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15 王楼地美優


 放課後。


 氷室先生により開示された『学園通学資格維持試験』の作戦を練ろうと、早速レノレノと石山流を中心とした話し合いグループが作られていた。


 彼女が異端者である事に間違いはないのだが、それでもあのコミュニケーション能力には目を見張るものがある。


 ……僕にはない力だ。

 やはり、レノレノみたく配信とかしてみようか?


「レノレノの話術が羨ましいのかい?」


「違う」


 隣の青悪魔は珍しく姿勢正しく腕を組み、椅子に座っていた。


「僕はただ、これからどうしたものかな……と考えていただけだよ」


「ふぅん。じゃあまだ、このふざけた試験(ゲーム)に対する攻略法は考えていないと。本当かどうかはともかく、デスゲームを生き抜いた男なんだから、こんな簡単なゲームちゃちゃっと攻略法を編み出してほしいものだけれど」


 なんだろう。当たり強い気がするのは、気のせいか?


「いやいや……思い出してくれよ。言っただろう? 僕は平凡、ってさ」


「ふぅん」


 二度目の『ふぅん』頂きました。


「ま、北ちゃんはつまりまだ無策ってワケだ。全くもって」


「残念ながらそういうことになるね。あ、言っておくけど僕は変なところで見栄を張ったりなんかしないから。安心してほしい」


「げえー。そういう変なところで保険をかけるから、北ちゃん汚いって言われるの。ちゃんと理解してる?」


「そんなこと言われたことないぞっ!」


 もしかして陰口で言われていたりするのか? 僕が汚いクソ野郎だ────なんて、言われていたりするのか?


「ともかくさ、要するに北ちゃんは“まだ何もしない”ってことでしょ?」


 声は出さずに静かに頷く。

 ただ返答するのが面倒くさかったからだ。

 噓である。


 先程の、僕が陰口言われている説を頭の中で駆け巡らせて、それから悲しむのに忙しかった為である。


「にひひ、北ちゃんに会わせたい子がいるのだよー」


 彼女の口から出てきたのは、なんとも驚くに値するモノだった。


「僕に会わせたい子……? まさかフザけたレノレノみたいな輩じゃないだろうな」


「違う違う。猫犬ちゃんじゃないよ」


「じゃあ誰さ」


「ワチの友人にして、相棒にして、天才にして、クラスメイトでもあり、極度のボッチ────王楼地(おうろうち)美優(みゆ)だよ」


 ……クラスメイトだと? 確かにそんな派手な名前の子は居た気がする。あまりにも派手というか特徴的過ぎて、入学初日に覚えた名前だ。

 嘘だ。またしても名簿を見ていま確認した。


 にしても、まさか彼女の友人がこのクラスにいたとは……。


「なるほどね。なんとなく分かった。でもさ」


「なんだい」


「もう入学してから一週間半ぐらい経つけど、まだ一回もアンタが王楼地さんと話している場面……見たことないぜ。友人なら少しは話すもんじゃないのか?」


「それはね、理由があるのですよ。ねえ」


「りゆう?」


「ワチとオウロウチーは、絶賛喧嘩中なのです」


「えーっと、つまり?」


 冬樹原が決め顔で僕を見る。まるで魅せてきている。


「彼女と仲直りして、ワチがタッグを組めばそりゃもう負けなしの頭脳が完成するのだよ。つまり北ちゃんにはオウロウチーと会って……それからそれから、ワチとオウロウチーが仲直りする、仲立人になってほしいってわけ」



 ◇



 あの後、レノレノや石山流から作戦会議的なモノに誘われたのだが断った。僕が何かを言わずとも彼女たちならば作戦を立てれるだろうし、僕がクラスにおいて発言出来るほど高い立場にいるわけでもないからな。


 ……それに第一、あの試験は団体戦の形をとっていない。アレはただの個人戦競技だ。必要なのは自分たちのクラスの人たちがポイント集めを効率的に行える作戦じゃない。

 どうやって相手クラスにゼロポイントの最下位を作るか、それこそが重要なのである。


 四高の生徒にゼロポイントを作ってしまえば必然的に退去処分を受けるのは、ソイツになる。そして一ポイントでもあればペナルティは一切受けない。


 つまりこれはポイント集めの試験などではなく……『相手をどうやってどん底に落とし込む』かの試験なのである。

 ……なんてことを、心の中で考えながら。


「北ちゃんはね、ただ仲立人としてワチらの友情がは瓦解しないように最善の努力をしてほしいのダニ」


 僕は彼女と高校を出てすぐの道路を歩いていた。


「おい冬樹原。僕はまだ仲立人を務めるなんて、一言も言ってはいないからな」


「ん、言っていたけれど?」


「言っていない。言っていたのは、アンタがラブコメ作家ということだ────。

 実際どんなラブコメを書いているのかなんてのは、聞いていないが」


 仲立人。誰との間を取り持つかと言えば、どうやら冬樹原の友人? らしいクラスメイトということ。名前を王楼地(おうろうち)美優(みゆ)。クセが強くて、覚えにくい。


「っち。そんなことは今話してないのだよ」


 話を逸らそうとするが、失敗。


「まあ、そんなにワチがラブコメ作家である事が衝撃的で、それから内容が気になるのだったのなら本屋にでも寄っていこうよ。たぶんワチの本が売っているから」


「そりゃあいい。でも“にでも寄ってから行こうよ”なんて言い草だと、まるで僕たちがこれから、どこかに向かうみたいに聞こえる」


「そりゃあその通りだからね」


「……え、そんなの一欠けらも聞いていない話なんだが」


「そりゃあ、その通り。言っていないからね。げえ」


 何がげぇーなのか、意味が分からない。そうしたいのはコッチだぜ? 大きくため息を吐いてから、ポケットからスマホを取り出した。マップアプリを開く。


「本屋に行くにしても、ここから一番ところは……っと」


 奇妙な偶然か。マップアプリが示した最寄りにある本屋は、広岡たちと行ったあの店だった。


「ここか。絶妙な距離だし、ちょうどいいね」


「何が?」


「もち(ろん)考える時間だよー。仲立人として自分が何をすべきなのか、北ちゃんが考える時間が……この距離ならイイ感じに確保出来そうってこと」


「いや、あのな?」


 現在歩いている三番地区第四中央歩道から、徒歩十分にその書店は存在している。

「もう一度言うが、僕はまだ仲立人をやるなんて決めたわけじゃ……」


「あーいい、いい。答えは書店を出てから聞くから」


 さきの山の出来事のように、変なことで迷わないか心配したが杞憂で済んだ。歩いて十五分、僕たちは書店に到着する。ゆっくり歩いたからか、誤差が五分も発生してしまったけれど……まあ、いいだろう。


 学生である僕たちには、時間がたんまりと存在しているからな。


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