先生の言葉だ。


「別にまだ怒っていもいいんだけどね。いつでもナイフを携帯しているし」


「奇遇だね。ワチもナイフをいつでも携帯しているよ」


「やる?」


「別にいいけどさ、自分が死んだら誰に推理してもらうの? 誰にオウロウチーは殺されたのか!」


「フユッキーユッキーは気にしなくていいよ、そんなこと。だって死ぬのは君だから」


 喧嘩が始まり、苛烈。その時だった。

 カフェにて、イスが大きな音を立てて倒れた。僕が座っている椅子である。


「……なに北ちゃん」


 無意識に、僕は立ちあがっていた。

 大きな音を立ててしまった所為で受ける周りからの視線が痛い。


「喧嘩はやめよう。よくない」


 心臓がバクバクと全力で音楽を奏でている。胸が苦しい。注目を集めていて、辛い。だけど頑張って声を振り絞り喧嘩を仲裁した。


 ……はあ、なんで僕はこんな目に遭っているのか。


「それよりもさ、喧嘩なんかよりもさ、するべきことがあるだろ」


「というと?」


 それはなんだ? 試験でどのように立ち回るかの作戦を立てる? 否。優劣つけるのには、今回のテストは絶好の機会なのだ。


「決まっているだろ」

 もはや言うまでもない。


「冬樹原と王楼地。どちらが優秀なのかを決める────勝負だ」


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